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» 2016年10月28日 08時00分 UPDATE

本田雅一のクロスオーバーデジタル:新MacBook Proが得たものと失ったもの (1/2)

長らく変更のなかった「MacBook Pro」がついに刷新された。基本スペックはもちろん、キーボード周りやコネクタの構成も大きく変わっており、それらの影響を考える。

[本田雅一,ITmedia]

 10月27日(米国時間)、Appleはうわさ通り「MacBook Pro」シリーズを刷新した。2012年6月以来の大幅な設計変更だ。高解像ディスプレイ(Retinaディスプレイ)を搭載する以前、2008年10月から基本的なデザインイメージを変えていないため、デザインIDという意味では実に8年ぶりの刷新だとも言えよう。

MacBook Pro スリムになったボディーと、キーボード上部に搭載した「Touch Bar」が目を引く新型「MacBook Pro」

 そのハードウェア面での特徴はいくつかあるが、今さらプロセッサの速度やディスプレイの解像度といった数字面について言及しても致し方ないだろう。正確で詳細な情報がメーカーの公式Webサイトに収められている。

 そこで、ここではデザイン変更を伴う刷新を、どういった意図でAppleが行ったかについて、考えてみることにしたい。

あえてバランスを崩した製品が登場する理由

 「バランス」という言葉は、さまざまな意味で使われる。何かを中心にして、正反対の2つの要素を比べ、その間にある均衡・不均衡をバランスという。やじろべえの錘の位置と、収支均衡の両方がバランスだ。

 大多数の製品は、メーカー(商品企画・開発者)が時流を読み取って作ることでバランスのよいものになる。時流に沿った製品を作る方が、安定した結果を得やすいからだ。しかし、時代が変化する「そのとき」が来ると、あえてバランスを崩した製品が登場することがある。

 スマートフォンによるイノベーションが一段落した今、「最もパーソナルに近いコンピュータ」の座を奪われたコンシューマー向けのパソコンは、その製品としての形を変えようともがいている。企業向けの生産性を高める道具としてパソコンの地位は不動だが、個人にひも付くコンピュータとしての立ち位置は、以前ほど盤石ではない。

 例えば、Lenovoの「Yoga Book」という製品がある。

 AndroidとWindowsという、以前ならば考えられなかったような両OSの選択が可能なこの製品は、ワコムの技術を採用したペン入力機能とタブレットデバイス、タッチ型キーボードを融合し、WANを内蔵させることで新しい領域を切り開こうとしている。

 PCほどの万能的な生産性はないが、ビジネスパースンが使う道具に特化する一方、PCとしての操作性が完璧ではないことを許容することで、新たなジャンルを模索しているのだろう。

Yoga Book Lenovoの「Yoga Book」(写真はWindowsモデル)。ペンタブレットとしても利用できるタッチキーボード「Halo Keyboard」と、インク入りで紙にも書き込めるペン「Real Pen」が特徴だ

 Microsoftが「Surface」シリーズで挑戦しようとしていることも同じだ。Surfaceシリーズは、タブレットとPCの融合、PCとホワイトボードの融合、あるいは先日発表された「Surface Studio」のようなデザイン/アート制作ツールとしてのPCの再設計など、さまざまなジャンルにチャレンジしている。

Surface Studio Microsoftの「Surface Studio」。28型の大画面ディスプレイを寝かせて「Surface Pen」で描くといった利用スタイルにも対応する

 ただし、MicrosoftやLenovoは「アンバランスな製品」を指向しているのかというと、そうではない。スマートフォンによって市場バランスが変化し、自分たちが世の中の中心ではなくなったことを悟ったときから、新たな中心へと立ち位置を変えようと模索しているのだ。

Microsoftとは違う立ち位置でパソコンの再設計に挑戦

 では、Appleが新しいMacBook Proで挑戦しようとしているのも、それらと同じようなものかというと、立ち位置はかなり異なる。なぜなら、Appleはスマートフォン革命において勝ち組となったプラットフォーマーの1社であり、筆頭であるからだ。

 現在のデジタルワールドにおける中心にいるAppleは、商品ラインアップの形を変える必要は基本的にはない。

 Microsoftがラディカル(急進的)に、新しいパソコンの形を模索しているのと対照的なのは、Microsoftがスマートフォン時代において、もはや主役級のプラットフォーマーではなくなったからだ。いや、そもそもMicrosoftはコンシューマー市場におけるプラットフォーマーではなくなったのかもしれない(もちろん、企業向けシステムではいまだに中心となる存在である)。

 一方、AppleはMacBook Proだけでなく、「MacBook」や「iMac」シリーズで保守的な改良を行ってきた。そして発表をみる限り、今回もまた「パソコンとは何か」という枠組みを大きくは変えず、その立ち位置を変えないまま、「現在のAppleが持つ技術要素と製品の世界観をもとに再設計」したのがMacBook Proという印象だ。

 なお、従来のMacBook Proや11インチモデル以外の「MacBook Air」は併売されるものの、位置付け的には「過去とのつながりを保つための製品」であり、AppleのノートブックコンピュータはMacBookとMacBook Proの2ラインに整理されていくのだと考えられる。従来のMacBook Airが担っていた領域は、従来型ファンクションキーを搭載する新型MacBook Proの13インチモデルが引き継ぐ形だ。

MBA/MBP 13インチMacBook Air(左)と新型13インチMacBook ProのTouch Bar非搭載モデル(右)。画面サイズは同じだが、フットプリントはより小さく、厚さはより薄く、それでいて高性能になった

 「現在のAppleが持つ技術要素と製品の世界観をもとに再設計」と表現したが、それはどういうものなのか。

 12インチの新型MacBookで取り入れられた新しいキーボード構造(キートップが安定して平行移動し、剛性感が高い)、サイズが大きくメカニカルスイッチを排除した感圧タッチトラックパッド、USB Type-Cベースの新しいコネクタ周り(MacBook Proでは、より高速なThunderBolt 3対応になっているが)、SDメモリーカードスロットをはじめ旧世代のI/Oインタフェース一掃などが、それに当たるだろう。

 さらに新型MacBook Proでは、キーボードで1番上の列が省かれ、ここに高精細なOLED(有機EL)ディスプレイと静電型マルチタッチパネルを組み合わせた「Touch Bar」が追加された。

 ボディーが薄くコンパクトかつ軽量となり、バッテリーも10時間駆動をうたうMacBook Proだが、ハードウェアコンセプトの面から捉えると、この辺りが注目点だろう。

 確かにTouch Barはなかなか面白いコンセプトだ。新たなユーザーインタフェースとして定着するかもしれないが、一方でThunderbolt 3以外のI/Oインタフェースを全廃(ヘッドフォンジャックは搭載)した点は、iPhone 7からヘッドフォンジャックを排除した以上の劇薬となるかもしれない。

MacBook Pro Touch Barの追加と、Thunderbolt 3以外のI/Oインタフェース全廃が新型MacBook Proのポイントとなる
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