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» 2004年04月02日 18時12分 UPDATE

地デジ+モバイルが生み出す世界(2):地デジと差別化できるか? 「モバイル放送」

2.6GHz帯を利用する、移動体向け放送サービス「モバイル放送」。7月のサービス開始に向け、準備が進むモバイル放送の最新動向を追うとともに、移動体向けの地上デジタル放送「1セグメント放送」との違いを確認する。

[中村実里,ITmedia]

 今年7月、地上デジタル放送とはまた別に、モバイル端末に向けた放送サービスが開始されようとしている。それが、放送衛星で割り当てられた、Sバンドと呼ばれる2.6GHzの帯域を利用した「モバイル放送」(用語参照)だ。3月13日には、このモバイル放送用の人工衛星が打ち上げられた(記事参照)。4月末からはこの衛星を使って、テスト放送が行われる予定だ。

 事業を進めるのは、東芝を筆頭株主として、トヨタ自動車、NTTデータ、日本テレビ放送網など計74社が出資する「モバイル放送株式会社」。昨年9月には、韓国市場で最大シェアの携帯電話キャリアであるSKテレコムが衛星を共同で保有し、韓国においても「モバイル放送」を開始することを決めた。SKテレコムでは、日本とはまた違った独自のサービスやコンテンツが提供される予定だが、現在は日韓共同プロジェクトとして、準備が進められている。

 地上デジタル放送でも、移動体向けとして「1セグメント放送」の開始が予定されているが(前回記事参照)、こちらは早くても2005年度末ごろといわれている。これに先駆けて始まるモバイル放送とは、一体どのようなもので、実際に市場にインパクトを与えることができるか。地上デジタル放送との比較も交えて、確認してみよう。

専門性の高い有料コンテンツとデータ放送

 モバイル放送で現在予定されている有料サービスは、大きく「映像チャンネル」と「音声チャンネル」に分けられる。「映像チャンネル」は6チャンネルからスタートし、ニュース、エンターテイメント、競馬、ミュージックビデオチャンネルなどを提供する。

 一方、「音声チャンネル」は30チャンネル程度からスタート。音楽がメインで、そのほかは海外FM放送やニュース、英会話のチャンネルが予定されている。また放送と一緒に楽しめるデータ放送では、ニュースや天気予報、占い、スポーツ速報などのコンテンツを提供する。放送波から一旦、端末に蓄積されたコンテンツを、ユーザーが必要なときに呼び出して表示させるものだ。

 画像フォーマットはMPEG-4で、音声フォーマットはAAC。データ放送は、BMLをベースにした独自言語を採用している。

 料金体系は、「音声のみ」「映像のみ」「全体」パッケージが用意され、それぞれ月額1000円〜3000円程度の価格が設定される。7月のサービス開始当初は、携帯用の端末が2機種、続いて車載用チューナーがリリースされる予定だ。携帯用端末で5万円くらいの販売価格を検討中という。

Photo モバイル放送専用の試作端末。3.5インチの液晶ディスプレー付きで、手のひらサイズを実現した。75×112×22ミリ、重さは約200グラム(バッテリー、アンテナ含む)

「モバイル放送」と「1セグ放送」の共存

 モバイル放送と1セグ放送は、どう違うのか。モバイル放送の事業推進統括部、統括部長代理の山口慶剛理学博士は、「モバイル放送は全国エリアと専門性の高いコンテンツが特徴だが、1セグ放送では家庭で見ているテレビ番組を、そのままモバイル端末から見られるという特徴がある。競合するのではなく、お互い補完しながら上手く共存できるのではないか」とコメントする。

モバイル放送 地上デジタル放送
放送波 衛星放送 地上波放送
サービス対象 移動体向け 家庭のテレビ向け(一部、移動体向け)
チャンネル数 約40チャンネル(開始時) 地域のテレビ局の数(関東:7チャンネル)
番組内容 専門チャンネルが中心(音楽・ニュース・スポーツなど) サイマル放送主体
サービスエリア 全国 ローカル放送
視聴料金 有料 無料(NHKを除く)

 現在でも家庭内のテレビにおいて、地上波放送と、映画やスポーツ番組などの専門チャンネルを特徴とするBS/CS放送は、視聴者側がその時々の利用意向や好みによって使い分けしながら共存している。モバイル向け放送の世界でも、これと同じような環境が視聴者に提供されるというわけだ。

「H.264」へ軌道修正する1セグ放送、MPEG-4を採用するモバイル放送

 1セグ放送は、放送事業者、携帯電話事業者、メーカー、広告代理店など多くのプレーヤーがそれぞれの利権を主張しながら、通信・放送を融合したサービスを提供するという、大掛かりなプロジェクトだ。TVとインターネットが共存する結果、広告が視聴されなくなるおそれがある、いわゆる「ダブルスクリーン問題」も、映像や広告に接触する機会を減らしたくない放送側と、通信機能を多く利用してほしい携帯事業者側との、思惑の違いから生じている。

 一方、モバイル放送の事業体制は、ハード・ソフト一体型だ。サービス運営に関わる、あらゆる権限をモバイル放送1社が、一手に担っている。受信端末やコンテンツの規格策定はもちろんのこと、放送設備を独自に保有して、コンテンツ編成から送出まで対応する。当面はCMを入れない予定であるため、今のところダブルスクリーン問題などを心配する声は上がっていないという。

 また1セグ放送では、MPEG関連特許のライセンス管理を行う団体「MPEG LA」とNHKや民放連の間で、動画の圧縮形式「MPEG-4」のライセンス料をめぐって折り合いがつかず、交渉が難航していた。無料放送を前提としているため、「MPEG LA」が提示する従量制課金方式で納得するわけにはいかない事情があったためだ。そして3月24日、NHKや民放連から、これまで交渉を続けてきた「MPEG-4」は断念し、並行して検討を進めていた「H.264」を採用することで、「MPEG LA」とようやく合意したことが正式に報じられたという経緯がある(3月24日の記事参照)。

 しかしモバイル放送は、当初の予定どおり「MPEG-4」を採用する方針を変えない。ライセンス料などについては、これから詳細を詰めていく予定だという。

 山口氏は、「地上デジタル放送で取りざたされているような、MPEG-4のライセンス問題やダブルスクリーン問題などの懸念は今のところない。今は魅力的なコンテンツやサービスを揃え、それをどのようにユーザーへ訴求していくかが課題」と話した。

将来的には「モバイル放送」受信機能付の携帯も

 現在モバイル放送は、携帯キャリアとも放送受信機能の搭載について交渉中だ。将来的には携帯電話の付加機能として、モバイル放送チューナー搭載端末がお目見えするかもしれない。実現すれば、携帯電話の通信機能を利用し、放送と連動した双方向サービスも可能になるという。

 「他事業者と協力しながら、モバイル放送のプラットフォームを使った新しいサービスをつくっていきたい。コンテンツ課金のほか、将来的には双方向サービスを利用したEコマースなどでレベニューシェアするビジネスモデルを考えている」。山口氏は、今は立ち上げの準備で精一杯としながらも、期待感をこう話した。

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