インタビュー
» 2007年10月25日 21時32分 UPDATE

iPhoneは、オープンなうちにこそふさわしい――イー・モバイルの千本氏

3月末に13年ぶりの新規参入キャリアとして開業したイー・モバイル。当初からオープンなビジネスモデルを推進するとし、その姿勢を貫いている。同社を率いる千本倖生会長が、携帯業界のビジネスモデルに言及し、オープン化の重要性について説明した。

[末岡洋子,ITmedia]
Photo ハンガリー・ブタペストで開催された「ETRE 2007」で講演を行ったイー・モバイルの千本倖生会長

 2007年3月末に商用サービスを開始し、携帯業界へ13年ぶりに新規参入を果たしたイー・モバイル。すでに加入者は12万を超え、順調なスタートを切ったといえるが、これで満足する千本倖生会長ではない。イー・モバイルの立ち上げを支え、今も会長兼CEOとして事業を牽引する千本氏はもっと大きな野望を抱いている。

 ハンガリーで開催された「ETRE 2007」で講演を行った千本氏に、イー・モバイルの現状と今後、WiMAX事業のビジョン、携帯電話業界のこれからについて話を聞いた。

ITmedia イー・モバイルのスタートから約半年が経過しました。事業の推移をどう見ていますか

千本氏 加入者は12〜13万人に達しています。開業から約半年、データサービスだけでこれだけの契約数に達したという事実はまだ、過小評価されていると思います。

 今から7年前の2000年、固定のブロードバンドサービスが始まりました。当時ゼロだったユーザーが、今ではADSL、光ファイバーなど合わせて1000万人に達していますから、ものすごい勢いで移行が進んだことになります。このような動きが今度、モバイルでも始まったわけです。音声市場は成熟しており、いずれは主役が音声からデータに移ります。我々は今、まだ存在しない市場を創る、次世代のモバイルネットワークオペレーターだといえるでしょう。こうした意味では、現在、音声を主軸とするオペレーターは“黒電話”を売っているようなものです。

 実際、イー・モバイルは世界的に注目されており、「世界で一番おもしろい会社」といわれています。世界で初めて、データ利用にフォーカスしたオペレータであり、真に無制限の定額制を提供しているのは我々だけなのがその理由です。他社も“やる”といいながら追随できないのは音声からの売上を失いたくないからでしょう。

 ほかにもオーストラリアのTelestraというオペレーターが、似たようなことをしようとしています。この会社はこれまで、CDMAを採用していましたが、ブロードバンドの時代にこれでは対応できないということで、米国から来たCEOが“1年でW-CDMAに移行する”と宣言し、ドラスティックな改革を断行して話題になっています。私は、これは正しい判断だと思います。

ITmedia 音声サービスの計画について教えてください。

千本氏 音声サービスは、来春にスタートする予定で、他社とはまったく異なるネットワークで音声サービスを提供することになります。これ以上の詳細は、現時点ではお話しできません。

 10月初めに、イー・モバイルのPDA型端末「EM・ONE」にVoIPソフトの「JAJAH」をプリンストールすると発表しました。条件はあるものの、タダ同然で音声通話できることから、大きな反響がありました。これまで我々のPDAを利用する顧客にとって、音声サービスがないというのは唯一の不満点であり、この点が解消されたのです。「Skype」も利用できますが、JAJAHはデータVoIPを想定したアプリケーションなので、より適しています。音声市場への破壊が始まったといえます。

ITmedia HSPAやWiMAXをどのように見ていますか?

