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» 2007年02月16日 11時00分 UPDATE

山谷剛史の「アジアン・アイティー」:Windows Vistaの発売日に中国はどうなった?

それなりに盛り上がったWindows Vistaの深夜販売イベント。世界各地で同様のお祭りが催されたようだが、中国における“真”の出荷開始日はどうも違うようだ。

[山谷剛史,ITmedia]

「一見すると」好調な北京の滑り出し

 中国でも1月30日にWindows Vistaが発売された。この連載でも何度か登場している北京の電脳街&ハイテク研究都市「中関村」では正式出荷開始日にあわせて大々的に記念イベントが催された。ITネタを扱う中国メディア各誌もその盛況ぶりを紹介している。

 イベントには、マイクロソフトはもちろんとして、レノボ、ソニー、東芝、デル、ヒューレット・パッカードといった中国で展開する国内国外を含めた主要PCベンダーと、インテル、AMDという2大CPUメーカーの中国法人幹部が参加。米国のMicrosoftからはOEM担当のコーポレートバイスプレジデントのスコット・バレリオ氏が出席した。出席者全員がチャイナドレスを身にまとい祝辞を発表するという演出は日本の一部メディアでも紹介された。ちなみにバレリオ氏は、イベントのスピーチで「正規版の利用の推奨」に言及せずWindows Vistaの発売を喜ぶ至極無難なコメントに終始した。また、イベントの後に立ち寄った同じ中関村にあるレノボのWindows Vista搭載PC体験センターのフラグシップ店で、メディアや来店したユーザーに「にこやかに対応」している姿を多くの中国IT系Webメディアが紹介している。

 中関村では、正規版ソフト販売チェーン店の「連邦」などでWindows Vistaの販売を開始している。中国メディアが掲載している写真で見る限り、連邦ではWindows Vistaパッケージをガラスのケースに入れて客が手にとって見れないようにしている。通常、マイクロソフトやアドビなどの「手を出しにくい高価格のソフト」はガラスケースの中に陳列されているが、Windows Vistaも同様のようだ。

 ちなみに中国では日本で行われたような「零時を期した深夜販売」はなかった。正規版パッケージソフトを販売する店がないにひとしく、日本円にして“万”単位という高価な正規版ソフトを買うユーザーも少ない現状で「深夜販売のお祭り騒ぎがない」というのはもっともだろう。そもそも中国ではPC関連製品で深夜販売イベントを行うことがない。Core2 Duoのときも日本では深夜販売が行われたが中国では何事もなかった。

 中国のメディアが報じるWindows Vistaの発売イベントはどの媒体も中関村だけを取り上げている。東京なら秋葉原だけでなく新宿有楽町のイベントが記事で紹介されている。日本全国を見れば名古屋、福岡、札幌などなどいたるところで出荷記念イベントが行われてメディアで取り上げられている。中国では北京以外の都市でイベントはなかったのだろうか。

kn_chinavistaad.jpg 電脳ビルの正面には正式出荷開始後もWindows Vistaのロゴすらなし

 北京以外のWindows Vista発売当日のようすを取り上げた中国メディアに「毎日経済新聞」がある。上海の状況を紹介しているこの記事によると、上海の電脳街「徐家匯」では十数の店舗でWindows Vistaを販売しており、気になる海賊版はまだ姿を見せていないらしい。「Windows Vistaを買う人は少ないです」という店員のコメントも紹介されている。マイクロソフト中国法人のWebや掲示板の書き込みを探しても、北京以外でWinodws Vistaの発売イベントが行われた形跡は確認できなかった。

 筆者が滞在している内陸の地方都市には、1キロ以上にわたって延々とPCショップが並ぶ立派な電脳街があるが、そこでは出荷イベントや記念キャンペーンが行われていなかったどころか、Winodws Vistaの正規版が1本も販売されていない。

 日本では、「発売まであと何日」とカウントダウン広告をTVで流したり、ショップが深夜販売の予告などをしたりと、Windows Vistaに関わる企業が一体となって盛り上げた感がある。一方、中国ではマイクロソフトの中国法人にしてもショップにしてもそういう動きはなかった(発売が開始されてからIT系WebメディアにWindows Vistaの広告を載せてはいるが)。

ユーザーの反応は?そして海賊版は?

