インタビュー
» 2010年01月25日 11時13分 UPDATE

ケータイで「大人に見えない価値を武装する」――「東のエデン」神山監督インタビュー (1/2)

劇場版第2部の公開を控え、物語の結末に注目が集まるアニメ「東のエデン」。同作では「ノブレス携帯」をはじめ、ケータイが重要なアイテムとして活躍する。物語でケータイが持つ役割、そしてアニメの作り手が考えるモバイルやインターネットの世界はどのようなものなのか――。作品の原作・脚本・監督を務めた神山健治氏に聞く。

[山田祐介,ITmedia]
photo 神山健治監督

 「ケータイを通じて、大人には見えない世界がそこにあって、若者が大人に見えない価値を“武装”している。そんな考えで物語を描きはじめました」

 テレビシリーズに続き劇場版第1部が公開された、Production I.Gのアニメ「東のエデン」。国を動かすほどの力を持つコンシェルジュ機能で持ち主の願いを叶える「ノブレス携帯」や、ケータイカメラを使って対象物の情報を検索できる拡張現実(AR)技術「東のエデンシステム」が登場するなど、モバイルが物語と密接に絡み合う作品だ。3月には「東のエデン 劇場版 II Paradise Lost」が公開され、謎多き物語にいよいよ決着が付く。さらに同劇場版にはノブレス携帯はもちろん、NTTドコモのNEC製端末「N-02B」をベースにした“ノブレスフォン”も登場するなど、引き続きケータイが活躍するようだ。今回は作品の原作・脚本・監督を務めた神山健治氏に、モバイルという切り口から作品に込めた思いを聞いた。

「ノブレス携帯」が持つ“現実味”のバランス

photo ノブレス携帯のモックアップ

 作品のキーアイテムとしてデザイン面でも機能面でも大きなインパクトを持つノブレス携帯は、既にお伝えした通りもともとはNECが制作したコンセプトモデルだ。「普通はアニメのデザイナーに発注するんですが、今回は『売ってそうだな』という現実味が欲しかった」と、神山監督は語る。「ノブレス携帯は目新しさ重視で、デザインのリアリティを追求したわけではありません。でも、実在する試作機で、実際に携帯電話を作られているデザイナーが生みだしたことに、真実味が宿る」(神山監督)

 こうしてNECはノブレス携帯の候補としてコンセプトモデル群を提案する。その中から選ばれたのは、バイクユーザーを想定したとりわけ「無骨」なデザインのモデルだった。当初は「もっとシンプルなモデルがいいのでは」「時代の流れから離れている」といった声もあったが、円形ディスプレイをはじめとする形の面白さや、バイクに装着できるというギミックに神山監督は心を動かされたという。

 もし作品が実写ならば、「ほかの選択肢があったかもしれない」とも話す。「荒唐無稽なものがすんなりと受け入れられるのが、アニメのいいところ。そうした虚構を通じて現実が見えてくることが面白いし、アニメを作る醍醐味でもある。実写なら、表現の方法は変わるでしょう」(神山監督)。そんなバランス感覚で生まれたノブレス携帯は、アニメファンに限らず注目を集めた。アニメだからこその真実味が、NECの試作機という真実と相まって、ユーザーの心を捉えたコラボレーションだったのだろう。

SFに追いつく「現実」

photo 人間を描くこと、そしてなにより現実が「一番面白い」と語る神山監督。「人間を描く延長線上として、ネットやケータイに接した人がどう変化し、どう変化しないのか。そういったことに興味がありますね」

 その一方で、“荒唐無稽”な世界の流儀は時代とともに変化している側面もある。ARを描いた作品として有名な「電脳コイル」や、仮想世界“OZ”が登場する「サマーウォーズ」など、近年のSFアニメでは現実世界の手触りが色濃く反映された近未来が描かれることが多い。ロボットや宇宙戦艦に代わって物語のスペクタクルを作り出すのは、現在のインターネットの延長線にあるであろう電子世界だ。

 「『2001年宇宙の旅』の続編として作られた『2010年宇宙の旅』がありますよね。もう今が2010年で“未来”なんです。腕時計型の通信機で仲間と連絡を取るとか、僕らが思い描いていたことが実現してしまって、“実際には自分の姿を映像で送らなくてもいいな”とか、いろいろ分かってしまった(笑)。想像できないような未来を描くことがアニメの使命の1つとも感じますが、単純な絵空事ではリアリティを感じられなくなっている部分があります。現実を盛り込むことで視聴者とのギャップを埋めることにもなるし、だからこそ荒唐無稽が立ち上がってくる面もある」(神山監督)

 「東のエデン」においては、視聴者と物語の世界をつなぐアイコンの1つがケータイだった。さらに、それらは作品において社会とのつながりを象徴する道具としても描かれる。引きこもりを続けていた登場人物・板津豊のケータイは、着信メロディーの和音の数が話題になっていたころの旧型だ。「今の若い人にとっては、ケータイが社会とコミットするための入り口なんでしょうね。板津君は、それを使わない間に社会との接点を消失していた。その象徴としてあのケータイを出しました。いまだにあのケータイを使っているスタッフもいますけど(笑)」

 劇中のケータイに搭載された機能が、現実のトレンドと呼応している点も面白い。ノブレス携帯には「ジュイス」と呼ばれる持ち主専属のコンシェルジュを呼び出せる機能があるが、これは高級携帯電話ブランド「Vertu(ヴァーチュ)」のコンシェルジュサービスからヒントを得たものだという。

 Vertuの場合、生身の人間がコンシェルジュとしてユーザーにサービスを提供するが、ノブレス携帯の場合はその役目を人工知能(AI)が果たしているようだ。ジュイスの声はどのセレソン(ノブレス携帯の持ち主)でも同じだが、物語が進むにつれ持ち主に応じた個性を帯びはじめる。「攻殻機動隊の世界に出てくるようなAIが生まれる過程ってどんなだろうという、逆算みたいなところがあったんです。Amazonとかも“今のアナタにオススメ”みたいなことがしきりに出てきますよね。あれが進化していけば、会話型のAIも出てくるんじゃないかと」。劇場版でさらに顕著になるジュイスの個性は、コンテンツマッチの時代を象徴しているようにも思えてくる。

 画像解析によってケータイカメラを向けた対象の情報が画面にオーバーレイされる東のエデンシステムも、サービスとして現実味を帯びてきた。AR技術に関しては、「セカイカメラ」や「Layar」などのスマートフォン向けアプリが登場しており、画像解析に関しても、Android端末のカメラ画像を解析する検索サービス「Google Goggles」が発表されている。「現実が発想を追い越してる部分がある」と、神山監督も舌を巻いている状態だ。

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