韓国公正取引委員会(以下、公取委)は2月15日、SK Telecom(以下、SKT)のHanaro Telecom(以下、Hanaro)買収について審議を行った。その結果、さまざまな条件を付けたうえで買収を承認する方針をまとめた。2月20日には、韓国情報通信部による最終決定がなされた。「SK」の名を冠した巨大通信グループと韓国の通信市場は、今後どうなっていくのだろうか。
SKTは現在、韓国の携帯電話市場で独占状態にある。そのSKTがブロードバンド市場で2位のHanaroを買収するとなれば、通信市場全体が独占状態に陥りかねない。そのため、公取委の審議は慎重に行われた。買収を承認する条件とは下記の通りだ。
SKTは自身の移動電話サービス(系列会社による販売分も含め)を、Hanaroと結合商品(SKT系列会社との結合商品も含む)として提供する際、次のような行為を禁止する。
また周波数割り当てで競争を制限するようなことが発生しないよう、公取委は以下のような措置を情報通信部に要請した。
上記条件の中で、SKTにとって一番厳しいのが800MHz帯に関する項目だろう。公取委の条件に従うとすれば、再割り当てのために2008年末にも一部の帯域を手放す必要がある。
これまでにも800MHz帯のローミングに関して、LG Telecom(以下、LGT)がSKTの独占状態を解くよう再三に渡って訴えてきた。しかし、800MHz帯へのこだわりが強いSKTは、一貫してこれを拒否してきた経緯がある。そのため、もし公取委の提案通り800MHz帯に関する条件を情報通信部が認めるとなれば、SKTは大きな譲歩を強いられることになる。
しかしSKTは、公取委の提案が出された後に、「これらの案は絶対に受け入れることはできない」という文書を発表している。もともと移動体通信用の周波数は、改定電波法により基本的には2011年まで現行のまま利用し、その後に再編することになっている。SKTは、改定電波法に従えばローミングは不可能であると主張する。
一方、800MHz帯の再割り当て、またはローミングを強く望むのがKTFとLGTだ。800MHz帯に対するこの2社の主張は、KTFが「再割り当てをするのが良い」、LGTが「すぐにでもローミングを実施すべき」というというスタンスだ。この2社に対しても、SKTは反論をしている。
SKTは、KTFの親会社であるKTグループが固定通信では最大手であり、KTこそ独占であると指摘する。「(SKTのHanaro買収は)結合販売を活性化させるだけでなく、既存の固定通信市場でKTの独占体制を緩和し、競争を促進する重要な出発点になる」と述べている。さらに固定通信事業者のHanaroを買収するのに、800MHz帯は別問題であるとも主張した。
また、800MHzのローミングを強く主張しているLGTに対しては「投資する余力を十分持っている」と切り捨てた。つまり、ローミングに頼らず基地局を自社で増やせばよいということだ。
SKTの態度は大変強固だが、かといってLGTやKTFも引き下がるわけにはいかない。800MHz争奪戦は、3社3様の見解がもつれあったまま、最終的に情報通信部の決定に委ねられる形となった。
2月20日、情報通信部は「SK TelecomのHanaro Telecom株式取得認可審査結果」を発表した。条件付きでSKTのHanaro買収は認可するというものだが、争点となっていた800MHz帯のローミングという条件は含まれなかった。情報通信部がSKTに対して提示した認可条件は、下記の通りだ。
ここを見ると分かる通り、800MHzに関する制限がない。これについて情報通信部は「(SKTがHanaroを買収するための)審査とは別に、電波法および電気通信事業法に従って、ローミングや周波数回収と再割り当て方案などを樹立、推進するのが好ましい」と述べている。つまり今回に限っていえば、800MHzのローミングや再割り当てなどを決めることはないという判断だ。
この理由について同部は「SKTの市場支配力は、800MHz帯を持つ効率性だけでなく、有線と無線の結合商品による競争力強化、流通網の共同活用、資金力などにもよるものだから」だと述べている。
その一方で、「周波数利用実績が低調な場合、または周波数帯域の整備を通じて利用効率を高める必要がある場合」(情報通信部)と、周波数の回収や再割り当てが可能であるという考えも明らかにした。ローミングに関しては、2008年上半期に同部が検討する意向を示しているので、KTFやLGTにも希望が残っている。
SKTは条件付きとはいえ、800MHzを確保したままでHanaroを手に入れるという、当初の願いがかなった形となった。そうなると韓国の通信市場は、KT陣営(KT、KTFなど)、LG陣営(LG DACOM、LGTなど)、そしてSK陣営(Hanaro、SKTなど)といった3強の様相を呈してくる。とくに固定通信で1位のKTと、無線で1位のSKTの戦いは熾烈になるだろう。
KTはかねてから、もしSKTがHanaroを買収することになったら、KTFを合併するという見解を明らかにしており、いよいよKTグループ再編も現実味を増してきた。他社からも、何らかの動きが出てくるかもしれない。
再編されるのは民間だけではない。買収を認可した情報通信部は、2月25日に発足した新政権によってさまざまな政府機関に統廃合される。今後、“情報通信部”という政府機関はなくなるのだ。同部にとってSKTのHanaro買収問題は最後の大仕事だったわけだが、当事者には始まりに過ぎない。
また、公取委が意見した800MHzの扱いについて情報通信部は“別件”として取り入れなかった。そのため、2機関の間に少なからずひびが入ったとの見方もある。今後、通信関連の業務を情報通信部から受け継ぐ予定なのは「放送通信委員会」という組織だが、ここが通信事業者や関連機関との間を取り持ちながら、動きの速い携帯電話市場に対応する必要がある。しばらくは、重要な局面が続くことになるだろう。
政治的な話が続いたが、ユーザーは、SK陣営がどのような商品やマーケティングで市場を攻略してくるのかという部分に注目している。固定回線におけるKT独占状態は揺らぐのか、あるいはKTやLGが他社との提携を進めて束になって巻き返してくるのか。当分、韓国の通信市場から目を離すことはできないようだ。
プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。
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