 Windows Vistaの発売開始が中国で盛り上がらなかった大きな理由として、どうしても「海賊版の蔓延」という状況を取り上げないわけにはいかないだろう。発売日からしばらくすれば激安な海賊版Windows Vistaが出る可能性は残念ながら高いだろうし、P2Pを利用したダウンロードサイトでも海賊版が出現することが考えられる。Webニュースサイトに掲載されるWindows Vista関連記事の感想欄にはこのような内容のコメントが多数書かれている。多くの中国人にとってのWindows VistaのXデーは正式に出荷を開始した日ではなく海賊版が出現した日となるのだろうか。

 そのXデーはまだ先のようである。簡体字版の海賊版は少数ながら出ているかもしれないが、現在出回っている海賊版Windows Vistaの多くが、RC2版を正規版と称している。これは街中の海賊版販売店や(こともあろうに)オンラインショッピングサイト最大手の淘宝網で販売されている。ちなみに淘宝網ではシリアルナンバー製造ソフトや「TweakVI」まで売りに出されていた。恐るべし。

kn_chinavista02.jpg なんか、ものすごく大胆なパッケージで売られている「Windows Vista」と「Microsoft Office Profesional 2007」
kn_chinavista03.jpg こちらは「Microsoft Office Suite 2007」と「Windows Vista Enterprise 2007」の正式版なんだそうな
kn_chinavista04.jpg だからさぁ!「Windows Vista Professional 2007」ってなんなんですかっ

 マイクロソフト中国法人は、自分の国で海賊版が深く広く浸透している事実を承知しているのか、パッケージ版こそ日本の価格と大差はないが、OEM版は300〜400元程度(5000円弱〜6000円強)という激安価格で提供することを決めている。中国メディアも「海賊版はいけない。節度あるWindows Vistaへのアップグレードを」と繰り返し訴えている。しかし、中国人が執筆する海賊版排斥記事の感想欄には、庶民による「この筆者だって海賊版使ってるんだろう」と執筆した記者の偽善を指摘する書き込みが並ぶ(ちなみに日本人である筆者が中国人向けに反海賊版記事を書くとたいてい「俺らは日本人みたいに金持ってないんだ。貧しいからしょうがないから海賊版を使うんだ」という書き込みが並ぶ)。

 そんな状況なので、中国のWebニュースに掲載されるWindows Vista関連記事の読者感想欄は「盗版万歳!」「どこでダウンロードできるか?」「正版はサポートしない!」というような書き込みが氾濫する無法地帯と化している(盗版とは海賊版の意味、正版とは正規版の意味)。

 海賊版撲滅運動が国家的規模で推進されている中国では、Webニュースサイトが海賊版を推奨できない。しかし海賊版ネタを掲載すればアクセス数が稼げる。そこで、「このURLで海賊版のWindows Vistaがダウンロードできる。こういったWebサイトはよくないので注意しましょう」とか「いかにRC版を末永く利用するか」といった記事を掲載するWebニュースサイトが出現している。“過激”なWebサイトになると、一部のファイルなら著作権を侵害したことにならないと思っているのか、Windows Vistaに収録された壁紙ファイルや効果音のデータを提供しているケースもある。

中国ユーザーはWindows Vistaをインストールするか

 多くの中国IT系WebニュースサイトではWinodws Vistaに関する簡易アンケートを設けている。そこで用意されている質問と集計結果をいくつか紹介しよう。

──質問「Windows Vistaが発売されたけどVistaにアップグレードする?」(太平洋電脳網より)

回答 「はい、早急にインストールしたい」836票(33%)「すぐには考えていない」829票(33%)「いいえ、XPで充分」509票(20%)「まずはようすを見る」351票(14%)

──質問「Windows Vistaが発売されたけどVistaにアップグレードする?」(PCPOPより)

回答 「自身のハードウェアのスペックが充分なとき」37%「Windows Vistaのドライバがそろったとき」28%「大多数の人が乗り換えたとき」21%「安定動作が報告されたとき」13%

──質問「Windows Vista Ultimate版にふさわしい価格は?」(太平洋電脳網より)

回答 「300元以内」(5000円以下)1428票(57%)「300〜500元」(5000円弱〜8000円強)547票(22%)「500〜1000元」(8000円強〜1万6000円強)315票(12%)「1000元以上」(1万5000円以上)235票(9%)

──質問「Windows Vistaの発売とWindows 95の発売ではどちらが盛り上がった?」(中関村在線より)

回答 「Windows 95」3116票(46%)「Windows Vista」1528票(23%)「その他」(宣伝具合による/時代が違う)2145票(32%)

 PC USERの右欄に設けられているアンケート「+D QUICK POLL」で先日まで掲載されていた「Windows Vista、買うならどれ?」で集まった結果と比べると、QUICK POLLの70%が「当面はようすを見る」と答えているのに対し、中国のユーザーはずいぶんと積極的だ。

 Windows Vistaの出荷が始まったら正規版が普及するという期待は幻滅に終わりそうだ。こういう状況においてWindows VistaをプリインストールしたメーカーPCはどうなるのだろうか。それを次回で紹介しようと思う。

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