千本氏 我々のネットワークはHSPAですが、これはすばらしい技術です。メリットは、速度とボリュームの2つです。WiMAXは、Ericsson、Nokiaと世界の大手ベンダーがサポートする世界標準の技術であり、コストメリットが期待できます。

 WiMAXのライセンスにつながる話ですが、世界で使えるというのは重要なことです。次世代PHSは日本の技術であって、世界標準ではありません。WiMAXで“PDCの間違い”を繰り返してはいけないと私は考えています。“日本の技術を”という声もありますが、結局はGSMに勝てなかったことを思い出すべきでしょう。

 次世代高速通信については、GSMのように世界的に標準の技術を採用すべきであり、日本は再びグローバルから外れるべきではない。そうでなければ、日本の国際競争力が落ちてしまいます。国民の貴重な財産をむだにしてはいけません。

ITmedia 日本の端末メーカーをどのように見ていますか?

千本氏 NTTドコモやKDDIがメーカーを囲い込んで、1機種のために相当額を投資して、自社向けに端末を作れという。このようなモデルが存在するのは日本のみで、これが日本のメーカーが世界的にシェアを落とした最大の原因です。日本のメーカーは、世界に出ていくガッツがなくなってしまったのかもしれません。

 10年前、NECやパナソニックは世界トップレベルのメーカーでした。しかし現在のシェアは、NECが0.1%、パナソニックが1%でしょうか……。10数社の日本メーカー全部を合わせても、シェアは10%程度にとどまっています。これはSamsungの半分以下で、LGにも及びません。この10年で、日本の端末メーカーは世界のトップから追いやられてしまったのです。

 このままでは、グローバルのメーカーが日本市場に本気で参入しなくなるかもしれません。Motorola、Nokiaなどは、日本のビジネスモデルで端末を開発して日本市場に進出するより、世界標準の携帯電話を作って世界市場で売ったほうがいいと考える可能性もあります。

 NokiaやSamsungから学ぶべきことは多いと思います。2社とも自国のマーケットは小さく、だからこそ世界標準でグローバルに出て行ったのです。そしてGSMを一生懸命やったから、世界のトップクラスになったわけです。私はこうした事情をモバイルビジネス研究会でもオープンに発言しており、総務省の若手幹部などは理解を示しています。

 モバイル業界は戦略的産業であり、日本は存在価値がなくなるという危機に直面しているのです。これが60歳をすぎて再度起業した理由で、次の世代のためにも日本のモバイル業界を何とかしないといけないという危機を感じています。

ITmedia WiMAXでは、ソフトバンクと組みました。

千本氏 ソフトバンクとは、ADSLのビジネスにおいてはよきライバルですが、より大きな視点では、我々はNTTに対抗するチャレンジャーであり、そういう意味では同志ともいえます。

 NTTドコモは全周波数の50%以上を、KDDIは30%以上を保有しています。米国では、オペレーターは30%以上の周波数を保有してはいけないという規則がありますが、日本にはありません。

ITmedia モバイルブロードバンドの時代が到来しても、通信キャリアは囲い込み型のポータルビジネスを続けるのでしょうか?

千本氏 ポータルは間違った差別化です。付加価値ではなく、乗り換えを阻止するためのものともいえ、世界の潮流に反します。オペレーターはオープンにすべきです。

ITmedia Appleの「iPhone」は端末メーカーがオペレーターを選ぶという、これまでにないケースとなりました。これについてどう思いますか?

千本氏 日本とはまったく逆ですね。鋭いアンチテーゼで、面白いと思います。オペレーターとメーカーの力関係をまったく変えてしまうもので、今後のトレンドになるかもしれません。しかし、Appleの端末で他のネットワークを使えないというのは疑問です。ここもオープンにすべきでしょう。

ITmedia iPhoneを日本で提供したいと思いますか?

千本氏 iPhoneが持つ機能を考えると、正直言ってまだまだ売れていないと思います。これはネットワークにGSMを採用していることが大きい。我々のネットワーク(HSDPA)は、iPhoneの魅力を最大限に発揮できるものです。

 スティーブ・ジョブズ氏に「うちと組めば、iPhoneの機能を最大限に生かせる」といいたいですね。iPhoneとイー・モバイルは、すばらしい組み合わせだと思います。

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