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» 2009年02月06日 17時40分 UPDATE

韓国携帯事情:KTとKTFが合併――市場独占を警戒する韓国通信業界

かねてから噂されていた韓国通信大手KTと、韓国シェア第2位の携帯電話キャリアKTFの合併が、2009年早々に正式発表された。固定通信シェア1位、携帯電話シェア2位のガリバー企業が誕生する。その規模の大きさから、市場への影響を警戒する声も多い。

[佐々木朋美,ITmedia]

 韓国通信大手のKTは1月20日、グループ会社で韓国シェア第2位の携帯電話キャリアKTFとの合併を理事会で決議した。KTは合併決議の理由について以下のように説明している。

  • 固定と無線を融合した“コンバージェンス”分野をリードするため
  • グローバル事業者への転身
  • 固定通信事業の効率化
  • IT産業の再飛躍をけん引する

 韓国放送通信委員会の資料によると、2008年11月末時点におけるブロードバンド市場の占有率はKTが43.8%で1位。続く22.7%のSK Broadband(旧Hanaro Telecom)に大きな差をつけている。固定電話部門にいたってはKTは89.8%で、独占状態だ。一方、同資料においてKTFの2008年12月末時点での市場占有率は31.5%と、50.5%のSK Telecom(以下、SKT)に差を付けられた2位となっている。

 業界で1、2位の事業者が一緒になれば、単純にシェアがアップするだけでなく、非常に大きな相乗効果が生まれることは明らかだ。市場の独占が起きてしまうのではないか。という声もあるが、KTではあくまで「(シェア拡大より)IT産業の再飛躍の契機とするための合併」と主張する。

 KTによると、欧州など諸外国のトレンドとは異なり、固定・無線事業が分離傾向にある韓国は、固定通信分野の成長が停滞しているという。同時に、携帯電話事業者は激しい競争を強いられ「マーケティング費用(5兆4000億ウォン、約3550億円)が投資額(3兆6000億ウォン、約2365億円)を、1.5倍も上回る」(KT、金額は2007年基準)という消耗戦で苦しんでいる。

 KTはこうした経営体質を克服し、より効率的な経営と、市場の再活性化を目指したいという名目を掲げている。KTは新年早々に新しいCEOが就任し、企業改革に取り組む意思を表明した。合併もこれに乗っ取ってのことだ。

 合併後の方針もある程度決まっており、具体的な目標としては「2011年にIPv6を適用し始める」「2015年までにADSL接続網をFTTHに変える」「次世代サービスプラットフォームを構築し始める」といった内容を掲げている。

 KTでは21日、放送通信委員会に合併認可申請書を提出。同委員会では早速、KT・KTF合併に関する検討を始めた。

photo 韓国固定電話のシェア(カッコ内は、実際の加入者数)
photo 同ブロードバンドサービスのシェア(カッコ内は、実際の加入者数)

業界は大反対

 KTがKTFとの合併決議を発表するやいなや、業界内ではSKグループやLGグループなどから反対意見がわき起こった。

 いずれも、合併後のKTが市場において独占的であると主張。なかでもブロードバンド、固定電話からIP-TVまで幅広く手がけるKTが無線通信分野にまで進出すれば、最終的に放送と通信市場全体が掌握されると、危機感を覚えているようだ。

 SKTとSK BroadbandからなるSKグループは、「合併はしてはならない」という旨の建議書を、放送通信委員会に提出している。

 またLG Telecom(以下、LGT)を中心とするLGグループも反対の立場を示しつつ、「合併が不可避な場合」(LGグループ)は条件付きで合併を進めるべきという、現実的な意見を出している。

