ITで築く「学習の高速道路」――“定額見放題”のネット授業、iPhone/iPadでより便利に教育改革、塾で着々(1/3 ページ)

» 2011年07月20日 10時00分 公開
[後藤祥子,ITmedia]
Photo ベリタス・アカデミー 代表取締役兼英語講師の坂木俊信氏

 電子ホワイトボードを使った予備校人気講師の授業をネットで配信。生徒は5教科1200コマ超の授業をいつでもどこでも定額で見放題――。こんな受験生向けコンテンツがあるのを、ご存じだろうか。

 この教材開発を手がけるのは、ベリタス・アカデミー 代表取締役兼英語講師の坂木俊信氏だ。大手予備校の人気講師として活躍していた坂木氏は、予備校講師の視点からITを活用した教育改革に着手。従来の予備校の非効率なところをITで徹底的に改革し、“1時間でこれまでの3時間分学べる”濃縮授業のネット配信を開始した。

 このスタイルは同氏いわく、「学習の高速道路」。内容の濃い授業を自分のペースで好きなだけ学べるため、やる気さえあれば短期間で学習効果を上げられるのがポイントだ。

 ITで教育は大きく変わる、技術やデバイスの進化にワクワクしている――。こう意気込む坂木氏に、これまでの教育改革の軌跡と、スマートデバイスやIT技術が教育にもたらす新たな可能性について聞いた。

ベリタス・アカデミーとは

 ベリタス・アカデミーは、大学受験生向け映像教材の開発と配信を手がけるネット予備校。電子ホワイトボードを使ったライブ感あふれる授業が特徴で、現在、5教科1200コマ超の授業をネットで配信している(2011年7月時点)。

Photo 授業には電子ホワイトボードを活用している

 料金に定額制を導入しているのも大きな特徴。“いつでもどこでも好きなだけ視聴できる”ネット配信と、“見れば見るほど安くなる”定額制を採用しているため、安心して学習に集中できるのがポイントだ。

 2011年6月時点で、300超の予備校や塾が同社の教材を採用。近くに教材を導入している塾がない生徒向けには、個別に提供している。


改革のきっかけは電子ホワイトボードとの出会い

 板書にかかる時間を授業の説明に充てられたら――。予備校の講師時代、坂木氏はこう思っていたという。英語を教えていた同氏は、まず黒板に英文を書き、その構文を解説する形で授業を進めていたが、授業のたびに板書をするのは効率が悪いと考えていた。

 「これだけPCが発達しているのだから、そのうち板書のデータを一気に映し出せるものが出てくるだろう」――。そう思っていたところ、ハワイの高校に通っていた生徒から聞いたのが「電子ホワイトボード」の話だった。

 あらかじめ作成したデータを瞬時に映し出し、その上に解説も書き込める――。さっそく見学に行ったハワイで目にした電子ホワイトボードは坂木氏の理想を具現化するもので、同氏はすぐさま導入を決意。2003年に電子ホワイトボードを取り入れた塾をオープンした。

Photo 電子ホワイトボードを使った授業の様子。授業をスタジオで録画し、ネットで配信する

 教材データの作成には「これまでの10倍の労力がかかった」(坂木氏)ものの、板書にかかっていた時間を解説や生徒とのコミュニケーションに充てられるようになったことから授業の効率は「3倍くらい上がった」と坂木氏。生徒の反応も上々で、大きな手応えを感じたという。

 次に手がけたのが、カリキュラムの改革だ。せっかくの“3倍濃縮授業”を毎日受けられないのはもったいないということで、授業をDVDに録画。それを生徒に渡し、“家でDVDを見てから授業を受ける”という学習スタイルに変更したところ「すごく成績が伸びる子が出てきた」(坂木氏)。

 濃い授業を毎日のように受けるスタイルが驚くほどの効果を上げると分かり、坂木氏はこの方式を他の教科にも展開。この頃、オンラインeラーニングシステムを手がけるキバンインターナショナルと縁ができたことから、録画した授業のネット配信と教育コンテンツの開発を手がけるベリタス・アカデミーを設立した。

 授業のネット配信に対応したことで、生徒は塾や自宅のPCで好きなだけ授業を視聴できるようになった。自分のペースに合わせて学べるので、例えば「部活を引退した夏から集中して学びたい」といった生徒のニーズにも対応できるなど、よりフレキシブルに学べる環境づくりにつながったという。

 その次に着手したのは、受講料の改革だ。予備校に通うと年間でおおよそ60万円くらいの授業料がかかり、これに夏期講習や冬期講習を合わせると100万円くらいかかるケースもあると坂木氏。講師の人件費や施設にかかるコストを考えると、予備校ではこうした料金体系にならざるを得ないが、ネット配信ではこうした経費がかからないため、“定額で見放題”という料金体系の採用に踏み切った。

 「“塾でも家でも視聴できる”とうたいながら、見れば見るほど高くなるのでは、安心して使ってもらえない。“定額だから、どんどん見てください”という仕組みにしたので、やる気さえあれば大きなメリットを得られる」(坂木氏)

 授業のオンライン配信は、“地域格差の解消”という、思わぬ効果も生んだという。ネット配信の授業は場所を選ばず導入できるため、塾の講師を確保できないエリアで使われるケースも増えているそうだ。

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