“MIMO”無線LAN機器、安くなっても「マス」は遠い

» 2005年06月21日 19時51分 公開
[IDG Japan]
IDG

 高度なマルチアンテナ技術を使って、速度とカバー範囲を向上させた無線LAN機器が安くてに入るようになる――ただし、標準化される前の製品でよければの話だが。

 大手Wi-Fiベンダーのほとんどは、複数のアンテナを活用して標準的なWi-Fiの最高速度54Mbpsを上回るデータ転送速度を実現し、場合によってはカバー範囲を拡大するシステムを、コンシューマー向けアクセスポイントなどに提供している。

 これらの技術――実際には複数の異なるシステムだが、すべてMIMOと称している――は、複数の内蔵アンテナと、それを活用する機能を提供する。だがこの種の製品は今のところ高価で、ルータは200ドルする。さらに、これら製品はおそらく2007年まで、標準として承認されることはないだろう。ただし既存のWi-Fi機器とは連係する。

 昨年からMIMOチップセットを提供していたAirgo Networksは6月21日に、これまでよりも安価で性能を強化した無線LAN機器向けチップセットを発表した。その中には現行の「True MIMO」の低価格版と新しい「True G」「True AG」が含まれる。

 True MIMOチップセットを搭載した無線LAN機器は、従来の802.11g機器の2倍以上の実スループットを実現し、壁もよく通り抜けるため、ほとんどの家の「デッドスポット」を取り除くとAirgoのグレッグ・ローリー社長兼CEOは語る。同社はチップの統合でTrue MIMOの価格を引き下げた。それにより現在149〜199ドルで売られているTrue MIMO採用のアクセスポイントは、129〜149ドルにまで値下がりするはずだという。安価なTrue MIMO製品は2カ月以内に出回り出すはずだ。

 だが、ベンダーはTrue Gを採用すれば100ドル以下でアクセスポイントを提供できる。True G機器は、True MIMO製品よりパワーは劣るものの、スループットはかなり高く、デッドスポットも解消されるとローリー氏。True Gを採用したルータは69〜99ドル、PCカードは59〜89ドルで今月から販売されるはずという。周波数の異なるIEEE 802.11aと802.11gの両方に対応するTrue AGを採用した機器は、True G製品よりもわずかに高くなる。

 Airgoの製品は、データを複数のストリームに分割して複数のアンテナから送信し、それを目的地でデジタル信号処理によって組み立てるとローリー氏は説明する。AirgoベースのPCカードと標準的なアクセスポイントを併用するなど、同社技術を使った機器が1つでもあればユーザーは恩恵を受けられると同氏は言う。

 IDCのアナリスト、セレステ・クリスタル氏によると、Airgo製品のような高度なWi-Fiチップセットの価格は下がってきている。今年初めには約18ドルだったのが、年末には16ドル34セント、1年後には13ドル88セントに下がる見込みだ。

 価格の低下によってマルチアンテナ製品の魅力は拡大するだろうが、平均的なコンシューマーがこの技術を取り入れるのは、IEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)での標準化の戦いが終わってからだろうとCurrent Analysisのピーター・ヤリチ氏は指摘する。

 「こうした製品の価格が、標準化が終わるまでにメインストリームのプライスポイントに達することはなさそうだ」と同氏。ユーザーがこの技術を買うには、スケールメリットと競争のほか、正式なWi-Fiの承認印が必要だと同氏は付け加えた。それまでは、Airgoベースの製品は真のマステクノロジーにはならないだろう。

 これは企業の場合にもっと当てはまるとIDCのクリスタル氏。

 「企業顧客はこれを受け入れないだろう。近いうちに変更されそうな技術に投資したくはないからだ」(同氏)

 IEEEの標準化作業で争点になっているのは802.11nだ。この技術は802.11a/gに続く無線LAN標準の次のステップとして開発されたもので、実スループットを100Mbps以上に引き上げることを目指している。しかし複数の標準案のうち、802.11n作業部会で標準化に必要な75%の賛成票を獲得できたものはない。今は2つの大きな派閥が妥協案に取り組んでいるところだとローリー氏は話す。

 派閥の1つWorld-Wide Spectrum Efficiency(WWISE)には、Airgo、Broadcom、Motorolaが参加している。皮肉なことにAirgoの顧客であるLinksysの親会社のCisco Systemsは対立するTGn Syncの提案を支持している。TGn SyncにはAtheros CommunicationsやIntelが加わっている。

 幾つかのベンダーは既に、標準化の初期の段階にあるにもかかわらず、マルチアンテナ製品に「プレN」という言葉を使っている。だがヤリチ氏は、それでコンシューマーの興味を失わせるような混乱が起きることはないと考えている。

 「これは混乱の下地を作っているが、現時点ではほとんどのコンシューマーは、混乱するほどこの技術のことを知ってはいないと思う」(ヤリチ氏)

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.

アクセストップ10

2024年03月29日 更新
最新トピックスPR

過去記事カレンダー

2024年