Cintiq使いの漫画家が「VAIO Z Canvas」を真剣にレビューする液晶ペンタブに新時代が到来!(2/6 ページ)

» 2015年06月07日 07時00分 公開

Cintiqと使い比べた印象は?

 漫画家御用達のお絵かきソフト「CLIP STUDIO PAINT EX」を立ち上げて、VAIO Z Canvas(液晶保護シート付き)とCintiq 13HDの描き心地を取っ替え引っ替え比較してみた。ここではマシンパワーの条件をそろえて、純粋にペン性能の違いを比べるため、Cintiq 13HDをVAIO Z Canvasに接続して使用している。

12.3型3:2液晶を搭載したペンタブレットPCのVAIO Z Canvas(左)、13.3型16:9液晶を備えた液晶ペンタブレットのCintiq 13HD(右)

 あくまで個人の感想と断っておくが、以下のような得手不得手がみえてきた。

  • VAIO Z Canvasのいいところ
    • 画面の場所を問わずペン位置の検出精度が高い(Cintiqは端に行くと精度が落ちる)
    • 視差がとても小さく、紙の使い心地に近い(Cintiqは視差が大きめ)
  • Cintiq 13HDのいいところ
    • ホバー中も含めたカーソルのペン追従性が高い(VAIO Z Canvasはちょっと遅れる)
    • ON荷重わずか1グラムという性能を持ち、軽い筆圧も繊細に感知する(VAIO Z Canvasは軽いペンタッチが苦手)

 ペンの追従性についてだが、Cintiqはホバー中も描画中もペンの追従性が素晴らしい。VAIO Z Canvasのペンは、ホバー状態だとペンの動きにやや遅れてカーソルが付いてくる感じで、描画中もほんの少し遅れている印象だ。Cintiqを普段使っていることもあり、ペンの物理的な位置ではなくカーソルの位置を見ることに慣れている筆者は、多少の使いにくさを感じた。ただ、表示が遅れても線がゆがんだりするわけではなく、慣れればあまり気にならない。

VAIO Z Canvasのカーソルの様子。ホバー中はペンの動きにカーソルがほんの少し遅れて追従してくるが、描き始めてしまえば素早いストロークもキレイに描画してくれる
Cintiq 13HDは、ホバー中により素早くカーソルがペンについてくる。もちろん素早い描画も問題ない

 続いて筆圧性能について。筆圧レベルのスペックで言えば、Cintiqが2048段階なのに対し、VAIO Z Canvasはハードウェア的には256段階で、ソフトウェア処理により1024段階相当の効果を実現しているという。一見、VAIO Z Canvasがかなり劣勢に思えるが、使った印象としては、どちらも筆圧の変化は滑らかに反映されていると感じた。

 一方で「軽いタッチ」については「最小ON荷重1グラム」を誇るCintiqの方が繊細に反応する。VAIO Z Canvasでは、非常に弱い筆圧で細い線を描こうとすると、ペンが圧力を感知せず、線が「抜け」てしまうことがあった。

VAIO Z Canvasの試し書き。線の強弱は滑らかだ
筆圧設定「標準」の状態で、最弱の筆圧にトライした線。一筆書きのつもりだが、線がところどころ抜けてしまっている

 ただ、Cintiqも1グラム以下の荷重は感知できないので、力が弱すぎると「抜け」てしまう。結局のところ、極細の線を描きたければ単純にソフト側で細いペンを使えばいいわけで、筆圧の特性を分かったうえで線の太さを選べばいいと筆者は考えている。

Cintiq 13HDでの試し書き。線の強弱に不満はない
標準の筆圧設定で最弱の筆圧にトライした線。Cintiqも、ごく軽い力で描いた際に抜けがないわけではない

 ちなみにVAIO Z Canvasは独自の「VAIOの設定」ユーティリティで筆圧設定を変更できる。設定を「硬い」に変更することで、多少力んでしまっても線が太りにくく、安定して細い線が描けた。VAIO Z Canvasを試用するときは、ぜひ「硬い」筆圧設定も試してみてほしい。

「VAIOの設定」ユーティリティでは「柔らかい」「標準」「硬い」の3段階から簡単に筆圧が選べる
細かくカスタマイズしたい人は筆圧カーブを操作して調節することも可能だ。筆圧カーブのグラフは縦軸が「線の太さ」、横軸が「筆圧の強さ」となっており、4点を操作して細かく調整できる。右側には試し描きのエリアもある
筆圧設定「硬い」での試し描き。筆者にはこの設定がしっくりきた
「硬い」設定でちょっと強めに描くことで、最細の線をかなり安定して描けた

 ここからはVAIO Z Canvasが優勢だと感じた点について述べていこう。まず、ペンとカーソルとの位置のズレが画面全体で小さく、思った通りの線が引ける。また、試作機段階で気になっていた「線を非常にゆっくり引いてみるとゆがみが大きくなる」という点も、チューニングにより改善しており、ほとんど気にならなかった。

VAIO Z Canvasの画面上に定規を置き、線を引いてみた結果
Cintiq 13HDで定規を使って描いてみた結果
VAIO Z Canvasで線を引く速度を変えてみた結果。実質的には、線のゆがみはほとんど気にならない
実際にイラストをゆっくり描いて比較してみた。個人的には、優劣を付けるのは難しかった

 一方Cintiqでは、画面の端に近づくにつれペンの位置検出精度が低くなる傾向がある。絵を描くときは画面中央を使うことが多いので、表現力に影響を与えることは少ないと思うが、例えば画面端の細かいアイコンをペンで押そうとすると、うまく押せないといった不便はある。

 そして、液晶ペンタブレットを語るときによく着目される「視差」についてだが、VAIO Z Canvasは液晶パネル面と表面ガラスとの距離がとても短く、視差がよく抑えられており、ペンのすぐ下に線が描かれる。Cintiq 13HDも、Cintiqシリーズとしては視差の小さいモデルだが、VAIO Z Canvasと比べてしまうと視差は大きく、ペンで描いた表面と実際に線が描かれる面の間にスペースが感じられる。

N-trig製のデジタイザスタイラスはもともと視差が小さいことで知られている。さらにVAIO Z Canvasは液晶パネルと表面ガラスの間に特殊な光学樹脂を充てんするダイレクトボンディング方式を採用しており、さらに視差が抑えられている

 VAIO Z Canvasは、視差の小ささとペンの位置ズレの小ささとが相まって、紙の感覚に近い使い心地だ。筆者はこの点がとても好ましかった。既存の液晶ペンタブレットの視差に不満を持っている人は、VAIO Z Canvasを試してみるべきだ。

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