Appleはいかにして「今日のAIやWeb」を予見したのか? “暗黒時代”とも呼ばれた1985〜1996年の光と影:Apple 50年史(中編)(3/5 ページ)

» 2026年04月17日 12時00分 公開
[林信行,ITmedia]

マルチメディア:インターネットなき時代のインタラクティブWeb

 後の時代に残るものをあまり生み出していないこの時期のAppleだが、1つ評価すべきなのは「マルチメディア」というトレンドをリードし、動画を含むリッチなインターネットコンテンツを生み出す礎を築いたことだろう。

 DTPの大成功を受け、AppleはこのDTPに続く新しい実用的なビジョンを探していた。候補としては、Macの優れた音声機能やMIDIと呼ばれるデジタル音楽機器を使って音楽の演奏や記録を可能にするDTM(デスクトップミュージック)などのトレンドもあった。

 しかし、より有望だったのは大学や研究機関で人気を集めていたPowerPoint(当時はフォアソウト)などのプレゼンテーションソフトの分野であり、DTPr(デスクトッププレゼンテーション)などと呼ばれていた。DTPのように紙などのアナログメディアに依存するのではなく、パソコンの画面だけで完結する情報の流通だ。

 そのような中で、衝撃を持って受け入れられたのがAppleの天才プログラマー、ビル・アトキンソン氏が開発し、当時のMacに無料で付属していた「HyperCard」というソフトだ。

 カードと呼ばれる画面の上に絵や文字を配置し、クリックで動作するボタンを置き、さらに別のカードへとリンクさせることができる。

Apple アップル 50周年 創立 スティーブ・ジョブズ Lisa ニュートン Newton 初代Mac開発チームの主力メンバーでもあるビル・アトキンソン氏が開発した、誰でも簡単にカード型のアプリが作れてしまう「HyperCard」(1987年〜1998年)。無料で配布されていた。これを使って世界中の人々が教材や絵本、ゲームなどを開発した。その後、Appleは開発機能を別売りにしたりと迷走する。ジョブズ氏が戻ってくる直前、スタックと呼ばれるHyperCard用に作られたコンテンツをWebブラウザ上で再生するプロジェクト「フェニックス」が進行中だったが、ジョブズ氏のApple立て直し戦略の中で切り捨てられた

 例えば絵本を作るなら、1ページごとにカードを用意し、物語の進行に応じて次のカードへと遷移させる。あるいは選択肢を設けて分岐させることもできる。単なる閲覧にとどまらず、ユーザーの操作によって物語が変化する“インタラクティブな本”が、専門的なプログラミング知識なしに作れてしまう点に、その革新性があった。

 内部ではHyperTalkという比較的平易なスクリプト言語が動いており、「考えたことをそのまま書ける」ような感覚で振る舞いを記述できたことも、多くのクリエイターを引きつけた理由である。

 これはネットに接続せず、MacのHDD上で完結しているという点を除けば、Webページとほぼ同じで、簡単に作れることから多くのクリエイターが絵本やアドベンチャーゲームを、世界中の多くの教員が自分だけのインタラクティブ教材などを作っていた。

 その少し前にはマクロマインドという会社からは、背景画の上を動き回るキャラクターとの連携など、より高度なインタラクティブコンテンツが作れる「Director」(元々はVideoWorks。1984年からDirector。後にAdobe Directorとなり2017年に開発終了)というソフトが登場する。

 こうしたインタラクティブコンテンツの開発が可能なソフトは後にオーサリングソフトウェアと呼ばれることになる。

Apple アップル 50周年 創立 スティーブ・ジョブズ Lisa ニュートン Newton マーク・カンター氏がVideoWorksというコンピュータアニメーション作成用アプリを開発し、後に大幅機能強化したDirectorとなる。これは、その後に訪れるCD-ROM時代に最も重要なコンテンツ制作ツールの1つとなった。彼の会社、マクロマインドはその後、3Dソフトの会社と合併しマクロマインド・パラコンプ、さらに他の会社と合併してマクロメディアになり、アドビに対抗できる唯一のクリエイターツール開発者として人気があった。インターネット時代にはWeb向けインタラクティブコンテンツを作れるFlashという技術で一世を風靡するが、2005年にアドビに吸収合併された

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