LGグループが提示した、KT・KTF合併への条件
  条件 詳細
1 固定通信からの支配力転位を防止するため、端末補助金を法的に禁止 飽和状態にある携帯電話市場において、補助金に依存した顧客獲得競争がいまだ多い。合併によってマーケティング費用が捻出しやすくなれば、この競争がさらに激化し、顧客のためのサービスまで手が回らなくなるので補助金制度を禁止すべき。
2 無線市場の競争活性化のため、WiBro、HSDPAのMVNOを義務化 KTの力が無線通信にまで及べば、SKTとともに2強構造となり公平な競争に支障をきたす。携帯電話加入者の半分がHSDPAを利用する点、KTのWiBro網がSKTよりも充実したエリアを確保している点を考慮し、移動通信市場の再活性化のためにもMVNOを義務化すべき。
3 固定通信市場の競争活性化 既存の固定通信市場の独占体制が無線通信にまで転移すれば、この体制は未来のコンバージェンス市場にまで続く可能性がある。こうした独占体制を解消し、公平な競争が行えるようにすること。
4 周波数再割り当ての制限 KT・KTF合併によって、全通信用周波数の44%を、1企業が持つことになる。周波数の再割り当て時には合併KTの参与を制限し、かつ新規事業者や後発の事業者に優先的に良い周波数を割り当てること。
5 KTの普遍的な役割損失に対する、通信事業者の負担を廃止 KTは「損失補てん制度」(※1)により、通信他社から補てんを受けているが、これを廃止すべき。例えば携帯電話事業者も、低所得者層向けの安価なサービスを自社的に行っており、それはKTの普遍的役割損失より金額が大きいものだ。
6 市内電話加入者網を分離 KTの固定電話の支配力が、携帯電話市場に移転するのを防止するため、固定電話加入者網を分離すること。
7 結合商品(※2)の販売を規制 KT・KTFが合併した折には、排他的で差別的なネットワーク提供対価を制限できる方法がないため、新規・後発の事業者による結合商品の発表が委縮してしまう。結合商品に関する、何らかの条件を付与することが必要。
(※1)慢性的純損失圏域損失補てん制度:諸島地方などへの電話サービス提供など、確実に赤字が見込まれる地域に対してのみ、損失分担の役を担う他事業者たちが損失を補てんする制度。
(※2)結合商品:異なる通信商品同士を、セットにして安価に提供すること

 このほかにも、韓国ケーブルテレビ放送協会も反対の姿勢を明らかにしている。同協会が強調するのは、KTがIP-TVなど放送インフラも掌握する点だ。固定と無線通信、放送と通信の融合によりKTの力は増し、ケーブルテレビ業界が存亡の危機にさらされるというわけだ。また同協会では、KT・KTFの合併が、SKTとSK Broadband、LGTとLG DACOMやLG Powercomの合併を誘発し、大企業の独占がさらに進むことも懸念して反対しているようだ。

早ければ上半期にも合併実現

 2008年2月、SKTがHanaro Telecomを買収した際、通信市場が大手企業により掌握されると憂慮されたことがある(2008年3月の記事参照)。この時の論点となったのが、SKTが独占的に保有していた800MHzの周波数使用権だ。放送通信委員会はその後、800MHz帯域の一部を新規もしくは後発事業者へ再配分する方針を固めている。

 KTの場合は、市場占有率が高すぎる固定電話が論点になっている。固定独占は以前から問題視されていたことで、その対策として「LLU」(local loop unbundle:地域通信網を分割して、他通信事業者に解放すること)制度が導入されているが、実効性がないことが課題だ。さらに、「国営時代に税金で構築した設備を独占し利益を上げるのか」との批判も出ている。

 いずれにしても放送通信委員会や公正取引委員会が、固定電話がKTの支配力を支える要因であると考えれば、合併には何かしらの条件が課せられるだろう。そして、その条件次第では、KTの競争力が低下することも考えられる。

 とはいえ、KTとKTFほどの大手企業が合併するからには、たとえ条件付きでも市場に大きなインパクトを与えるの間違いない。手続きがスムーズにいけば、KTとKTFの合併は2009年上半期中にも実現するとみられる。表面的には合併反対の声を挙げているライバルも、合併は避けられないとの見方が多い。合併そのものを阻止するというよりは、少しでも競争力をそぐよう条件付与に腐心したり、ガリバー誕生後の身の振り方について考えを巡らせているようだ。

佐々木朋美

 プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。弊誌「韓国携帯事情」だけでなく、IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。


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