ITで築く「学習の高速道路」――“定額見放題”のネット授業、iPhone/iPadでより便利に教育改革、塾で着々(2/3 ページ)

» 2011年07月20日 10時00分 公開
[後藤祥子,ITmedia]

iPhone、iPadが教育改革を加速

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 坂木氏の教育改革を加速させたのがiPhoneだった。家と塾で学習できればいいと思っていたところに、その間を埋めるデバイスが登場したことで、新たな可能性を感じたという。「iPhoneやiPadなら、カフェでも通学時間でも教材を見られる。さらに学習の効率が上がると思った」(坂木氏)

 授業の映像をiPhoneで視聴できるようにしたところ、新しもの好きの生徒がこれに食いついた。今どきの高校生は、スマートフォンを持つことがかっこいいと思っており、その最先端の端末を使って勉強する――というスタイルが生徒たちを刺激したわけだ。その効果のほどは、「塾に大画面のPCがあるのに、iPhoneで勉強する生徒も多い」(同)という坂木氏の言葉からもうかがえる。得意げにiPhoneをいじって勉強しているうちに、学習内容が定着する――。iPhoneへの対応は宿題の達成率の向上に加え、こうした思いもよらない効果も生んだという。

 iPhoneやiPadを始めとするスマートデバイスへの対応は、教材を導入する塾にも好意的に受け入れられたようだ。少子化時代で厳しい競争にさらされている塾にとって、電子ホワイトボードとスマートデバイスの組み合わせは、“全く新しい学習スタイル”をアピールする格好の差別化ポイントになると坂木氏。黒板の授業ではなく、「電子ホワイトボードを使ったライブ感のある授業だからこそ、iPhoneやiPadでアクセスする意味がある」と胸を張る。

 ベリタスのスマートデバイス活用は授業のオンライン配信にとどまらず、教材アプリの開発にも及んでいる。iPad向けアプリとして最初にリリースした問題集は、「従来の問題集の欠点をITで克服したもの」(同)。アプリは画面の上半分に問題が表示され、生徒が解答を選ぶ方式だが、“なぜ、その解答なのか”を動画で解説している点が他の問題集と異なる点だ。「できない生徒は、文章で解説を読んでも分からないことがある。動画でしっかり解説することで、理解を深めてもらうのが狙い」(坂木氏)

 新たに“スマートデバイス時代の単語帳アプリ”の開発にも着手しており、従来型の単語帳に足りない部分を補うものにすべく、仕様の検討を進めているという。

 教育分野のスマートデバイス活用で、坂木氏が大きな効果があると期待を寄せるのは、「学習の文章からの解放」だ。「これまでの教科書や問題集は文字情報と図版、写真のみだったが、これからは音声や動画を組み合わせた、より印象に残る教材で勉強できるようになる」(同)。孤独な戦いだった受験勉強が、スマートデバイスの登場で様変わりする日が遠くないかもしれない。

Photo ベリタスが開発したiPhone/iPad向けの学習アプリ。「なぜ、この解答なのか」を動画で徹底解説する

iPadを使った学習の効果は――モチベーションアカデミア

Photo モチベーションアカデミア 教室責任者の太田知也氏

 iPhoneやiPadで視聴できる学習教材は、塾でどのような効果を上げているのか――。塾生全員がiPadを活用し、カリキュラムにベリタス・アカデミーの教材を取り入れている学習塾「モチベーションアカデミア」で教室責任者を務める太田知也氏と、塾生の林君に聞いた。

 モチベーションアカデミアは、この5月に開校したばかりの学習塾。時代に合った新しい教育を目指すこの塾では、“講師が生徒に一方的に教える”という従来型の詰め込みスタイルをとらず、講師と生徒、生徒と生徒のコミュニケーションを重視した教育を実践している。「塾でインプットするというより、アウトプットするような仕組みにしていきたい」(太田氏)

 塾生はiPadを使って自宅でベリタス・アカデミーの映像教材を視聴し、どこが理解できていないかを把握しておく。塾では分からなかったところを講師に質問し、対話形式で理解を深める仕組みだ。また、他人に教えることで、より理解を深めてもらうために、生徒同士の教え合いも推奨している。

 この“アウトプット型の授業”は、インプット(予習)なしには成り立たないが、「インプットまでを塾でやろうとすると、時間が足りないし、効率も悪い」と太田氏。対話型授業の実践には効率化が不可欠だったため、iPadとベリタス・アカデミーの教材を採用し、塾生が時間や場所を選ばず予習できるようにした。

Photo モチベーションアカデミアで学ぶ、高校2年生の林君

 iPadを使った学習は、塾の生徒たちにどのように受け止められているのだろうか。モチベーションアカデミアに通う高校2年生の林君は、とても気に入っているようだ。

 「教科書は表現が堅苦しくて説明も短いので、自分で深く読み込まないと分かりづらいことがある。ベリタスの教材は、言葉で説明してくれるので分かりやすいし楽しい」(林君)。スリープ状態からすぐ起動するiPadは、分からないことをすぐ調べられるのも便利だといい、PCを使う機会が減ったという。

 太田氏も、iPadの起動の速さは学習のモチベーションを維持する上で重要な役割を果たすとみる。「勉強中に分からないことがあって塾のeラーニング教材で調べようと思ったときに、PCの前まで行って起動してログインして――というのに5分も10分もかかったのでは、集中力が途切れてしまう。iPadはこのタイムラグをなくすので、eラーニングの普及に一役買うのではないか」(太田氏)

 モチベーションアカデミアでは今後、iPadの活用範囲を広げる考え。授業中に取ったノートをスキャンしてアーカイブできるようにしたり、PDF化した教材を利用できるようにするほか、Google Appsを使った予定やタスクの管理にも対応する計画だ。


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