ここまでグラフィックスメモリの容量と帯域の重要性を長ったらしく説明してきたわけだが、とどのつまり、PCでAAAタイトルを“それなりのクオリティー”でプレイするにはグラフィックスメモリの「容量」と「帯域」にも目を向けないといけないということだ。
話を戻して、PS5/PS5 ProとRadeon RX 6900 XT/7600の描画品質の“差”をグラフィックスメモリの帯域幅という観点で考察してみたい。
先述の通り、GPU自体の理論性能ではRadeon RX 7600はPS5 Proの約30%増しだ。しかし、グラフィックスメモリ(※1)の帯域幅を比べると以下の通りとなる。
(※1)PS5 Pro(とPS5)では、グラフィックスメモリをメインメモリとしても利用している(メインメモリをグラフィックスメモリと兼用するPCのGPU内蔵型CPUとは逆の発想)
先述の通り、現代のゲームグラフィックスでは、GPUが猛烈な頻度でグラフィックスメモリにアクセスしている。「TFLOPS」で表される理論性能値は、あくまでもGPUの演算性能“のみ”を示す値だ。確かにRadeon RX 7600の方が演算そのものは高速でも、演算の結果を書き出す性能と、データを読み出す性能がPS5 Proはおろか、PS5にも全く及ばないのだ。
もしかすると、Radeon RX 7600はメモリの帯域不足のせいで22TFLOPSの性能を生かし切れていないかもしれない。逆にいえば、PS5やPS5 Proはグラフィックスメモリへのアクセスが高速なおかげで、性能を極限まで引き出せているということなのだろう。
Radeon RX 7600のメモリ帯域幅は、最大毎秒288GBとなる。Radeon RX 7600ではL3キャッシュ(Infinity Cache)の容量を大きく確保することで実質的なメモリアクセススピードを改善しているが、それでも高品質なグラフィックス描画には不足があるということだPS5 Proは、Radeon RX 7600のほぼ2倍のメモリ帯域幅を確保している。これは、PC向けの超ハイエンドGPU級だ。Proの付かないPS5でも、グラフィックスメモリの帯域幅は毎秒448GBとなっており、Radeon RX 7600はその64%分の幅しかない。
クルマに例えると、「エンジンの馬力はあるが、エコタイヤを履いている状態」だ。エコタイヤはグリップ力を低めに設定しているため、馬力のあるエンジンを搭載するクルマと組み合わせても、そのパワーを生かすことはできない。その点、PS5 Proは「ハイグリップタイプのスポーツタイヤを履いて、エンジンの馬力を余すところなく引き出せる状態」ということになる。
そしてRadeon RX 6800 XTは、Radeon RX 7600と比べるとGPUの理論性能はほぼ同じだがグラフィックスメモリの帯域幅が約1.8倍の毎秒512GBと高速だ。理論性能がほぼ同じなら、グラフィックスメモリの帯域幅の差が最終的な性能差を生む。そしてPS5 ProやPS5のように、グラフィックスメモリの帯域性能が優れていれば理論性能の差を“逆転”できるということでもある。
Radeon RX 6800 XTはメモリ帯域幅を広く確保しているだけでなく、L3キャッシュも4倍確保している。理論性能がほぼ同じなのに、Radeon RX 7600よりも高画質のプリセットを使えるのはメモリ回りの差が違いが大きいと思われる筆者はかなり古参のPCゲーミングファンで、今でもグラフィックスクオリティー設定をあれこれいじりながらAAAタイトルを中心にプレイしている。そんな筆者から見ると、2025年以降のAAAタイトルをフルHD解像度を超える解像度(WQHD/4K解像度)で“満足に”プレイするには、グラフィックスメモリの帯域幅を少なくとも毎秒400GBは必要だと考える。できればPS5の毎秒448GBを上回る、毎秒500GBは欲しい。
GPUの理論性能やグラフィックスメモリの容量は覚えていても、グラフィックスメモリの“帯域幅”まで覚えているという人は恐らく少ないだろう。帯域幅の情報はGPUやグラフィックスカードのメーカーのWebサイトに掲載されているので、改めて確認してみてほしい。
グラフィックスメモリは帯域幅はもちろん容量も重要だ。では、今どきのゲームを楽しむには、どのくらいの容量があればいいのだろうか。
