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» 2007年05月08日 11時30分 UPDATE

後藤重治のPC周辺機器売場の歩き方:第10回:「応援販売」が販売店を滅ぼす(前編)

イマドキのメーカーは製品がユーザーに渡るまで、販売店の要求に応えなければならない。ここに、販売店が抱える構造的な問題が隠されているのだ。

[後藤重治,ITmedia]

製品知識のない店員が増えている

 最近、PC売場にいる店員の説明が下手になった──と感じたことはないだろうか。製品について質問しても的確な答えが返ってこないことが多くなってはいないだろうか。彼らは、パッケージの裏面を読みながら押し黙ってしまったり店の奥に引っ込んで、その製品についてネットで検索していたりする。いずれの場合も、製品に関する知識を持っていないためにその場その場で答えを探しているのが原因だ。

 これには、大きく分けて2つの理由が考えられる。1つは、消費者がインターネットなどを通じてかつては販売員でなければ知ることがなかった製品情報や口コミ情報を得られるようになったことで、店員の知識が相対的に減少したように見えるという点だ。そして、もう1つは、「実際に」店員の知識が下がっているという見方である。なぜ、こういう状況に陥ってしまったのだろうか。

製品を「セルイン」しただけでは済まないメーカー

 本連載でこれまで何度か出てきているキーワードに「セルイン」「セルアウト」がある。

 「セルイン」はメーカーから販売店に製品が納入されることを指し、「セルアウト」は販売店から顧客の手に製品が渡ることを指す。メーカーはセルインすれば売上が立つが、実際にセルアウトが発生して在庫がなくならないと販売店から次のオーダーは来ないし、それどころか、販売店からいつ返品を食らうか分からない状況にある。

 メーカーの側からすると、本来ならばセルインした時点で納品した製品の面倒を見る必要はなくなるはずである。製品をセルアウトさせるのは販売店側の役目であり、店員のスキルの見せどころでもある。とくにPC周辺機器業界は“委託販売”というスタイルがほとんどないため、セルインした時点で売上が立ち、伝票上の処理はひとまず終了ということになる。

 メーカーがセルインしたあとで販売店に協力できることといえば、展示方法のノウハウを伝えたり効果的な販促物を提供したりすることである。また、販売店に対して製品勉強会を行い、他社製品との違いや客から質問があった場合の対応などをレクチャーする。このあたりまでなら一般的に行われている支援策といえる。

 しかし、実際にはセルアウト、つまり販売店からユーザーに製品が渡る過程においてもなお、販売店はメーカーに協力を要請する。正確に言うと、販売店側は自ら積極的に製品を売ろうとしないので、メーカー側が何らかの行動を起こさない限り、製品はセルアウトしない構図になっているのである。

リベートで催事スペースを「握る」

 メーカーが販売店に対して起こす、セルアウトのための「行動」にはいくつかの種類がある。

 1つはリベートだ。より条件のいい売り場スペースの提供、もしくはポイント還元における厚遇を前提に、製品の値引きなどとは別に、一定のまとまった金額を販売店に支払うのである。流通関係者の間でこれらの行為は俗に「握る」と言われ、本部商談のときにきちんと「握って」おいたかどうかが、セルアウトの実績に直結する。例えば、エレベータ正面の催事スペースに製品を数日間山積みするのに、“それなり”の金額を握ってもらう。早い話が「ショバ代」である。

 店頭で、同じグレードの製品なのに一方のメーカーは大々的に山積みされ、もう一方のメーカーは通常の棚で売られている場合がある。これもメーカーが店側ときちんと“握って”いるかに起因する。同じグレードの製品だからといって同じ数量を並べていては、ユーザーも迷うし販売員も説明しづらい。こういう場合、販売店は1社とだけ“握る”ことで余計な説明に悩むことなく“効率的”な販売を行うわけである。

 催事スペースなどを“握る”ときにはおおむね期間が決まっており、販売店はその対価としてメーカーにリベートを要求する。リベートの額の大小はともかくとして、メーカーとしてはこうした要求をむげに断ることはできない。断れば競合他社がそこに介入してくるのが目に見えているからだ。

“応援販売”で集中的にセルアウト

 そして、リベートと並んでメーカーが採るもう1つの「行動」が“応援販売”である。これは、卸業者やメーカーの社員が、店頭で接客をする“習わし”のことである。「販売応援」と言うこともあれば、単に「応援」「派遣」(あくまでも呼称であって、契約が伴なう派遣とは異なる)と言うこともある。

