auはトレンドか、ブランドか?

» 2004年04月14日 01時38分 公開
[神尾寿,ITmedia]

 端末の商品力以外に忘れてはならないのが、キャリアのサービスやブランドに対するユーザーの評価と信頼である。3月商戦はこれが顕著に表れる。

 今回のTCAの結果では、ドコモとauは鍔迫り合いでいい戦いをしている(4月7日の記事参照)。販売店の現場でも、「まったくゼロから選ぶお客様は、ドコモとauを対等に比べる人が増えてきました。キャリア乗り換えについては、auの方がドコモより指名買いが強いですね」(先述の都内販売店売り場責任者)。

 確かにドコモとauの拮抗は純増数に表れている。しかし、ここから「auのブランド力はドコモと対等」と考えるのは短絡的だろう。なぜなら今のauの強さには、「auはセンスのいい選択」というユーザーの気分が多分に影響しているからだ。現時点では、au人気はユーザーと市場の雰囲気による、一過性のトレンドである可能性も否定できない。

ブランドに対する信頼の獲得がauの課題

 実はau自身も自らが「ブランド」になり得たとは考えていない。

 KDDI au事業企画部マーケティング統括部ブランド戦略グループリーダーの和泉一波次長は、「全国規模でauはお客様に認めていただけるようになりましたが、auはまだブランドというより、トレンドです。ようやく個性派自由ブランドとして少し認められてきたかな、という段階です。油断はできません。認知度の向上だけでなく、ユーザーに信頼してもらわなければならない」と話す。

 トレンドから、高感度ユーザー向けにブランド力を得るまでにはそれほど時間がかからない。ユーザー本位で革新的なサービスを投入し続ければ、1〜2年程度で獲得できる。しかし、その次、多くの一般ユーザーにブランドを認めてもらうのには時間がかかる。信頼の醸成が必要なのである。

 その反面教師になるのが、現在のボーダフォンである。同社はJ-フォン時代に写メールでトレンドになり、高感度ユーザー向けのブランド獲得までは成功した(2002年4月の記事参照)。しかし、社名とブランド名をボーダフォンに変更し、料金プランやサービス内容の改変を繰り返す事で、「信頼の醸成」段階で失敗。J-フォン時代の成果を少なからず振り出しに戻してしまった。これは非常に残念なことだと、筆者は思う。

 auが本当の意味でドコモ対抗ブランドになれるかは、辛抱強くユーザーの信頼に応える努力が続けられるかにかかっている。

優秀な“演奏家”から“作曲家”になれるか

 筆者は、もうひとつ今のauブランドに足りないのは、確固たる「実績」だと考えている。誤解を恐れずにいえば、auは携帯電話のパラダイムに関わる新たな提案を、何もしていない。

 NTTドコモは音声通話の時代に市場の拡大に努めた後、iモードで携帯電話の世界にパラダイムシフトを起こした。この実績は巨大であり、ドコモブランドを広いユーザー層に認知させる“輝き”になっている。またiアプリでアプリの世界観も創出している。

 ドコモのiモードほどではないが、旧J-フォンも「写メール」で携帯電話の世界に新たなパラダイムを作り、ユーザーの利用スタイルに大きな影響を与えた。この実績がJ-フォンのブランド力を向上させた。

 翻って、auはどうか。

 auはまだ、iモードやiアプリ、写メールに匹敵する実績を生み出していない。EZ「着うた」はやや近いが、コンテンツビジネスに与えた影響は大きいものの、ライフスタイルや携帯電話のあり方に与えたインパクトという点では、まだ物足りない。auは個別の新サービスで他を先駆けても、ユーザーの利用スタイルや業界全体にうねりを起こせるほどの「何か」を生み出していないのだ。

 例えるならば、auは「演奏家」としては優秀になったが、世界観を作る「作曲家」としては実績がない、といえる。これこそが、auとauブランドの弱点である。

auの強さは本物か

 auは3G普及後のフェイズにおいて、初めて自らが世界観を提案することになる。CDMA 1X WINによるモバイルブロードバンド環境を前提にした携帯電話の「メディアインフラ化」の世界だ。ドコモ、ボーダフォンと違う世界に足を踏み入れることは、auにとって大きな成長であり、危険な賭になるだろう。しかし、この実績作りは一流ブランドになる上で避けて通れぬ通過儀礼である。

 現在、auは純増数1位を取り続けているが、これはauがNo.2として本来あるべき力をつけてきたことに、市場が素直に反応しているだけではないか。auの累計シェアはたかだか20%だ。これまでのauが、そしてボーダフォン(旧J-フォン)が弱すぎたのだ。

 auの強さは、まだ本物ではない。筆者は最近のauを評価しているが、それはNo.2として必要な実力をつけはじめてきたからだ。No.1キャリアの候補としては弱いと考えている。

 auは実力あるNo.2の地歩を固めて、当面の目標である累計シェア30%を取らなければならない。そこまでは、au自身が作った3Gシフトの雰囲気を最大限に活用し、ユーザーを裏切らなければ「実現不可能な課題」ではないだろう。

 その後、累計シェア1位の奪取も狙える実力を持つ「ドコモのライバル」になれるかは、これから始まるNo.2としての成長期に、ドコモ以上のサービスと端末を常に出し続けて、メディアインフラ化の提案が多くのユーザーに受け入れられるかにかかっている。

 auは今ある一時の強さと戦勝ムードに流されず、ドコモに正面から対抗できる「本物の強さ」を身につけなければならない。

前 前編:「auの強さ」は本物か

神尾寿

通信・ITSジャーナリスト。IT雑誌契約ライターを経て、大手携帯電話会社の業務委託でデータ通信ビジネスのコンサルティングを行う。1999年にジャーナリストとして独立。通信分野全般に通じ、移動体通信とITSを中核に通信が関わる分野全般を、インフラからハードウェア、コンテンツ、ユーザーのニーズとカルチャーまでクロスオーバーで見ている。ジャーナリストのほか、IRICommerce and Technology社レスポンスビジネスユニットの客員研究員も努める。

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