“没頭する人”に向けて追求した軽量化 有機ELはシャープ流にアレンジ 開発陣に聞く「AQUOS zero」(1/2 ページ)

» 2019年01月24日 06時00分 公開
[田中聡ITmedia]

 シャープの「AQUOS zero」は、同社製のスマートフォンとして初めて有機ELを採用したモデル。ソフトバンクが2018年12月21日に発売した。有機ELに加え、マグネシウムのフレームと、新素材のアラミド繊維「テクノーラ」を背面に採用したことで軽量化に成功。約6.2型ディスプレイを搭載しながら、約146gという軽さを実現した。

AQUOS zero シャープの有機EL搭載スマホ「AQUOS zero」

 スマートフォンAQUOSといえば、応答速度の速さや省エネ性能に定評のある「IGZO」を液晶に採用しているのが大きな特徴だが、有機ELはIGZOには対応しない。シャープはなぜこのタイミングで有機ELの採用に踏み切ったのか。開発陣に話を聞いた。

文庫本並み「150gを切ること」を目指して開発

AQUOS zero 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部主任の篠宮大樹氏

 まず有機ELを搭載した理由について、通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部主任の篠宮大樹氏は「軽さ」を第一に挙げる。「モバイル向けの動画やゲームコンテンツはリッチ化していて、モバイルでエンタメを長時間楽しめる時代になりましたが、一方でスマートフォンは年々重くなる傾向にあります。そこで、本当にコンテンツの世界に夢中になっていただけるよう、世界一軽い端末を作りたかった」(同氏)

 その際に目指したのが「150gを切ること」だった。「文庫本は150gぐらい、200ページぐらいが多い。本を読んでも負担を感じない、それと同じぐらいの重量を実現できたらいいなと考えました」と篠宮氏。そこで白羽の矢が立った有機ELに変更したことで30〜40%の軽量化に成功。もう1つの要因が背面に用いたアラミド繊維(テクノーラ)だ。アラミド繊維は引っ張り強度が鉄の5倍あるといわれており、防弾チョッキやカバンなどにも使われている。単に軽いだけではなく、高い剛性も確保する。これに加え、側面のフレームをマグネシウムにしたことも、軽量化に成功した。

 AQUOS zeroの約146gという重さは、「6型以上のディスプレイと3000mAhを超えるバッテリーを備え、防水(IPX5以上)に対応したスマートフォン」の中では世界最軽量を実現した(シャープ調べ)。

AQUOS zero 編み込み配合のアラミド繊維。軽さと強度を両立させた
AQUOS zero フレームには、スマホでは珍しいマグネシウムを採用
AQUOS zero 通信事業本部 パーソナル通信事業部長の小林繁氏

 通信事業本部 パーソナル通信事業部長の小林繁氏は「軽量化に振ったのはシャープらしい」と話す。スマートフォンの進化とは逆行する動きだからだ。「世の中が画一的になって、同じモノを作り始めたら、ブランドの存在意義がありません。シャープは変わったことをする会社というDNAがあるので、それを生かして物作りをしたい」(小林氏)

 小林氏は、マーケティング視点だと、スマートフォンを買うのは「人との関わりを重んじる人」と「自分の世界に没頭する人」の2種類に大別されると言う。前者は「SNSでつながりたい」「写真や動画を見せたい」という人たちが該当し、後者は「映像やゲームを楽しむ」人たちが該当する。2018年夏に発売したフラグシップモデル「AQUOS R2」で目指したのは前者で、動画専用のカメラを搭載するなど、ビジュアルコミュニケーションに重きを置いた。AQUOS zeroのターゲットになるのは後者の没頭タイプだ。

 軽さを追求したのは、長時間、快適に映像を見られるようにするため。イヤフォンジャックはスペースを取り、軽量化する上でもマイナスのため、zeroでは外している。それでもステレオスピーカーは搭載しており、シャープのスマホでは初めてスピーカーもDolby Atmosに対応している。AQUOS R2で採用した背面のデュアルカメラを見送ったのも、軽さを優先させたためだが、端末コンセプトからも「無し」でもいいと判断したのだろう。

