マルニ木工のHiroshimaチェア(同社Webページより)。Apple時代、ジョニー・アイブ氏はデザインチームがサンフランシスコの丘の上でご近所同士ということもあり、お互いの家を訪問して異なる家具が仕事に向き合う気持ちにどのような影響を与えるかなどを常に語り合っていたという。現在、Apple本社に大量導入されている深澤直人デザイン/マルニ木工のHiroshima Chairも、このようなプロセスを経て選ばれた(詳しくはこちらの記事を参照してほしい)ところで、「配慮のある製品」「奉仕の心のあるもの作り」をするためにはどうすればよいのだろう。アイブ氏はApple在籍時代から語っていた方法を紹介した。
通常の会議では多くの人が「話すこと」と「聞かれること」に必死になっているが、そうした自分の意見表明に必死な人々が「良いアイデアを殺す」とアイブ氏は考えている。
「意見はアイデアではない」と明確に区別し、それによって「静かな場所、静かな人から生まれる素晴らしいアイデアを見逃してしまう」ことを懸念する。
そうならないよう、Apple時代にはデザインチームが創造性を維持するための「儀式」を実践していた。
「毎週金曜日の朝、チームの誰かが全員の朝食を作る」というもので、「素晴らしい料理が出されることもあれば、逆に衝撃的なものもあった」とアイブ氏。この儀式には「お互いのために何かを作る」姿勢を思い出すという狙いがあった。
また「順番でデザインチームを自宅に招き、そこで仕事をする」ことも行った。ホストは「自分の家具について判断されるかも」と不安になり、ゲストは「より良い振る舞い」をしようとする。
「この微妙な緊張感が創造性を高める触媒となる」とアイブ氏は言う。「人々のためにデザインするなら、会議室ではなく誰かのリビングでソファに座り、コーヒーテーブルにスケッチブックを置いて作業すると発想が変わる」。アイブ氏は会議室を「魂のない、うんざりする場所」と形容している。
セッションの最後、コリソン氏は「Stripeのような金融インフラ企業が、なぜデザインを気にかけるべきか」と質問した。
「Stripeがそうしていなければ、StripeはStripeたり得なかったし、我々もここに座っていないでしょう」とアイブ氏は答え、「お互いを気にかけることは、選択肢ではなく、義務であり、責任」と語った。
精神分析医フロイトの「人生は仕事と愛が全て」という言葉を引用し「私たちは人生の多くを仕事に費やします。その仕事で他者を気にかけなければ、他の人々も私たち自身も苦しむ」と説いた。
「他の人々への気遣いを形にできることは、責任だけでなく特権でもあります」とアイブ氏。「私は仕事モードの(商業的な)ジョニーとそれ以外の自分とで分けていません。私はただのジョニーです」と答えて締めくくるとセッションは喝采の渦に包まれた。
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