AppleのAirTagと同じUWBを使った世界初のワイヤレスゲーミングマウス「VM800」を試す レシーバーにも注目(3/4 ページ)

» 2026年01月30日 12時00分 公開
[瓜生聖ITmedia]
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UWBで実現する「True8K」

 前述したように、VM800の最大の特徴はワイヤレスマウスとして初めてUWBを採用した点にある。これはBluetoothや独自の2.4GHzワイヤレスの限界を突破するための革新的な選択だ。

 Bluetooth 4.0では、従来のBR/EDRに加えてBLEがサポートされた。BLEとは、デバイス側を基本スリープ状態として通信回数を減らすことなどで、大幅な省電力を実現したものだ。マウスとの相性も良好で、Bluetooth対応マウスが一気に普及するきっかけにもなった。

 一方、BLEは間欠通信であるがゆえに応答のタイミングが安定せず、入力の反映タイミングに揺れが生じてしまう。もちろん、ビジネスなどの利用でユーザーが気付くレベルではないが、1600DPI以上やポーリングレート500Hz以上になると違和感が生じてくる。

 よって多くのワイヤレスゲーミングマウスでは2.4GHz帯を利用した独自プロトコルを採用し、BLEよりも安定した通信を確保している。

 ただし、2.4GHz帯はBluetoothの他、Wi-Fiでも利用されており、その使い勝手の良さから、電波の中で混雑している周波数帯でもある。

 他のプロトコルと共存するために「データを確実に正確に送る」ということを重視しており、「正確なタイミングでデータを送る」ことには向いていない。実際にWi-Fiの通信速度が刻一刻と変動するのは誰でも経験はあるはずだ。これは2.4GHz帯でのマウストラッキング性能の限界を示す現象の1つだといえる。

 そこで、この問題を打破するべく採用された無線技術がUWBだ。UWBは国際仕様上で3.1〜10.6GHz、日本では6.5〜8.5GHzあたりが利用可能となっている超広帯域通信だ。帯域が広い代わりに出力が極めて弱く、極短パルスで送信するため、たとえWi-Fiと重なる利用がなされたとしても、背景ノイズとして見過ごされてしまう。

 また、信頼性向上よりも時間精度を優先しており、通常の用途においては再送を前提としない設計となっている。これはUWBがデータ通信ではなくセンサー用途を想定して設計されているためだ。さらに、正確な時間で通信を行うことによって、送信と受信の時差から電波発信元からの距離も測定できる。この機能を利用した機器が、Appleの「AirTag」というわけだ。

なぜUWBのワイヤレスマウスがこれまで登場しなかった?

 ワイヤレスマウスの通信では位置情報、クリック情報など送るべきデータ量は小さいため、通信速度自体はそこまで必要とされない。重要なことは正確なインターバルでホスト側にデータを送ることだ。その点においてUWBは、ワイヤレスマウスの通信にフィットするといえるだろう。では、なぜVM800までUWBを採用するワイヤレスゲーミングマウスが現れなかったのだろうか。

 1つにはUWBのモジュールは大きく高価で、マウスに搭載することが難しかったことが理由として挙げられる。

 しかし、iPhone 11世代以降でU1チップが開発/採用され、さらにiPhone 15世代でU2に進化したことで、UWBは一般消費者向け機器でも現実的な技術として認知されるようになった。

 その結果、Apple以外のメーカーにおいてもUWB関連デバイスやモジュールの開発が進み、小型かつ低コストに調達ができるようになった。

 とはいえ、UWBをマウスに組み込む際の先行技術がなければ開発コストも大きくなるという懸念もあっただろう。それを考えると2万円を切る価格での販売はかなり思い切った値付けだといえる。

 その他にも、2.4GHz帯と比べるとUWBにはいくつか不利な点がある。VM800では電波到達距離が最長約1.5mとされている。これは2.4GHz帯使用のVM610が、最長約10mであることと比べると極端に短い。

 また、短いだけでなく遮蔽(しゃへい)物に弱いという特徴もある。UWBが干渉に強く、安定した通信を実現すること自体は確かだが、それは通信ができている状態での話であり、レシーバーとの距離が長かったり、遮蔽物があったりすればデータが欠けてしまう。だが、それらの不利な点を差し引いても、VM800には圧倒的なアドバンテージがある。それがTrue8Kだ。

 True8Kは、常時8000Hzでのポーリングおよびスキャンが行われることを意味している。一般的な無線通信ではマウス本体での8000Hzスキャンをそのままのインターバルでホストに送ることができない。

 そのため、何回分かをまとめて送ることになる。だが、VM800のTrue8Kでは、8000Hzでスキャンしたデータをそのインターバルのまま、125マイクロ秒ごとに送ることが可能だ。

 実際にVM800の有線接続/無線接続でのトラッキングをMouseTester 1.5.3で計測し、生データのインターバルを0.05ミリ秒(50マイクロ秒)単位のヒストグラムにしたのが以下の図だ。

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photo MouseTester 1.5.3で計測したデータ。UWBだと第1のピークは0.125ミリ秒周辺にあるが、1.9ミリ秒付近の第2のピークも気になるところ

 この測定結果を見る限り、VM800のUWBワイヤレス通信は有線接続時よりも理論上の8000Hz(0.125ミリ秒)に近いタイミングで入力が処理されるケースが多いことが分かる。

 操作感という観点では「無線=不安定」という従来のイメージとは逆に、UWB接続時の方が入力タイミングのばらつきが少なく、結果として安定した操作感につながっている可能性は十分に考えられる。

 ただし、UWB接続時には有線接続時には目立たない1.9ミリ秒付近の第2ピークが観測された。OSからはどちらもUSB HIDとして扱われるため、この差は通信方式そのものというより、レシーバー/デバイス側が一定周期で処理が間に合わなかった場合のバッファー的な揺らぎが、ヒストグラム上でピークとして現れた可能性も考えられる。

 なお、筆者の環境(PCのハードウェアスペック、OSや常駐ソフト、起動中のアプリなど)による影響を受けている可能性もあるため、必ずしも全てのユーザーの環境で同様の事象が発生するとは限らない点には留意してもらいたい。

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