京セラのファインセラミックス基板技術は、1970年代にIBMがコンピュータ用多層基板として採用したのが世界初ということで、かれこれ約半世紀の技術的蓄積がある。
同社は現在200種類を超える材料を開発し、世界のファインセラミックス技術をリードしているが、この技術も実は高画質かつ高機能なカメラモジュールの核となっている。
京セラのセラミック基板は柔らかい状態のセラミックスシートに穴を開け、回路を印刷する。iPhone向け基板では、11層もの構造を積層してから1600度で焼成するという。この過程で15%程度の収縮が起きるが、その精度を完璧にコントロールし、超小型カメラのフレームにできるだけの精度を出す技術こそが、同社の強みである。「一度焼いて固まったものは、水分も吸わない」という特性は、数年に渡って毎日使用されるiPhoneのカメラにとって理想的だった。
さらに、この基板は積層構造で自由にシートを加工しつつ積み上げることができるため、立体配線で自由に信号経路をデザインできる。このことが、カメラモジュールの小型化と伝送信号ノイズの低減に寄与している。イメージセンサーや周辺回路などの放熱にも有利であることから、画質や信頼性の向上も図れる。
京セラとAppleとの協業は2008年から始まった。最初は「iPhone 4」の内蔵カメラ基板で採用されたという。現在の「iPhone 17 Pro」「iPhone 17 Pro Max」では、6枚の同社製セラミック基板が採用されているという。
この分野には当然ながらライバル企業も存在しているが、「常に高いレベルの要求をいただいている」(京セラ担当者)と、毎年のように要求が高まる中で、それに応じるために改良を加え続けている。Appleからの要求が、京セラの技術力を継続的に向上させる原動力ともなっているとのことだ。
Appleとの協業を通して改良を加えた技術は、京セラの競争力向上にもつながっている。「ウィンドウキャビティ構造」「新材料セット」センサーシフト用アイランド構造」などが代表格で、「Face ID用のダブルキャビティ基板」はAppleとの共同開発から生まれたものだ。
AGCといえば、旧社名である「旭硝子」の名前が示す通りガラスの会社として知られているが、現在はガラス用の硝材はもちろん、さまざまな特性を持つ材料のメーカーと世界的な競争力を保持している。
同社の「赤外線カットフィルター(IRCF)」は、2010年のiPhone 4から全てのiPhoneに採用されている。それ以来、必要な波長の光だけを通し、不要な帯域をカットするフィルターの特性を磨き続け、カメラの高画質化に寄与している。
「赤外線をカットする」ことは、それだけを聞けば簡単そうに感じる。「同様の光学フィルターは他にもあるのでは?」と思うかもしれないが、実は同社の117年の歴史が育んだ材料技術の粋が集約されている。
「有機も無機も持っている材料メーカーは、世界に視野を広げてもほとんどありません」と技術者が語るように、ガラスという無機材料とポリマーという有機材料の両方を自社で開発/製造できることがAGCの最大の強みとなっている。
AGCが製造している赤外線カットフィルターは、使っている材料自体に赤外線を吸収する特性がある。それをフィルターとして加工した上でナノメートル(nm)単位の多層膜コーティングを施すことで、理想的な光学特性を実現しているという。
興味深いのは、メーカーによって「透過させたい光の領域」が異なることだ。AGCはこの微妙な要求の違いに対応しており、iPhoneであればAppleの光学エンジニアが求める特性に合わせたフィルターを供給し、iPhoneカメラ特有の色表現を支えている。
「通したい帯域の光は可能な限り通して、カットしたい帯域は可能な限り“急峻な”特性で確実に遮断する」という相反する要求を、材料とコーティングの組み合わせ設計で実現する――この技術力は、色再現性だけではなく透過率の向上も実現し、結果的に暗所撮影性能も向上させた。現代のスマホカメラの最重要課題の解決にもつながっている。
当然、ここまでフィルターを作り込むとコストは上昇する。しかし、効果が少しでも高ければカメラに組み込みたい。そんなAppleとAGC両社の思いが関係を強化するモチベーションになっている。
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