課題山積のモバイル業界、小野寺社長の舵取りは──KDDI定例会見

» 2007年09月19日 21時40分 公開
[後藤祥子,ITmedia]

 モバイル業界が変革の時期にさしかかっている。モバイルビジネス研究会で議論されている、端末と利用料金の分離プラン導入やインセンティブモデルの是非、導入が待たれるPC接続のデータ定額次世代高速無線通信の事業免許申請、次世代端末の投入計画など、キャリアトップの手腕が問われる大きなトピックが目白押しだ。

 携帯業界のこれからを左右する課題が山積する中、KDDIの小野寺正社長はどんなビジョンで臨もうとしているのか。9月19日に開催された定例会見で小野寺氏が、それぞれの問題に対する見方を説明した。

WiMAXに対する取り組みは、他社よりも早く本気

Photo KDDIの小野寺正社長

 KDDIは9月18日、2.5GHz帯を使った次世代高速通信の事業免許取得に向け、事業企画会社「ワイヤレスブロードバンド企画」を設立すると発表した。この企画会社には、京セラ、米Intel、JR東日本、大和証券グループ本社、三菱東京UFJ銀行が出資することが決まっており、この6社連合でWiMAXサービスの展開を目指す。

 「WiMAXに対する取り組みは他社より早く、本気」だと小野寺氏。KDDIは、WiMAX Forumのボードメンバーに名を連ね、WiMAXの標準仕様を策定するIEEE802.16TG委員会に議長を送るなど、技術と標準化の両面で積極的に取り組んできた。「人とお金を使って汗をかいてきた」(小野寺氏)

 KDDIがWiMAXにこだわる理由は、大きく2つある。1つはWiMAXが国際標準規格である点だ。「日本の無線局にあてはまるように仕様を規定してもらっており、海外の端末を日本で使えるような仕組みを作っている」(小野寺氏)というように、標準化仕様に準拠したデバイスなら、1台の機器を日本でも海外でもそのまま利用できるというメリットがある。また、インテルがWiMAXを強力に推進しており、今後ノートPCなどへの搭載が進むと見られることも後押ししている。

 もう1つは、WiMAXの市場がauブランドで展開するモバイルサービスの市場と異なり、棲み分けできる点だ。

 auのようなモバイルサービスは、シームレスなハンドオーバーに対応し、高速で移動しながらでもとぎれず利用できることが重要視される。一方のWiMAXは、音声利用時のようなハンドオーバーを保証するものではなく、平均速度が出ることを期待される通信であり、ビジネスのカテゴリーが異なる。WiMAXのようなワイヤレスブロードバンドは、まずPCで立ち上がり、その後、組み込みで入ると小野寺氏は予測し、auは3Gサービスを継続的に発展させる形で高速化を進める方針だ。

 実業の世界では、「やる気のある会社が資本力をもってやらないと、中途半端なものになり、導入も遅れるというということが往々にしてある」と小野寺氏。“KDDI連合”には、大和証券グループ本社、三菱東京UFJ銀行の金融機関2社が入っており資金面もしっかりしていると胸を張る。「いい形でできたのではないか。(ワイヤレスブロードバンド企画は)自信を持って発表した」(小野寺氏)

端末・料金の分離プランと販売奨励金モデル

 小野寺社長は、モバイルビジネス研究会で端末代金と通信料金の分離プラン導入にあたり、行政当局の関与を示唆する答申が出たことについては懸念を示した。理由は、それがキャリア間の競争を阻害しかねないからだ。キャリアがシェア争いを繰り広げる中、料金はそれを左右する大きな要素であり、「官主導で料金体型を決めるのには違和感を感じる」(小野寺氏)という。

 販売奨励金モデルの見直しについては、業界に影響を与えないようソフトランディングの方向で進めるべきとあらためて強調し、具体例を挙げて説明した。販売奨励金を廃止すると端末の価格が上がり、ユーザーは同じ端末を今より長く使い続ける可能性が高くなる。そうなると端末の販売台数が減少に向かい、販売奨励金と手数料で成り立っているショップが経営難に陥るというわけだ。その影響でショップの数が減ると故障などへの迅速な対応が難しくなり、顧客の不満を引き起こすという負のスパイラルにつながりかねないことから、慎重な対応を求めた。

PC接続定額は“条件付き”なら可能性も

 小野寺氏は、モバイル業界で注目されるサービスにも言及。導入からまもなく1年を迎える番号ポータビリティについては、1年目で利用したい人はほぼ一巡し、利用が減るという従来の見方を変えていない。ただ、あるキャリアが他社に比べて優位なサービスを導入した場合には、流動性を高める効果があると見る。

 ドコモが導入したPC接続の定額プランに追従するかという質問には、「検討していないというと嘘になる」と言うにとどめた。ただ導入するにしても、無制限の定額はできず、「何らかのコントロールと対でやることは考えられる」とした。

秋冬モデルは“一部、Rev.A”をラインアップ

 冬商戦に向けた発表会シーズンが近いこともあり、小野寺社長は今後の端末ラインアップにも触れた。秋冬モデルの一部がクアルコムの「MSM7500」チップセットを搭載したRev.A対応端末として登場し、以降、WINは順次Rev.Aに標準対応させる計画だ。

 今後の課題として挙げたのは、端末の処理速度やバッテリーの持ちと、携帯にどれだけのスピードが求められるかのバランスを考えた端末開発。モバイルの次世代高速化システムの導入は、ビット単価は下がるもののインフラへの投資は多大なものになることから、効率化を考慮し、国際標準や海外動向を見ながら仕様を決めるという。

 携帯業界全般については、急速な成長の段階からスローダウンの時期に入ったと見るが、法人は今後の成長が期待できる分野であり、携帯事業の発展が止まることはないとした。

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