 休日、とくに商戦期に販売店へ足を運んでみると、店員の中に明らかに雰囲気が違うスタッフが紛れている。店によっては、着用するベストの色が違ったり「販売応援」の腕章を付けさせているので、たいていは判別できる。彼らこそ、メーカーから派遣されている応援販売のスタッフなのだ。

 彼らは、店頭で製品に関するユーザーからの質問に答えるのが仕事である。販売店の店員に代わって接客を請け負うわけだ。彼らは「特定の型番製品」の売上ノルマを持って店頭に立っていることも珍しくはない。当然のことながら、彼らは自社製品に肩入れできる立場にあるので、問題にならない程度の軽微なデメリットに言及しつつ(ベタ誉めするとかえって疑わしいので)、さりげなく自社製品を勧める。

 客の意思が特定の製品にほぼ固まっているような場合、さすがにその決意をひっくり返すのは至難の業である。しかし、その判断が7分3分とか6分4分程度であれば、セールストークを駆使して自社の都合のよい製品に変えることも可能である。購入したい製品を絞りきれていないからこそ、店頭の販売員に製品について質問をしてくるわけであるから、非常に好ましいセールス対象とともいえる。

 こうして、自社製品のセルアウトを促すのが、応援販売スタッフの仕事だ。彼らはたしかに製品には詳しいかもしれないが、販売店スタッフとは異なり中立の立場ではないだけに、消費者にとってメリットのある情報だけを提供してくれるとは限らない。

 ちなみに、彼らは販売員として専門の教育を受けたわけではないので、口調がぎこちなかったり対応がよそよそしかったりする。また、彼ら自身、その店舗を訪れるのがその日初めてという場合もあるので、例えばトイレの場所や製品の陳列位置などを質問しても、うまく答えられない場合がある。明らかに体型に合わない法被を着ているとか、胸に「入店許可証」をつけているといった、外見で応援販売スタッフを識別することもできる。

値引きの代わりに人件費で処理

 そもそも、なぜメーカーはこうした応援販売という行動をとるのだろうか。

 もともと利幅が少ないPC周辺機器においては、処分品でもない限り、大幅な値引きが困難である。先に書いたように「好条件の売場を確保できる」といった明確なメリットがない限り、まとまった額のリベートを稟議で通すのはメーカーの社内事情としても難しい。

 そこで営業マンは、こうした値引きやリベート要求を回避するため、代わりに応援販売の人員を送りこむことを販売店に提案する。本来は値引き伝票を切って処理すべきところを“労働力”で充当しているのだ。帳簿で見ると販管費が増大することになるが、これは営業マンの個人成績にはあまり響かない。営業マンの評価軸は、あくまで取引先に対しての「売上」と「利益」であるからだ。

 販売店側としても、人手の足りない土日に販売員が増えるため、むしろリベートよりも条件がいいことになる。こうして、「週末の店頭に多数のメーカー社員が立つ」という構図が生まれる。

 では、こうした応援販売を行うことで、本当にセルアウトに効果はあるのだろうか。結果から言ってしまうと「抜群に効果がある」というのが現状である。インターネットによる通販が注目されて世間的にも目立つようになってはいるが、店頭の販売量は、ネット通販のそれをはるかに上回っている。それこそ大規模家電量販店であれば、ネット通販では1カ月かけてもさばけない数量を1日で完売させることも不可能ではない。リアル店舗とネット店舗では、根本的に集客力が異なるのだ。だからこそ、メーカー側は応援販売に人を割いてセルアウトの実績を力技でアップさせようとするのである。

応援販売の隆盛が示す「販売店の構造的な問題」

 このように書くと、ユーザーの中には「応援販売員は製品を強引にセルアウトさせるためのメーカーの回し者で、店と結託して消費者が望まない商品を売りつける忌むべき存在だ」と考えるかもしれない。

 実際、応援販売に立ったことのある人間(何を隠そう筆者も店頭に立ったことがある)は、メーカーの応援販売員をあまり信用しない。立場的に開発サイドに近い彼らを利用して製品のリスクをうまく聞き出そうとすることはあるが、彼らの説明を鵜呑みにすることはない。一部の応援販売員は親身になって考えてくれるかもしれないが、それはあくまで例外的なケースである。

 ただし。応援販売員を「悪」と決め付けるのは早計だ。事実、ここ数年で、応援販売のスタイルはかなり変化してきている。この変化こそが、現在の販売店が置かれた状況を如実に表しているのだ。次回は、こうした応援販売の隆盛から見る、販売店の構造的な問題について述べていきたい。

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