アイブ氏にとって、製品を創る行為の根源にあるのは「奉仕」の精神だ。自身は「ツールメーカー(道具を作る人間)」というアイブ氏。人々に「能力を与え、鼓舞する」ことに喜びを感じてきた。
「そうやって、より良いものを創造した結果として、それまでに使われていた道具が破壊される(使われなくなる)ことはあります」と言う。これに対して、今では「単に過去と違うこと」や「過去を破壊すること」そのものが革新だと勘違いしている人が多いと注意を促す。
私たちの多くは「進歩や革新は起こるべくして自然に起こる」と思い込んでいる。でも、革新は決して受動的に待っていれば現れるものではないとアイブ氏は語る。
真に物事を前進させるためには「根底にある揺るぎない確信」が必要で、そこから新しいアイデアとビジョンを生み出し「広く共有できる現実にするための断固たる決意」が必要だと言う。
コリソン氏は、アイブ氏が「心の底から人類の前進を願う」ことが大切だと言う言葉に感銘を受けたと語る。アイブ氏はその考えは今も変わらないと言い、ある日曜日の出来事を振り返った。
「ある日曜日の午後、私は製品パッケージのすごくささいな問題に取り組んでいました。皆さんからはどうでもいいことに思えるでしょうが、製品パッケージのケーブルをどう収めるか試行錯誤していたのです。世界中の何百万人もの人がこのケーブルの留め具に触れることになるので、簡単に解きほぐせるようにしたかったのです」(アイブ氏)
コリソン氏は「そのケーブルを取り出す時間を削減することで人類の時間を節約できますが、そういった功利的な理由ではなく、精神的なつながりを考えてのことですよね?」と質問した。
アイブ氏は「そうです」とうなずき、「精神的つながりというのは、誰かがその箱を開けて、ケーブルを取り出すときに『こんなところでまで、私のことを気にかけてくれていた』と感じたときに生じるもの」だと述べた。
アイブ氏は「単に機能を満たせばそれで良いという考え方には気が滅入る」と言う。「それだけでは人類を前進させたことになりません」とし、彼にとって本来は息子たちと過ごすべき日曜日に、見知らぬ誰かが経験するであろうことに思いをはせながら、ケーブルの留め具を工夫する――その行為を通して、その人と繋がりを持てることに心を躍らせていたという。
かつて、スティーブ・ジョブズ氏はこれを「作り手も買い手も互いを知らず、握手すらしないかもしれない。でも、そんな相手に対して愛と配慮をもってものを作る行為は、人類に対して感謝を表す行為だ」と美しく表現したとアイブ氏は振り返る。
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