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» 2012年12月20日 11時00分 UPDATE

牧ノブユキの「ワークアラウンド」:“あれ”が“あの”販売店に“ない”理由 (1/2)

あるメーカーの製品がある販売店にない場合、販売店関係者が「俺たちの影響力」と自慢していたら、実はメーカーの“思惑”だったりするから、この業界面白い。

[牧ノブユキ,ITmedia]

「あそことは取引をしたくない!」というメーカーの恨み

 Amazonの電子書籍ストア「Kindle」が日本に上陸し、専用の電子書籍端末やタブレットデバイスの品薄状態が続いている。電子書籍の大本命ということで待ちわびていたユーザーも多く、冬のボーナスの使い道として、Kindle専用端末を挙げる人も多い。また、本命が登場したことで、それまで様子見だったユーザーが、競合の電子書籍端末やタブレットデバイスの購入に踏み切るようになるなど、電子書籍関連製品は、冬商戦の主力となる勢いを示している。

 Kindle専用端末は、Amazon以外に家電量販店ルートでも販売している。しかし、“一部の大手販売店”で取り扱わないことが関係者で話題になった。Kindleを販売することが流通業界でも勢力を拡大しているAmazonに手を貸すことになるため、競合となる量販店が敬遠したといううわさもあるが、真相は分からない。仮にKindle関連製品を取り扱わない販売店の意図がその通りだったとしても、それだけで取引を行わないかどうかは別問題だ。

 “この件の真相とは関係なく”、販売店で特定のメーカーの製品を取り扱わない場合、それが、販売店側の事情による場合もあれば、メーカーが決めた意思の場合もある。メーカーの意思が働いているケースでは、販売店は「俺たちの意向をメーカーに飲ませた」と思っていたら、実は取引をしたくないメーカーの思惑に操られていただけ、という場合もある。こうした特定の販売店との取引でメーカーが駆使する「駆け引きのテクニック」は、「俺って、なんとなく弱い立場」と思いがちな“あなた”に希望と勇気を与えてくれる、かもしれない。

特定の販売店にだけ安く卸すリスク

 流通関係者には常識だが、メーカーと販売店の関係において、「販売店>>越えられない“なにか”>>>メーカー」というほどに販売店は圧倒的に強い。流通業界の内部事情を知らない購入者側には、メーカーがモノを作らなければ販売店は売るものがなくなって困るから、メーカーが強いのでは? と思うかもしれない。しかし、「販売店の機嫌を損ねたらメーカーはモノを売るルートがなくなる」ことの影響力が圧倒的に大きく、その結果としてメーカーは、販売店の要求を拒否できない関係が出来上がる。PCや周辺機器関連メーカーと販売店では、この考えがかなり強い。

 ところが、ここ10年ほどで、販売店に頼らずメーカーが直接ユーザーにインターネット経由で販売する「メーカー直販ルート」を確立したことで、この力関係にわずかながら変化が生じている。小規模なメーカーでは、販売店に製品を卸さず、インターネット販売に特化したところも多い。

 もっともこれは、会社の規模や従業員数がインターネット販売の売り上げに見合うだけの規模であるか、生産能力が十分でないがゆえに、むしろ販売店に卸すほどの数量を生産できないという別の事情があって成り立つもので、単純に量販店ルートとメーカー直販ルートに製品を流した場合、8:2とか9:1といった割合で、量販店ルートの販売量が多くなる。ネット掲示板などで、「店頭に卸さずにネットで売ったほうが、もうかるはず」「俺達が全部買う」と気勢を上げているユーザーもいるが、現実と現場を知る関係者から一笑に付されて終わりだ。

 しかし、こうした状況にありながらも、メーカー側が特定の販売店と取引を避けるケースが存在する。最もよくあるのは、価格条件が合わない場合だ。販売店側が要求する仕切価格に合わせられないケースがこれにあたる。メーカーは販売店に1000円で売ってもらいたい意図があって、卸価格を700円にして見積りを出したとする。販売店が売価の3割を利益にする計算だ。ところが、販売店が3割ではなく4割の利益を要求してくることがある。この例では、卸価格を600円にしろと要求することになる。「よそのメーカーはどこも利益4割で統一しているから、お前のところだけ例外は認められない」というわけだ。

 こうした場合、ある程度の販売数を約束することで600円に合わせる場合もあれば、最初は700円でスタートして段階的に600円に近づけていくなど、さまざまな交渉方法があるが、単純に卸価格を安くして自社の利益を薄くすること以上にメーカーにとって困るのが、ほかの販売店に及ぼす影響だ。

 セール期間中に、販売店が通常売価1000円のところ680円で販売したとする。期間限定としても大幅な実売価格の引き下げだ。しかし、メーカーは販売店が決める実売価格に意見する権利はないので、680円で販売するのを黙って見ているしかない。しかし、ほかの販売店は、「あの販売店は680円で売っているのに、うちの卸価格は700円」という逆転現象が起きてしまう。利益3割で交渉に応じた販売店は「オイオイふざけるな」となる。この対応がこじれると、ある販売店にだけ安く卸したことが、ほかの販売店との取引を悪化させることになりかねない。

 いったん出した卸価格をあとになってから上げることは基本的に難しいので、そうなるとその後も延々と不利な価格のまま卸し続ける事態に陥る。製品数が主要な数アイテムだけで、その製品も定期的に終息→新製品投入で入れ替わっていくようなスタイルのメーカーであればまだ改善の見込みはあるが、アクセサリ類のように、すべて一律で利益4割、などとしていると後日の変更は難しい。その結果、ある販売店に対してのみ卸価格を安くしたつもりが、しばらく経ってみるとすべての取引先に対して卸価格を安くせざるを得ない状況に陥ったりするわけだ。

 メーカーはこうした状況を前もって予測し、販売店に要求を受け入れられないことを伝える。その結果、取引が行えないという事態になるわけだ。ほかにも卸価格のデータを販売店経由で入手したライバルメーカーが、他の販売店に「あのメーカー、おたくの店に対しては高いのに、あっちの販売店には安く卸してるみたいですよ」などと告げ口をして発覚するケースもある。ひとつの販売店にだけ安く卸すというのは、それだけリスクがあることなのだ。

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