SIMロック解除や販売奨励金の是非、MVNOの展開など、今後のモバイルビジネスのあり方を議論する総務省主催の「モバイルビジネス研究会」の第9回会合が8月29日に開催された。今回の議題は、研究会がまとめた報告書案について、主要事業者からヒアリングをすること。会場にはNTTドコモの中村維夫社長、KDDIの小野寺正社長、ソフトバンクモバイルの孫正義社長、ウィルコムの喜久川政樹社長、そしてイー・モバイルのエリック・ガン社長が自ら乗り込み、報告書案に対する意見を話した。
6月26日の第8回会合から約2カ月。前回モバイルビジネス研究会の報告書案が発表され、それに対するパブリックコメントも明らかにされたが、今回は5社の代表が一堂に顔をそろえ、研究会で議論するという、とても珍しい光景が見られた。
まず、NTTドコモの中村社長がプレゼンテーションを行った。販売奨励金に対しては「モバイルビジネスの発展に寄与したのは間違いない。しかし、従来の意味合いは薄れており、不透明性、不公正感があるのは認識している。何らかの手当は必要だと思っている。ただし、(報告書案が提案するような、端末価格と通信料金の)分離プラン以外にも透明性、公平性のあるプランづくりはできるはず。いっそのこと、販売奨励金を廃止するということも考えられる」と、奨励金の見直しに前向きな姿勢を示した。
ただし、「ネットワークの料金体系に見直しが必要。さらに、再販売価格維持に関する独禁法の整理もしなくてはならない。ユーザーに対して、仕組みが激変するのは望ましくないため、現行モデルとの併存はやむを得ない。またメーカー・代理店に与える影響を考慮する必要がある」として、見直しの導入は、時間をかけて慎重にすべきであると付け加えた。
SIMロックに関しては、「日本の市場は事業者による端末とネットワークの高度化を通じた競争市場であり、欧米とは事情が異なる」(中村氏)として、当面動向を注視すべきだという考えだ。中村氏は、キャリア間の競争が端末を含めたものになりつつあることや、コンテンツでのサービス競争も加速することを踏まえ、「SIMロック解除の意味は薄れつつある。2010年の導入検討においても、そのころの状況は変わりつつあるので、市場に与える影響を慎重に見極めるべき」だとした。
MVNOは「MNOにとっても、施設が有効利用されるので歓迎する」と話すものの、実際には、MVNO事業者にも、リスクを確保した上で参入してほしいとしている。MVNOの約款化については「日本ではMVNOは発展の段階。事例を積み重ねていく時期であり、約款化はもうすこし後にすべき」というスタンスを見せた。
続いて発言したのはKDDIの小野寺社長だ。同氏はまず「モバイル市場は事業者間の競争が激しいのが大前提となっている。市場規模は10兆円を越え、周辺の経済波及効果を含めると30兆円規模になっている」とモバイル市場の現状を説明した。
小野寺氏は「このような市場規模は、ネットワーク、端末、料金、サービスが有機的に連携して発展したからこそ成長してきた」と、垂直統合型モデルの優位性をアピール。ネットワークを高度化し、カメラやワンセグを搭載して、低廉な料金プランを導入し、GPSや着うたフルなどを充実させてきたのは、事業者間の激しい競争を勝ち抜くためであり、垂直統合モデルは現在も有効に機能しているとの認識を示した。現状のままでも、さまざまなプレーヤーがお互いに切磋琢磨して新たな付加価値を高め、各レイヤーで普遍性のあるものを作り出せば、国際競争力を高めることは可能だという。
販売モデルのあり方に関しては「通信料金や端末価格の透明性を高めることは重要」と、報告書案に一定の理解を示しつつも、「端末価格が急騰することによって、買い換え需要が冷え込み、流動率が下がるのは問題であり、何らかの配慮が欠かせない。買い換えの需要を維持するには販売奨励金は今後も必要である」と主張。これまで以上にわかりやすい選択肢を用意することが適切ではあるが、事業者の自主性に任せてほしいと話した。
MVNOによる新規参入促進は、「MNOの施設を活用するのは効果的。さまざなな市場の創出に貢献したい」として歓迎の立場をとるが、「国民の資産として構築されたものを引き継いだNTTの“ボトルネック設備”とは異なり、携帯電話事業のネットワークは、MNOがリスクを背負って投資し、構築したもの。MNOのネットワークを活用する条件は、基本的には事業者同士のビジネスベースでの交渉にゆだねられるべき」と語り、MVNOの接続条件を約款化することには牽制する姿勢を見せた。
ソフトバンクモバイルの孫社長は、冒頭で「自由で公正な競争が必要なのであって、押しつけは適当ではない。激しい競争を促進することが社会、ユーザーに対して正しい結果を生むというのが基本的な思想にある。どれも事業者の自主性に任せるべきだ」と話し、総務省による規制づくりに対して明確に反対の声を上げた。
販売奨励金モデルの見直しに対しても「国が特定の販売モデルに誘導するのは望ましくない。競争のなかから選択肢がでてくるのが大事。韓国は販売奨励金を2003年に禁止したが、国民から不平不満がでて1年で解禁となった。試しに販売奨励金を廃止してみるのはいいかもしれないが、特定の人物や団体が奨励金廃止を誘導するのはよくない」と、事業者の自由競争に任せるべきだというスタンスを明確にした。
SIMロックは、今解除してもW-CDMA方式を採用するソフトバンクモバイルとNTTドコモ、イー・モバイル間での顧客流動性が高まるだけで、CDMA2000方式のKDDIは対象外となり、公正な競争環境が確保できないと説明。「通信規格そのものが違い、SIMロックを強制的に外しても仕方ない。アンバランスな解除でしかない」(孫氏)
また、SIMロックを解除すると端末の販売価格が上がることや、端末を0円で購入し、割賦金を払わずに海外に持ち出して販売するといったことも考えられ、「非常にまずい。SIMロック解除は強制すべきではない」と話した。
孫社長は、「公正な競争環境を実現するには、周波数帯の割り当て状況を見直すべきだ」という持論も展開した。「今、800MHz帯はNTTドコモとKDDIの2社にしか割り当てられていない。2GHz帯は狭いカバレッジ能力しかなく、同じエリアをカバーするのにより多くの基地局が必要になるため、高コスト体制になってしまう。auの3倍にもなる基地局を作っても、“エリア満足度ナンバー1”にならない苦しさがある。うちは2GHz帯の基地局建設に1兆4000億円を投入しているが、800MHz帯の周波数が使えれば、同じエリアを構築するのに6000億円程度でできた」と孫社長は語る。
また、韓国では鉄塔の共有をしており、積極的にローミングを行っている現状も説明。支配的事業者であるSKテレコムに対して、料金規制や接続規制を与えるなど、公正な競争を実現するために、さまざまな政策を実施している韓国の事例を引き合いに出し、日本でも自由で公正な競争環境が実現できるようにすべきと訴えた。
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