自宅で高速・低額にインターネットが利用きる韓国では、携帯電話でインターネットを利用することに対し料金面での負担感が高く、活発に利用されているとはいえなかった。しかし、HSDPAなど高速な通信方式が導入されるのと同時に、これを生かしたインターネットサービスの開発も盛んになっている。モバイルインターネットサービスの普及を目指し、業界の努力が続けられている。
先日、韓国無線インターネットソリューション協会によるワークショップが開かれ、SK Telecom(以下、SKT)・KTF・LGTらキャリア3社がモバイルインターネットのビジネス戦略を述べた。
SKTが考える携帯電話の進化形とは、“オールインワン”のデバイスだ。将来の携帯電話はマルチメディア機能が強化され、マルチタスク機能を持つプラットフォームになり、通信と放送の融合、ユーザー投稿型の動画サービスへの対応など、端末1つでさまざまな使い方ができるとしている。
特に常時オンラインを目指す「オールウェイズオン」や「BCMCS(Broadcast Multicast Services)」といったサービスへの対応と、ディスプレイやユーザーインタフェース(UI)の強化などを予定しているという。
ディスプレイの強化については具体的な成果も出ている。SKTは今後、端末にアクティブマトリクス型有機ELディスプレイ(AMOLED)を採用する予定で、ディスプレイ大手の韓Samsung SDIと技術協力を行うための研究協定覚書(MOU)を締結している。広視野角かつ高画質を実現するAMOLEDを搭載した携帯電話は、専用のUIも搭載しデザインでAMOLED携帯と分かるよう、端末の高級化をはかるという。
またSKTは6月中旬、網開放方案に関する説明会を開催し“網開放”へ注力することも発表した。SKTがこの日提案したのは、ビジネスパートナーの支援、市場活性化のための積極的なマーケティング、スパムメール遮断など顧客満足強化のための制度改正の3つだ。
特にビジネスパートナー支援に関しては積極的で、同社の網開放情報サイトをリニューアルし、技術情報などを豊富に用意。SKTのインフラを使って網開放型サービスを提供する際に、申請からサイト構築までの手続きを1週間程度で終えられるようになった。
さらに、サービス提供に必須のVMダウンロードサーバの基本利用料を無料にしたほか、コンテンツ利用料の18%程度だった貸出手数料を5%まで引き下げる方針だ。そのほか、サービス開発のための端末や定額料金制加入者情報などを無料提供するともしている。
マルチメディアサービスを楽しめるよう、ネットワークやコンテンツ、端末も強化したうえで網開放も進め、総合的なサービスを提供していくというのがSKTの狙いのようだ。
KTFは、“HSDPA/HSUPAは速度的に固定回線に次ぐもの”というスタンスをとっている。そのため、携帯電話サービスの付加価値を拡大するために、モバイルインターネットを開放するという方針を発表した。
まず、固定回線向けにサービスを提供してきた事業者へ多様なAPIを提供し、より簡単に携帯電話向け事業が行えるよう支援を行う。こうして固定回線と無線環境が連動したインターネットサービスへ強化することで、実生活により身近なサービスを提供していくという。
LG Telecom(以下、LGT)は、フルブラウジング機能を使ったモバイルインターネット環境の快適化を図ると述べている。そのため、ユーザーには価値あるコンテンツを豊富に提供し、逆にコンテンツプロバイダには多様なサービスを提供できる環境を用意するという。
具体的には、6月から検索ポータルや新聞社、ショッピング、銀行など61サイトの情報を無料で利用できる「オープンゾーン」サービスを開始した。無料で利用できるWebサイトは、LGTのインターネットサービス「ez-i」の初期画面に配置されており、Webサイトを見つけるまで深い階層をたどらなければならない手間もなくした。
LGTのサービスは、主要なサービスを無料提供するという点が新しいといえる。HSDPAが全国に広がった韓国だが、コンテンツ側がいまひとつ盛り上がっていなかった。その原因の1つに、ユーザーの料金的な負担感や、キラーコンテンツの不在などが挙げられる。固定回線でインターネットにつなげば、HSDPA以上のスピードで豊富なコンテンツを楽しめる韓国ならばなおさらだ。
生活に欠かせないサービスを無料提供するオープンゾーンは、さすが思い切った戦略で話題をさらうLGTらしいサービスといえる。
3キャリアによる表現はそれぞれだが、各社の方針を突き詰めると、結局目指しているところは「網開放」ではないかと思われる。
ただし網開放はまだ完全な状況ではなく、コンテンツプロバイダやキャリア間での技術的・事業的な課題などがまだ残っている。一般ユーザーが恩恵を受けられる状態にはなっていない。
それでも、今後訪れる高速携帯通信の時代に備え、モバイルインターネットの利用率や収益性を上げていきたいというのがキャリアの思惑だろう。差し当って、ユーザーの生活に密着した身近なコンテンツを提供することで、積極的にアプローチをしている。
たとえばLGTの「オープンゾーン」以前には、SKTの「T INTERACTIVE」、KTFの「ポップアップ」、LGTの「今日は?」サービスなど、待受画面サービスが花盛りだった。
SKTのT INTERACTIVEは、待受画面にニュースや天気、証券、音楽サービスなどの情報を提供するサービスだ。さらに5〜10種の特定分野に関するメールマガジンが配信される「マガジン」は、インターネットに接続することなしに全文が読めるというお得なサービスだ。
KTFのポップアップは、待ち受け画面にニュース速報や株式情報などが表示されるもので、証券会社とシステム連動しているだけあり経済情報が豊富なのが特徴だ。
さらにKTFは、韓国Microsoftと提携し待受画面上でインスタントメッセンジャー(IM)が利用できる「Windows Live フォンメッセンジャー」サービスを開始した。1対1だけでなく複数人による会話ができるのも特徴だ。既存のIMでは、利用のたびにログインする必要があったが、このサービスでは改善している。
LGTでは「今日は?」というサービスを提供している。これは待ち受け画面を通じてニュースや天気、運勢などの生活情報を1日8回自動的に表示するものだ。
これまで携帯電話でインターネットを利用するには、インターネットボタンを押してネット接続し、そこからサービスを探してアクセスするという手間があった。しかし現在は、待受画面にネットからの情報が自動で表示されるため、インターネットコンテンツをぐっと身近にした。
それでもモバイルインターネットを使わないユーザーもいるだろう。今後は、さらに料金負担を軽減し、キラーコンテンツを創出することがポイントになりそうだ。そしてもちろん、網開放もモバイルインターネットを普及させる起爆剤として期待されている。
プログラマーを経た後、雑誌、ネットなどでITを中心に執筆するライターに転身。現在、韓国はソウルにて活動中で、韓国に関する記事も多々。IT以外にも経済や女性誌関連記事も執筆するほか翻訳も行っている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.