 指紋センサーをAQUOS RやAQUOS senseなどの前面ではなく背面に搭載したのは、スマホを横に持ったときに、左右どちらもディスプレイまでの距離が均等になるようにしたため。これはゲーマーを意識した結果だそうで、「ゲームだと両側から持つケースがあり、距離が一定した方が使いやすい」(小林氏)ため。

AQUOS zero 横向きにしたとき、画面までの距離ができるだけ一定になるよう配慮した

 外部メモリスロットとワンセグも搭載していないが、これは薄さを実現するため。その代わり「大画面」「軽さ」「バッテリーの持ち」は譲れないとの考えを貫き、没頭型のスマホが完成した。

“じゃじゃ馬”のような画質調整に苦労

 有機ELの画質はゼロから調整しており、液晶とは違った苦労があったという。シャープはスマートフォンの液晶向けに「リッチカラーテクノロジーモバイル」という高画質化技術を採用しているが、これを有機EL向けにチューニングした。

AQUOS zero パネル性能、ユースケースに応じた画質とのその調整に注力した
AQUOS zero 通信事業本部 システム開発部長の前田健次氏

 シャープが目指す画質は、AQUOSのテレビがベースになっているが、スマートフォンではコンテンツに合わせている側面もある。スマホ向けコンテンツの画質は従来のSDR(Standard Dynamic Range)からHDR(High Dynamic Range)に進化したものが増え、カメラの画質も向上した。通信事業本部 システム開発部長の前田健次氏は「最近はコンテンツ自体がリッチになったので、スマホのディスプレイ画質に求められているのは、『より正確な色を出すこと』と『高精度な調整をすること』」だと話す。AQUOS R2では映像方式の「ドルビービジョン」に対応し、「プロモニター並み」という高い評価を得たと前田氏は振り返る。

 一方で「広色域」「高コントラスト」という特徴を持つ有機ELには、独自の調整をすることが求められた。「有機ELは、画質観点だと逆に(色域が)広がりすぎて、色がずれることがあります。黒が深いという特徴もありますが、逆に階調つぶれを起こして、暗い絵が見にくくなることがあります」(前田氏)

 液晶はバックライトの光がカラーフィルターを経由して透過するので、光の波長がブロードで(広く)優しい光り方をする。一方、有機ELはRGBが点発光するので光の波長が液晶よりもピーキーで、少しでも特性が変わると、色が大きくずれてしまうという。そこで色ずれや階調つぶれを抑えるべく、色域を最適にコントロールした。

AQUOS zero 有機ELと液晶における分光特性の違い

 肌色などの中間色は色域を拡大せず忠実に再現しつつ、RGBの原色に近い部分は自然で滑らかに見えるよう色域を拡大。色域を制御するラーマッピングをあえて非線形にし、RGBの階調を独立して調整することで、深みのある表現が可能になり、黒つぶれや白飛びを抑えられるようになる。これは「なかなか変態なことをやっている」と小林氏。あらゆる光の特性を絶妙にコントロールしないと色の差が出てしまう調整は、「じゃじゃ馬のようだった」と前田氏は言う。

AQUOS zero 原色に近い部分と中間色を個別にコントロールすることで、自然で滑らかな色が出るようにした

 従来のIGZO液晶と比べた際の違いはどうか。前田氏は「液晶は中間色の表現が得意なので、肌色はキレイ」と話す。一方、RGBの原色に近い色は有機ELの方がくっきりと出るので、被写体によって評価は変わりそうだ。また「コンテンツを作る人のこだわりが増してきているので、アプリやコンテンツに応じてきれいに見せる努力はしています」(前田氏)とのこと。

AQUOS zero 上がAQUOS zero、下がAQUOS R2。zeroの方が、青や緑がより鮮やかに出ている
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