逮捕されたKTF社長、警察を呼べない電話、反米デモを拡大した1通のSMS――韓国ケータイ最新事件簿韓国携帯事情(1/2 ページ)

» 2008年10月08日 12時55分 公開
[佐々木朋美,ITmedia]

 2008年9月、KTF社長のチョ・ヨンジュ氏が不正取引で逮捕され、韓国のケータイ業界に激震が走った。Samsung電子製の世界戦略モデル「Soul」に重大な欠陥が見つかり、ユーザーを困惑させる事態に。さらに1通のSMSが、反米デモ拡大の発端となるなど、韓国ではケータイが絡むさまざまな事件が発生した。今回の韓国携帯事情は、韓国で最近起きたケータイを巡るさまざまな事件やトラブルを振り返る。

KTF前社長逮捕 業界、政界に波紋広がるか

 9月19日、韓国第2位の携帯電話キャリア、KTFの社長(当時)チョ・ヨンジュ氏がソウル中央地方検察庁(以下、検察)に逮捕された。容疑は、KTFへの納品業者として指定する代わりに、中継器メーカーから金品を受け取っていたというものだ。調べによるとチョ氏は、中継器納品業者のA社から約24億ウォン(約1億8600万円)を受け取ったという。

 また、A社のオーナーであるB氏が代表となっている別の会社では、監査役としてチョ氏の夫人が在籍。報酬という名目で金銭を受け取っていた。検察では夫人も召喚して調査を進めている。

 検察では、チョ氏を逮捕した19日にKTF本社の家宅捜索を行い、携帯電話やWiBro事業に関する関連書類を押収した。また23日には、KTFの地域会社であるKTF光州のマーケティング本部も捜索し、ほかにも不正な金の流れがないか役員らを調べている。

 チョ氏は受け取った金について、「不動産やファンドの購入など、個人的な用途に使った」と供述しているが、検察は政界に流れたという見方を強めている。ただ、不正資金は現金化されており、その流れは裏付けが取りにくい。もし検察の仮定が正しければ、単なる1企業の不正取引にとどまらず、政界をも巻き込む大きな問題となることが予想される。

 KTFといえば、親会社である通信大手KTとの合併話が進んでいたが、事件が発覚したことで一時中断せざるを得ない状態になった。そして、追い打ちをかけるように、今度はKTにも疑惑が飛び火した。

 検察は9月30日、KT社長のナム・ジュンス氏が納品業者から金品を不正に受け取っていた疑いがあるとして、捜査を開始。取り調べはまだ続いており、ナム氏の疑いの真偽はまだ定かではない。結果によっては、KTグループぐるみでの不正に発展することから、今後の動向が大変気になるところである。

「学生デモ」メッセージ送信者、結局無罪に

 韓国では2008年5月、6月と、米国産牛肉輸入反対のため全土でデモが繰り広げられた。なかでもソウルはほぼ毎週のように大規模デモが行われ、交通網も麻痺するような状態だった。

 デモが大規模になった理由の1つに、学生たちにデモ参加を呼びかけるSMSメッセージの存在があった。このメッセージは、全国の中高生に学校を休んでデモに参加するよう呼びかけただけでなく、文面をほかの人にも送るよう指示しており、チェーンメール化して瞬く間に全国の学生に届けられた。

 これを最初に送ったとされるのが、19歳の少年だ。少年は友人1人にこのメッセージを送ったのだが、この友人がさらに多くの人にメッセージを送ったことから、全国へ広まってしまったのだ。

 少年を摘発した警察は、「公益を損なう目的で、虚偽の通信を行った」として起訴。ところが法廷は「“公益を損なう目的”という不確定な概念は、国民の日常生活に過度に介入し意思疎通を委縮させる」「(メッセージは)休校してのデモを提案したり、学生もデモに参加すべきという個人的意見を表明したもの」という理由で無罪を言い渡した。

 「表現の自由」を掲げる社会団体などは歓迎の意を示しているが、ここまで大きな騒ぎに発展してしまっては、表現の自由も考えものだ。とはいえメッセージが1時間もしないうちに多くの学生に広まったという事実は、学生間でやり取りされるメッセージによる噂の伝達速度がどれほど凄まじいものかを感じさせる一件だった。

消防署の受難はケータイが原因

photo 韓国では6月から販売されている「Soul」

 Soulは、Samsung電子の世界戦略モデルといえる携帯電話だ。欧州では販売後1カ月で100万台を売るほどの人気だったという。6月には韓国でもお目見えし、積極的な広告展開も手伝って、その知名度は高い。

 ところが、このSoulにとんでもない問題があることが判明した。それは、(韓国の)警察への緊急通報番号である「112番」をダイヤルすると、消防の緊急通報番号である「119番」へつながってしまうというものだ。

 緊急通報番号は頻繁に使うものではないが、いざというときにつながらないのでは役に立たない。携帯電話の不具合情報をやりとりするネット上のコミュニティでもこの話題は大きく取り上げられ、ユーザーの不満は高まった。

 韓国の消防署といえば、誰かが行方不明になった際に携帯電話の位置情報を参考にして、行方不明者を捜索することがある。この位置情報を使った行方不明者の捜索依頼が、最近殺到しているという。

 韓国中部に位置する忠清北道の消防本部によると、2007年の1年で位置情報確認サービスの要請が1100件あり、646件だった2006年に比べ54.9%増加した。しかし1100件のうち、実際に救助に当たったのは57件と要請件数の5.7%にとどまっている。

 これは「夫婦喧嘩後に外出した配偶者の位置確認」「子どもの帰宅が遅いので心配して要請」といった、緊急性の低い要請が多かったため。中には「金を貸した人の位置確認」といったものまであったという。

 携帯電話にGPSが付いていれば位置確認もしやすいが、現状で頼りになるのは携帯電話と基地局の距離。この位置情報による捜索依頼では、消防隊員が行方不明になった周辺の基地局から範囲を特定して探すため、労力もかかる。急を要するわけでもないのに119番するケースが増えているのは、最近の日本と似ているといえるだろう。

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