さて、前述したようにF1におけるコンピュータの活躍というと、過去はエアロダイナミックスのCFD(数値流体力学)シミュレーションを活用し、個々のマシンの性能を向上させることがその代表格だった。
もちろんCFDが重要な要素であることは間違いない。しかし近年では、戦略領域においてより広範にコンピュータが使われ、しかもそこにAIが組み込まれ始めている。膨大なデータを瞬時に取り込み、レース中にリアルタイムでシミュレーションを走らせることで、次のピットインタイミングやタイヤ戦略などを素早く導き出す。この“リアルタイム性”こそが、現代のF1における情報戦の核心だ。
具体的な活用の手法となると、戦略面での口は重い。それぞれのチームが独自に活用している面もあるだろう。しかしグローバルパートナーならではのAIの生かし方もある。
AIは“大量の雑多なデータを意味のある情報として可視化する”ことが得意だ。車両側のセンサーだけでも膨大な種類/量のデータをリアルタイムに吐き出すが、それらに加えてF1共通のデータ基盤からえられるデータを組み合わせ、どう分析、可視化し、チームの戦略立案に落とし込むかは、テクノロジー企業の腕の見せどころといえる。
2024年の段階でAI活用が成功した事例としては、“AIカメラ映像のカラー最適化”に関するPoC(概念実証)があるという。
LenovoのAI Fast Startサービスを使い、カメラ映像をAIを用いて最適化することで、トラックサイドや縁石のカメラ、オンボードカメラなどの映像をほぼリアルタイムでカラー補正し、均質な高品位映像として、国際映像に組み込めるようになった。オンボードカメラには、こうしたAI技術の一部がハードウェアとしてマシン内に組み込まれている。
今後、さらにどのような形で応用されていくかは今回の取材の中で明らかにされなかったが、年間24戦というスケジュールの中、移動/設置/稼働/撤収を繰り返す中で、質の高いソリューションにF1側は期待しているという。
まだAIの本格的な活用、共通システムにおける役割は始まったばかりで、その成果についてディスカッションしている段階ではない。しかし、大きなトレンドとしてテクノロジー企業に期待される役割が変化していることは間違いなく、クラウド、オンプレミス、オンデバイスという三つのレイヤーでAIアプリケーションを提供する、LenovoのハイブリッドAIという技術コンセプトが今後は生きることになるだろう。
取材を通じて見えてきたのは、Lenovoの取り組みが単なるマーケティング効果だけでなく、F1全体の“基盤”を底上げしているという事実である。
F1は映像配信やファンエンゲージメントにおいて世界最高峰のコンテンツを生み出し続けているが、その背景には極めて洗練されたデータ環境とITインフラがあることは、ここまでに紹介してきた通りだ。
しかし、データ分析と活用についても同じだが、長期的な取り組みによるノウハウの蓄積なしに進歩はない。F1におけるAIの導入を加速させることで、どのような価値が生み出せるのか。
特にファンに対してより多面的なデータや映像サービスを提供する仕組みや、チームがより戦略的判断を下せるよう、共通システムにおけるAIサービスを高度化していくことが期待される。
想像を超えるセンサーや映像からの膨大なデータを制する者がレースを制する。チームによる戦いをサポートする情報戦の側面をより高めていくには、個々のチームに提供されるF1プラットフォーム全体のシステム底上げが重要だ。
取り組みが始まったAI時代の新しいF1が、この技術的な挑戦を経てどのように次のステージに進むのか興味深い。
2026年にF1は、パワーユニットを含む大幅なレギュレーション変更が行われる。その時にF1のAI活用が、どのようになっているか、来シーズンが今から待ち遠しい。
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