時速300キロでLTEはどうなる――上海R&Dセンターで見たHuaweiの最新技術(1/2 ページ)

» 2010年06月03日 10時53分 公開
[山田祐介,ITmedia]

 今、日本でHuawei(ファーウェイ)といえば、真っ先に思い浮かぶのはデータ通信端末だろう。とりわけ、無線LANのアクセスポイントになる「Pocket WiFi」は、2009年にイー・モバイルから販売されて以来高い人気を誇っており、さまざまな通信対応デバイスを1つのデータ端末で3G回線につなぐという、新しいモバイル通信のトレンドを切り開いている。

 しかしながら、同社の2009年の受注高302億ドルに対して、端末事業の受注高が占める割合は14%にすぎない。同社は、基地局やコアネットワークなどのインフラ事業を中心に、企業向けソリューションから個人向けIPTVシステムまで幅広く展開するソフトウェア事業、ネットワーク管理や顧客サポートといったサービス事業など、固定通信・無線通信に関するさまざまな事業を手掛けている。さらに、9万5000人を超える従業員のうち4万3600人以上がR&Dに従事しているなど、研究開発に力を注いでいる企業でもある。世界各地に計17のR&Dセンターを持ち、通信事業者のニーズに応じた製品を開発するイノベーションセンターは20カ所を超える。

 こうした研究開発拠点の中で、上海のR&DセンターではLTEをはじめとする無線通信技術の研究が行われている。今回は、同社が企画したメディアツアーに参加して上海R&Dセンターを訪問。2010年5月に開設したばかりの広大な新キャンパスを訪れたほか、上海市内にあるテストエリアでのLTEのデモンストレーションを取材した。

photophoto 巨大な上海のR&Dセンター(写真=左)と、施設全体の模型(写真=右)

1万2000人が無線技術のR&Dに従事

photo ワイヤレス・マーケティング担当 バイスプレジデントのラース・ボンデリンド氏

 深セン市に構える本社の巨大さもさることながら、敷地面積36万平方メートルの新しい上海R&Dセンターも相当に大きく、外から全体を見渡すことはできない。新キャンパスでは、現在8000人以上のスタッフがワイヤレスに関する研究開発を行っているほか、上海以外の拠点にもコアネットワークやバックホールなども含めて無線の研究開発に従事するスタッフが存在し、合計で1万2000人以上の人材がワイヤレス技術のR&Dに関わっているという。「企業の無線のR&Dとしては、世界的に見ても一番大規模ではないか」と、同社のラース・ボンデリンド氏(ワイヤレス・マーケティング担当 バイスプレジデント)は主張する。

 GSM、UMTS、LTEなど、さまざまな規格の無線技術を研究している上海R&Dセンターだが、ラース氏が特に強調するのは充実したLTEの研究環境だ。同氏によれば、LTEに関連する同社の特許数はインフラベンダーの中で最も多いという(2009年12月時点)。

 同社は上海市内にLTEのテストエリアを展開しており、そこでは700MHz、2.1GHz、2.6GHzと、異なる周波数帯のエリアを構築。それぞれの周波数帯でLTEの通信パフォーマンスを検証している。同社はこのエリアでの検証を通じて、エリアのカバー範囲がせまくなりがちな高い周波数帯でも低い周波数帯と同等のパフォーマンスを発揮できるような技術の開発に注力しているという。それは、UMTSの基地局ロケーションをなるべく流用してLTEを展開したいキャリアのニーズに応えるためでもある。


photo LTEのテストエリア

 また、高速移動中の通信性能を検証するために、浦東国際空港駅と龍陽路駅を結ぶリニアモーターカー向けのLTEテストエリアも持っている。最大時速431キロを誇るリニアモーターカーの中でも、同社のLTE設備は良好なパフォーマンスを発揮するとラース氏は胸を張る。

 こうしたR&D環境の下に同社は次世代通信分野での実績を増やしている。ノルウェーでTeliaSoneraが開始した世界初のLTE商用サービスでは、同社の基地局を利用して実測値で下り最大90Mbps、上り最大40Mbpsという高速通信を実現した。さらに中国では、中国独自の3G規格TD-SCDMAの発展系であるTD-LTEの通信設備をChina Mobileに提供。上海万博の会場内にエリアが構築され、商用化に向けた検証が行われている。

photophoto R&Dセンターの展示室を見学させてもらった。IPTVのソリューション(写真=左)や遠隔会議のシステム(写真=右)など、通信機器だけでなく、通信に関わるさまざまなアプリケーションを開発している
photophoto クラウドコンピューティングのソリューションも開発している。シンクライアントには同社のロゴが刻印されていた。ネットワーク、端末、さらにはサーバまで自社で用意しているという。説明員によれば、サーバは同社とSymantecとの合弁会社Huawei Symantec Technologiesで製造しているとのことだ。社内での利用に加え、中国のゲーム会社が同社のクラウドコンピューティングを導入しているという
photophoto 同社では、同じプラットフォームで複数の通信方式に対応する「シングルRAN」ソリューションに注力している。写真は2Gと3Gとに対応するRFユニット。同じ設備でLTEを含めた異なる通信方式に対応することで、モバイルブロードバンドを低コストで拡大できるという(写真=左)。また、太陽光発電式の基地局の開発をはじめ、環境に配慮した省電力な通信設備の開発も手掛けている(写真=右)
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