実験では、あらかじめ「反対側をかざしても通過できない」旨を告知した上で使ってもらった。試験後のアンケート結果を見ると、「1回以上間違えた」と答えたユーザーが3割に上ったという。
同社ではさらに、実験室レベルでビデオを回しての「利用実態観測」も行った。どちらをかざせば通れるか知らずに端末を持たされたユーザーは、まず任意の側をリーダー/ライターにあてる。そこで改札がバタンと閉まると、今度はもう一度、同じ側で通過を試みる傾向があるという。
「2回やってだめで、そこで初めて反対側を試すという行動をとるようだ」。こうした結果をふまえて、両面読み取りの重要性を再認識している。
もう1つ、課題になり得るのは端末の強度だ。
JRではSuicaの利用法として「タッチ&ゴー」という標語を掲げている。このため、ユーザーはカードをリーダー/ライターに“ぶつける”くせがついている。「非接触カード技術」であるFeliCaのこと、実際にはカードをかざすだけでいいのだが、物理的に接触させて使うユーザーが大半だろう。
これは、モバイルSuicaの運用を考えた場合に支障になり得る。ある程度の端末強度、そしてリーダー/ライター強度を考えないと、いずれかが破損してしまうおそれがあるからだ。
こうして見ると、利用スタイルを分かりやすく示した「タッチ&ゴー」という言葉が、皮肉にもモバイルSuicaの実現に悪影響を与えているかにも思える。しかし、山田氏はタッチ&ゴーという言葉の普及が「必要だった」と話す。 「Suicaの通信を行うには、カードを半径10センチ以内に200ミリ秒以上、止めておく必要がある(8月4日の記事参照)。しかし、『かざす』だけでは200ミリ秒の時間を確保できない」 実際に“タッチする”ことを心がけると、認識率は5倍も向上するのだという。 |
JR東日本では、前述の社員向け試験で「端末をリーダー/ライターにどれくらい強くぶつけるか」も調べている。
「大切な携帯を、バッチ―ンと叩きつけるユーザーもいないだろう。接触面に指をはさんで、そっとタッチしてくれないか? と期待した」
実際には、ぶつけるほどではないが、「軽くコンとあてる」ユーザーが大半だったという。これでも損傷のおそれがないわけではないが、山田氏はまずは安心したようす。
「壊れるほど叩く人はいない。それほど心配はしていない」。端末強度の問題は、比較的容易に解決できるとの見方を示した。
JR東日本のFeliCaに対する取り組みといえば、Suicaを利用した電子マネーサービスも注目だ。インタビューの後編では、同社の電子マネーへの姿勢と、ビットワレットが提供する「Edy」との距離感などを聞いてみたい。(つづく)
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.