「東北の1日も早い新生に向けてお役に立ちたい」――1万9000人もの犠牲者を出した東日本大震災から、1年目を間近に控えた3月9日、NTTドコモ 代表取締役社長の山田隆持氏が仙台市の東北支社で会見を行い、同社の新たな取り組みについて説明した。
同社は震災から約1カ月半後の4月28日に新たな災害対策を打ち出し、200億円を投じて対応を進めてきた。一般的な基地局より広い範囲をカバーできるようにする大ゾーン基地局の設置や基地局の無停電化、電話が通じないときでも安否を伝えられる「音声お届けサービス」など10項目にわたる対策のうち、衛星携帯電話の3000台配備をのぞく9項目については、この2月末でほぼ完了したと山田氏。今後はメインの設備の分散化やグリーン基地局の配備といった取り組みを進めると説明した。
ほかにも被災地の雇用創出に向け、仙台のコールセンターに、スマートフォンの機器操作担当スタッフとして150人を雇用する計画。社員のボランティア活動も支援するとし、出張旅費や宿泊費を会社が負担することで、4月から5月に約120人、年間で400人を送り出したい考えだ。
さらに新たな取り組みとして、被災地の復興支援を専業とする「東北復興新生支援室」を設置し、被災地の街作りを支援することも明らかにした。
東北復興新生支援室は、2011年12月にスタートした取り組みで、取締役常務執行役員の眞藤務氏が室長を務める。社内公募で募集した18人の社員を中心に、被災地の新たな街作りを支援するという。
発足当初は、ITの先進技術を使って支援することを考えていたが、被災地の自治体を回って現場の生の声を聴いたところ、“今、困っていること”の解決が先だと分かったと眞藤氏。例えば町全体が避難区域に設定された町では、住民が全国各地に避難していることから、世帯同士のコミュニティの欠落が問題になっているという。また、「被災地の子供たちに未来に向けた希望を持たせたい」という声も多く、まずはこうした身近な課題に取り組むことにした。
取り組みの一例として挙げたのが、通信機能を備えたフォトパネルを活用したコミュニティ支援だ。福島の双葉町と南三陸町では、全国各地に散らばっている避難町民の希望者にフォトパネルを配布し、町からのお知らせや行政関連の情報配信を開始した。これが「絆と希望を町民に伝えられる」と好評だという。
ただ、フォトパネルでは一方通行の情報配信となってしまうため、タブレット端末を使った双方向のコミュニティ支援も計画中だ。双方向通信の特性を生かし、情報交換や地域コミュニティの活性化を図るとともに、安否確認や緊急連絡などの機能も用意して支援の幅を広げるとしている。
もう一つの取り組みが、教育現場でのタブレット活用だ。テレビ電話やAR、Webなどを利用して自分が暮らす町の情報を発信することで、子供たちを街作りに参画させるのが狙いだ。
タブレットを使った授業は3月1日に岩手県大船渡市の赤崎小学校、3月6日に同大船渡小学校で行われ、6年生の生徒たちが自分たちの町の名産品や祭などの情報をARアプリのセカイカメラを通じて発信した。将来の町の姿について、神奈川県の小学校とテレビ電話で話す機会もあり、「生徒たちは、教室にいながらにして外部の情報を得たり、遠くの小学校の生徒とコンタクトしたりと“学びの空間が広がった”ことを喜んでいた」(眞藤氏)という。
さらに、防災につながるICTの活用に向けた施策「エリアメールとエリアワンセグの連携」も興味深い取り組みだ。速報性のあるエリアメールの中に、特定のエリアに特化した番組を配信できるエリアワンセグへのアクセスボタンを設け、“今、自分の町がどうなっているか”を把握できるようにする。
「エリアメールが“気づき”を担い、市町村ごとのきめこまかい災害情報配信をエリアワンセグで実現する。両方ともネットワークの輻輳の影響を受けないのもポイント」(眞藤氏)。
この取り組みについては2012年10月をめどに、宮城県石巻市で実証実験を予定しているという。
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