もっとも、このCHOというポストができた背景には、その職務を組み立てられるだけの技術資産がAppleにそろったことがある。そこを理解するには、クックCEO時代における15年の半導体内製化の歩みを押さえておく必要がある。
クック氏が2011年にCEOを引き継いだ時点で、MacはIntel製CPUに、iPhoneはSamsung Electronics製SoCにそれぞれ大きく依存していた。そこから15年をかけて、Appleは主要な半導体のほぼ全てを自社設計する企業へと変貌した。
AチップシリーズやMチップシリーズに加え、Apple Watch向けのSiP(System in a Pack)である「Apple Sチップ」、AirPods向けのSoC「Apple Hチップ」、UWB(広帯域無線)通信を実装するためのSoC「Apple U1チップ」、Apple Vision Proのセンサー入力を担うSoC「Apple R1チップ」まで、カテゴリーごとに専用半導体を用意している。2024年末からはiPhone用モデムの内製化を進めて、Qualcommとの距離を取り始めた。
この半導体の内製化(厳密には自社設計化)こそが、Appleの競争優位の基盤である。2020年にM1チップ搭載の「MacBook Air」「MacBook Pro」が登場して以来、IntelやAMDのCPUは少なくともノートPCにおける電力効率の勝負で後手に回ってきた。2025年秋に登場した「M5チップ」は、その差をさらに広げる方向に進んだ。
LLM(大規模言語モデル)による推論をローカルで日常的に回す準備が、ノートPCの側でも整いつつある。
もちろん、こうした半導体の内製化を経営判断として支えたのはクックCEOだ。だが技術面で主導してきたのはスルージ氏であり、それを製品として束ねてきたのがターナス氏の部隊だった。今回、AppleがCHOというポストを新設するのは、スルージ氏とターナス氏の仕事上の関係を、そのまま組織構造に反映したものと見るのが自然だろう。
一方で、“クック時代”の後半には、新カテゴリーを創出する観点で苦戦も見えた。Apple Vision Proは野心的な取り組みだったが、販売は伸び悩んだ。そして自動運転車を自社開発する「Apple Car Project」は、10年の期間と約100億ドルを投じた末に、2024年をもって中止された。
Apple Intelligenceは度重なる延期に見舞われ、次世代の「Siri」の核となるAIモデルには、Googleの「Gemini」をライセンス契約に基づき利用する決定が下された。これらは、ターナスCEOが引き継ぐ“宿題”でもある。
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