世界に勝てるグループウェアを作った男挑戦者たちの履歴書(25)

編集部から:本連載では、IT業界にさまざまな形で携わる魅力的な人物を1人ずつ取り上げ、本人の口から直接語られたいままでのターニングポイントを何回かに分けて紹介していく。前回までは、ウルシステムズの漆原氏を取り上げた。今回からは、サイボウズの青野慶久氏を取り上げる。今回、初めて読む方は、ぜひ最初から読み直してほしい。

» 2010年07月07日 12時00分 公開
[吉村哲樹,@IT]

 「グループウェア」と聞いて、読者の皆さんはどんな製品のことを思い浮かべるだろうか?

 IT業界にある程度長くいる方であれば、恐らく真っ先に「Lotus Notes/Domino」を思い浮かべるだろう。何を隠そう、筆者もその1人である。グループウェアという製品ジャンルを切り拓き、長くこの分野で1人勝ちを続けたこの製品は、まさにグループウェアの代名詞のような存在といえるだろう。

 もう少し若い読者であれば、Lotus Notes/Dominoと併せて、マイクロソフトの「Microsoft Exchange Server」も挙げるだろう。筆者自身も、長らく同製品とMicrosoft Outlookを組み合わせた環境で仕事をしていたこともあり、個人的に最も親しんでいるグループウェア製品だ。さらに、同じくマイクロソフトが提供する「Microsoft Office Sharepoint Services」も、この数年間で急速にシェアを伸ばしている。

 Lotus Notes/DominoとMicrosoft Exchange Server。このグループウェア界の「二大巨頭」ともいうべき2つの外国製品は、ワールドワイドのグループウェア市場で極めて大きなシェアを占める。しかし、こと日本国内となると、少し事情は異なってくる。

 そう、サイボウズの存在を見逃すことはできない。

 同社のグループウェア製品は、中堅・中小企業向け市場に限っていえば、何と前記の外国勢を上回るトップの利用シェアを誇るのだ(2009年ノークリサーチ調査)。読者の皆さまの中にも、実際に日々の業務でサイボウズ製品を利用されている方も多いだろう。

 実は筆者も、つい最近まで同社のグループウェア製品「サイボウズ Office」を業務で利用していた。とにかく直感的で使いやすい、というのが同製品に対して抱いた印象である。通常、新しいツールを職場に導入すると、多少なりとも混乱が生じるものである。

ALT サイボウズ 代表取締役社長 青野慶久氏

 特に、もの覚えが人一倍悪い筆者のようなユーザーは、周囲の詳しそうな人間を片っ端から捕まえては、使い方を聞いて回るのが常である。ところが同製品に関しては、ほぼ独力で使い方を覚えることができた。オンラインヘルプやマニュアルを開くことも、1度もなかった。こんなことはまったく初めてである。

 もちろん、サイボウズという会社のことは、それ以前から聞き知っていた。製品の評判だけでなく、1度聞いたら頭から離れない、その独特な響きを持つ社名も印象的で覚えやすかった。そして何より、社員数200人ちょっとのベンチャー企業が作り出す製品が、IBMやマイクロソフトといった世界有数のグローバル企業が支配する市場に挑み、着々と成果を上げていく様は、まるで宮本武蔵が単身吉岡道場に乗り込む姿を彷彿させるようで、日本のIT業界に身を置く者としては溜飲が下がる思いがしたのである。

 そのサイボウズの共同創始者の1人であり、現在代表取締役社長を務めるのが青野慶久氏である。2005年に社長に就任して以来、次々と新しい事業展開を打ち出し、同社を牽引し続けている同氏だが、そのパワーの源は一体どこにあるのだろうか? そして、サイボウズが持つ独特のビジネスモデルと社風は、どのように形成されていったのだろうか?

 そうしたことを探るべく、このたび青野氏に話を聞く機会に恵まれた。同氏の生い立ちからサイボウズの設立、そして社長として日々奮闘する現在に至るまで、その過程を自身の口から語ってもらった。次回以降、その内容を少しずつ紹介していきたいと思う。


 この続きは、7月9日(金)に掲載予定です。お楽しみに!

著者紹介

▼著者名 吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。

その後、外資系ソフトウェアベンダでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。


「挑戦者たちの履歴書」バックナンバー

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