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» 2018年06月30日 06時00分 公開

MVNOの深イイ話:「通信の最適化」とは何か? MVNOにとって福音となるのか? (1/3)

今回のテーマは、昨今、大手MVNOが導入したことで再び話題となっている「通信の最適化」です。通信の最適化とは何で、何を最適にすることなのでしょうか? そしてMVNOにとってどのような意味を持つのでしょうか? 

[佐々木太志,ITmedia]

 今回のテーマは、昨今、大手MVNOが導入したことで再び話題となっている「通信の最適化」です。通信の最適化とは何なのか、いったい何を最適にすることなのか、MVNOにとってどのような意味を持つのか? 技術的、法的、そしてビジネス的観点で「通信の最適化」についてお伝えしましょう。

「通信の最適化」とは?

 「通信の最適化(optimization)」という用語を筆者が最初に耳にしたのは2010年頃だったと思います。さかのぼること2000年代から(あるいはもっと前から)、特定のインターネット上のアプリケーション、特に、当時社会的にさまざまな問題を引き起こしていたP2Pアプリケーション(Winnyなど)の帯域を制御する装置を電気通信事業者向けに提供するネットワーク機器ベンダーがあったのですが、その当時はシンプルに「帯域制御(management)」装置と呼んでいたと記憶しています。

 その後、2000年代後半から徐々にP2Pが下火となり、代わりにYouTubeに代表される動画アプリが成長していくのに併せて、通信をより幅広く制御できる装置(あるいはそういった装置に実装されている技術)を「通信の最適化」と呼称するネットワーク機器ベンダーが登場してきたように感じます。

 その「帯域制御」改め「通信の最適化」という言葉が世間をにぎわせたのは2015年のことです。この年のある日、ソフトバンクのスマートフォンで、あるオンラインゲームを起動すると「ダウンロードに失敗しました」というエラーが出るとのクレームがゲームアプリの提供会社に寄せられ、ネット上で大きな議論を呼びました。

 このアプリが具体的にどのような問題を生じたのか正確には分かりませんが、ソフトバンクが導入した何らかのネットワーク装置により、インターネット上のゲームアプリの提供会社のサーバがスマートフォン向けに送出したデータが「最適化」され、オリジナルと異なるデータを受信したスマートフォンのアプリがエラーを起こした、と考えられます。

 ここで言う「通信の最適化」は、1つの特定の処理を指すのではなく、いくつかの技術的類型を含んでいます

  1. 特定のアプリケーションにかかわる通信を見分けて、帯域を絞ること(帯域制御、ペーシング)
  2. 画像や動画など特定の種別のファイルについて、圧縮したり、劣化させたりすること(コンテンツ改変)
  3. TCPのパラメータをモバイルネットワークに最適なものとすること(TCP最適化)

 1の「ペーシング」(帯域制御)は、もともとはWinny等の特定アプリケーションのトラフィックがネットワークを埋め尽くしてしまわないよう制御する技術として用意されたものですが、現在は主にストリーミング型の動画アプリに対して発動するよう設定されることが多いようです。

 ストリーミング型の動画アプリは、再生速度よりも速く動画データをサーバから転送することで、そのデータを端末がバッファーとして蓄積し、安定した動画閲覧を可能とするよう動作します。しかし、利用者は必ずしも動画を最後まで視聴するとは限りません。もし利用者が動画の再生を中断してしまった場合、バッファーされたデータは無駄になってしまいます。

 「通信の最適化」装置が、ストリーミング型の動画アプリのトラフィックを見つけ、その動画の再生ビットレートを調べてそれに合わせ転送速度を制限することで、不必要に大きなバッファーリングを防ぎ、安定した動画再生と無駄のないデータ転送を両立することが可能となります。これは、電気通信事業者側には無駄なネットワークの利用を防ぐメリットがあり、また利用者側にも「ザッピング」(さまざまな動画をつまみ食い的に見ていくこと)の際に無駄なパケットを消費しなくなるメリットがあります。

 2の「コンテンツ改変」は、転送されるファイルそのものを小さくする技術です。例えば、Webページのテキストデータであればgzipで圧縮することで可逆的にサイズを小さくできます。また画像ファイルであればコンテンツを不可逆に劣化させる代わりにファイルサイズを小さくすることが可能ですし、動画ファイルであればフレームレートを小さくする(フレームを間引く)ことで不可逆的にファイルサイズを小さくできます。

 2002年に同種のデータ圧縮をDDIポケット(当時)がWeb高速化サービスとして同社のPHSサービスの利用者に無償で提供(その後有償化)しました。そちらは端末にクライアントアプリをインストールする必要があったものであるのに対して、現代の「通信の最適化」では端末にクライアントをインストールする必要はなく、ネットワーク機器が自律的にコンテンツを改変するところが異なります。

 ここで注意してほしいのは、1の帯域制御はデータの内容までは手を付けない(単に転送速度を遅くするだけ)なのに対し、2のコンテンツ改変はデータの中身にまで手を入れるという点です。1は利用者にはデメリットはないのですが(SSLや法的な問題は後述します)、2は、利用者にとっては転送の高速化やパケットの節約というメリットはあるにせよ、より高品位な画像や動画を楽しみたい利用者にとっては不可逆圧縮とコンテンツの劣化がデメリットとなり得ます。

 また、前出のソフトバンクの問題のように、電気通信事業者がデータを改変することを想定していないアプリケーションが、正しい挙動をできなくなる可能性もデメリットとして挙げられます。

 3のTCP最適化は、TCPと呼ばれるインターネットの基本的な通信プロトコルのパラメータをモバイル環境向けに調整することで、モバイル通信の特性に合ったデータ転送を可能とするものです。これにより通信速度が安定する、再送が減ることで無駄な通信が減るなどのメリットがありますが、やや制御内容が専門的であり、詳細は割愛します。

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