EUはバッテリー規制単体というより、工業製品として出荷量が増大し続けるバッテリーの再利用を促進するため規制の大枠を発表し、その中にバッテリーの話が含まれているというのが今回の事のあらましだ。
バッテリーをユーザーの手で容易に交換できるようにすることで、機器の使用サイクルを長くすることが狙いのようで、交換した使用済みバッテリーはリサイクルしてCO2の排出削減や持続可能なデジタル社会を実現したいと考えていると思われる。
施行が2027年からというのは開発に時間がかかるメーカーへの配慮だろう。現在、ほとんどのスマホやタブレット、ノートPCはバッテリーが本体に組み込まれており、ユーザーの手で取り外せないようになっている。よってメーカーは今後、EUの規制に対応せざるを得ないというのが現状だ。
そもそもスマホやノートPCは、なぜバッテリーが取り外せないものが主流になったのか。実は2000年代の半ばまで、携帯電話もノートPCもバッテリーは交換式が主流だった。
バッテリーの組み込み型がトレンドになったのは、製品の薄型化と関係がある。
厳密に調べた訳ではないが、衆目の一致するところ、その始まりはどちらもAppleの製品だ。現在の誰もが使っている形態のスマホ市場を作り出したiPhone、薄型ノートPCという市場を作り出したMacBook Air、いずれの製品もバッテリーはユーザーが取り外して交換できないようになっていた。
なぜAppleがそうしたのか。当時の担当者に話を聞く機会はなかったので、あくまで筆者の推測になるが、おそらく最大の理由はデザインだ。
iPhoneは当時の携帯電話に比べて、MacBook Airは当時のWindowsベースのノートPCに比べて、本体の薄さが際立つ設計だった。
もし交換式のバッテリーを搭載するとなった場合、厚みのある頑丈なケースでバッテリーのセルを包む必要がある。特にリチウムイオン電池はセルに衝撃を与えると発火して燃えてしまう危険性があるため、より頑丈なケースが必要になる。そして、そのケースを包むボディーと……厚みは増す。
しかし、バッテリーセルを本体に内蔵し、製品のボディーでバッテリーも保護する設計にしたらどうか。すると交換式バッテリーの外装で生まれる厚みを節約できる。これが本体の薄型化を実現できるロジックだ。
Appleはこう考えて、バッテリーを交換式から組み込み型にしたのだろう。当時は「(実は筆者もその一人だが)そこまでして薄くしなくてもいいのでは」という声もなかった訳ではないが、薄さを追求したAppleの決断は市場に評価され、他のメーカーも追従した。これが2010年代を通じて市場で起こったことだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.