立会内取引の流動性を維持・向上するため、多くの商品取引所において、常時流動性を提供するマーケットメイカー制度が導入されている。
TOCOM電力先物市場においても、2019年9月の取引開始以来、一定のインセンティブを設けることにより同制度を運用しているが、マーケットメイカーが約定した電力量は全体の約1%に留まっている。
現在、マーケットメイカーを担う事業者の業種は主に新電力であり、今後、大規模発電事業者や金融機関等に指定対象者を見直すことなどにより、マーケットメイカー取引量を増加させることを検討する。
電力先物取引は、金融商品会計基準に定められているデリバティブ取引に該当する。このため原則として、期末時には先物ポジションの時価評価を行い、評価損益をPLの営業外損益に計上することが求められる。
この例外として、ヘッジ目的の取引で、金融商品会計基準に定められている要件を満たす場合は、ヘッジ手段の損益を繰延べる「ヘッジ会計」の適用が可能となる。
ヘッジ会計を適用するためには、ヘッジ対象が相場変動等による損失の可能性にさらされており、ヘッジ対象とヘッジ手段のそれぞれに生じる損益が互いに相殺される関係にあること、若しくはヘッジ手段によりヘッジ対象の資産又は負債のキャッシュ・フローが固定されその変動が回避される関係にあること、などの要件が示されている。
ただし現時点、電力先物に対するヘッジ会計の適用について、ASBJ(企業会計基準委員会)からは統一的な見解は示されておらず、会計士等の意見を踏まえて企業ごとに判断しているが、ヘッジの有効性評価の観点から、ヘッジ会計の適用が困難との意見が多数となっている。このため、事業者からはヘッジ会計の明確化が求められている。
電力先物には、グローバルな燃料マーケットや国内の電力事業の実態、先物を含めた金融実務など幅広い分野に明るい人材が求められるが、実際にはこれら全てのスキルを持つ人材は限られており、人材の不足が課題とされている。
人材の裾野を広げるためには、グローバル燃料マーケットや金融に明るい人材を他業種や海外企業から採用し、国内電力の実態に明るい人材と組み合わせてチームを組成し、お互いを補完するような形で人材を育成していくことなどが求められる。
また実務担当者だけでなく、先物を活用したリスクヘッジの重要性について、経営層や組織内での理解を十分に得ることの課題も指摘されている。電気事業者に対する2021年アンケート調査では、そもそもリスクを定量的に管理していない事業者も一部存在することが明らかとなった。
まずは、リスク管理の標準的手法やベストプラクティス、ガイドラインの作成、企業間での知見共有などにより、電力先物を含むリスクヘッジに対する理解醸成が重要となる。
これには市場の透明性確保も重要な論点となるため、今後の検討会では、電力先物取引に必要となるマーケット情報や、電力需給に関する情報発信の在り方についても、検討を行う予定としている。
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