先述の通り、モンスターハンターワイルズのβ版ではRadeon RX 7600は画質プリセットで「最低」と「低」しか選べなかった。厳密にいうと、「低」よりも高いプリセットを全く選べないわけではなく、グラフィックス関連設定も細かく設定できる。しかし、「グラフィックスメモリ消費予測ゲージ」の警告が出てしまう。
この警告を無視してより高いグラフィックス設定を選ぶと、容量不足でグラフィックスメモリに格納できないデータ群はメインメモリに格納される。そうなると“か細い”PCI Expressバスを通してメインメモリとグラフィックスメモリとの間でデータの出し入れが頻繁に発生するため、ゲームのパフォーマンスは著しく低下する。
ゲームのグラフィックス設定で「グラフィックスメモリが足りない」旨の警告が出た場合は、容量不足にならないように素直に設定を下げた方が良い。端的にいうと、モンスターハンターワイルズのβ版にとって、Radeon RX 7600はグラフィックスメモリの容量不足ということになる。
ちなみに、このβ版ではグラフィックスメモリが12GBのGPUだと画質プリセットで「中」「高」を警告なしで選べた。16GBになれば「最高」も余裕だ。
モンスターハンターワイルズのβ版(2024年11月)の画質設定画面。グラフィックスメモリが8GBのRadeon RX 7600で満足のいく画質にするには、設定のカスタマイズが必要だった。現在配信中のベンチマークテストと同様に右上にグラフィックスメモリの想定利用量が表示されるが、ここで容量超過が発生すると動作パフォーマンスが著しく低下する可能性があるので避けた方がいいデスクトップPCの場合、ごく一部の例外を除くとメインメモリは増設/換装が可能だ。しかし、GPUのグラフィックスメモリは増設/換装ができないため、購入段階の容量で“打ち止め”となる。そのため、搭載しているグラフィックスメモリの容量選びも重要な要素といえる。
ちなみに、PS5は16GBのGDDR6メモリをCPUとGPUで共有するシステムで、そのうちの最大13GB程度をゲームで利用可能とされている。ゲームプログラムのランタイム自体は、通常それほど大きくはないので、多くのゲームでは容量の多くをグラフィックスに割いているはずだ。Windows版のβテストの手応えからすれば、モンスターハンターワイルズのような情報量(≒リアリティ)重視型の“美麗グラフィックス”のタイトルなら8GB以上(ともすると10GB前後)をグラフィックスに割り振っていると思われる。
PS5 Proでは、16GBのGDDR6メモリに加えて2GBのDDR5メモリも搭載している。単純計算だが、CPU側で実践する処理をDDR5メモリ側に振ってしまえば、さらに2GBをグラフィックスに割けるだろう。
数年前なら、PC向けGPUにおいて「8GB」というグラフィックスメモリ容量は標準サイズだったが、そろそろ、その常識は変わりつつあるのかもしれない。
「なら、どのくらいの容量が必要なの?」というところだが、筆者が2024年にプレイした「黒神話・悟空」のPC版でも、8GBのグラフィックスメモリでは満足の行くクオリティーでプレイできなかった。この点は、モンスターハンターワイルズと通ずるものがある。
黒神話・悟空は2024年を代表するタイトルの1つで、先に引き合いに出したモンスターハンターワイルズも、注目度からすると2025年を代表するタイトルの1つとなるはずだ。これらの重量級AAAタイトルを、標準以上のプリセット画質でプレイするには少なくとも12GBのグラフィックスメモリを備えるGPUがあった方が安心だ。
これは2月に公開されたモンスターハンターワイルズ ベンチマークの設定画面。グラフィックスメモリの容量が12GBあると、画質プリセットを「ウルトラ」、レイトレーシング設定を「高」にしても余裕がある。この設定をすると画面右上に表示される予想容量が8.96GBとなり、「8GBメモリ」なGPUでは“アウト”だ今後のゲームにおいて、グラフィックスメモリの消費量は増えることはあっても減ることはないと思う。これからグラフィックスカード(GPU)を買い替えるという人は、16GBメモリでも多すぎることはないと考える。
次回は、本稿を踏まえて「具体的にどのGPUを選べばいいか?」を解説していきたい。
カプコンが「モンスターハンターワイルズ ベンチマーク」を公開 Steam Store経由でダウンロード可能
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