連載
» 2017年03月08日 06時00分 UPDATE

たまにiTunesに“変な気持ち”にさせられてしまう話

登場して16年が経つ「iTunes」に、時折困惑させられてきたお話。

[上田啓太,ITmedia]
オレの知ってるネットと違う

 今回はiTunesに関する思い出話である。ご存じのようにApple製の音楽再生ソフトで、もちろん現在も普通に使われているが、初リリースは2001年。じつは16年も経っている。当時の私はMacampなんてソフトを使っていて、iTunesに乗り換えたと記憶している。個人的には、iTunesの登場によって、「CDで音楽を聴く」から「PCで音楽を聴く」に完全に切り替わった印象だ。

 この16年で音楽業界にはさまざまな変化があった。iPodが登場し、iTunes Music Store(現iTunes Store)も誕生し、コピーコントロールCDの騒動もあり、YouTubeが登場し、Apple Musicのような定額聴き放題サービスも生まれ、音楽と人間の関わり方も昔とはずいぶん変化した……のだが、この連載はそういう大きなハナシはスルーして、どうでもいいところに突っ込んでいくのが特徴である。

 私がiTunesで印象深いのは、今は亡き「パーティーシャッフル」という機能なので、その思い出話から始めたい。

ライター:上田啓太

上田啓太

1984年生まれのブロガー。京都在住。15歳のときにネットに出会い、人生の半分以上をネットとともに過ごしてきた男。

個人ブログ:真顔日記 Twitter:@ueda_keita


パーティーといわれても!

 一時期のiTunesには、「パーティーシャッフル」という機能があった。要するにライブラリにある楽曲をシャッフル再生してくれるんだが、この名称に当時から違和感があった。「パーティーとか言われても」というのが、日本人である自分の偽らざる感覚だった。説明書きには「あなたが自宅でパーティーを主催するときに使ってください」という趣旨のことが書かれており、「主催しねえ!」と反射的に思ったのを覚えている。

 日本で暮らす大学生の自分にとって、自宅で主催するのはせいぜいが飲み会だった。だから「あなたが自宅でパーティーを主催するとき」という一文の飲み込めなさはすさまじかった。当時の自分は一人暮らしの狭いアパートで、パーティーシャッフルで音楽を聴いていた。もちろん一人で、淡々と。このパーティー感のなさ。まあ、「飲み会シャッフル」となると一気に雰囲気が変わってしまうんだが。それじゃたんなる居酒屋の席替えだ。

きょ、距離が近い……

 基本的にiTunesは使いやすいソフトである。じゃないと10年以上使うことはできない。しかしたまにこういう妙なズレを感じて、Appleというのはアメリカの企業なんだよな、と実感させられる。唐突に異文化を実感するのである。似た例として、「妙に親しげにファーストネームで呼ばれる」という困惑もある。

 私は上田啓太という名前なんだが、ログインした直後、「Hi、啓太!」と表示されて面くらうのである。「きょ、距離が近い……」ということだ。ディスプレイごしに相手の鼻息がかかったような気分。日常的に使うものだからフレンドリーに、ということなんだろうか。

 やはり自分は、「こんにちは、上田さん」くらいの距離感のほうがしっくりくる。Webサービスに「Hi、啓太!」とかいわれてしまうと、親よりも恋人よりも、コイツとの距離のほうが近いじゃねえか、と思ってしまう。アメリカ製サービスでは、ちょくちょく鼻息を感じて、たじろいでしまう。

「ラブ済み」という妙な訳語は何なのか?

 iTunesで最近おどろいたのは、「ラブ」という機能が登場したことだ。長いこと、iTunesにおける曲の評価方法は★による五段階評価だった。例えば大好きな曲には★★★★★を付けるというふうに。そこに唐突にハートが登場した。こちらは数ではなく「ハートを付けるか付けないか」である。いまのところ併用できるが、どうもゆくゆくはスターが廃止され、ラブだけが残るのかもしれない。

 そのこと自体の是非もあるが、ここでも私が気になるのは結構どうでもいい部分で、日本語版で「Loved」が「ラブ済み」と訳されていること。これが気になる。例えばラブを付けた曲をまとめて表示したい場合、スマートプレイリストの条件に「ラブ済みの曲」と設定する。そんなふうに操作しつつも、「ラブ済み」という言葉が、つぼで仕方ない。なんなんだ、iTunes。笑わそうとしているのか。

 一体、なにを思って「ラブ済み」と訳したのか。絶妙にヘンである。「ラブ」という感情的なものに、「済み」という事務的で役所っぽい響きがくっついているところだろうか。青白い顔の役人が、無表情で淡々と「ラブ済み」のハンコを押している感じ。

 それに、言葉のニュアンスとして、「ラブ済み」といわれると今はもう愛してないようにも受け取れる。昔の恋人はラブ済みという感じだ。今の恋人に「きみはラブ済み」といえばキレられるだろう。「済ませてんじゃねえよ」と。まあ、昔の恋人に「きみはラブ済み」と言ってもキレられると思いますが。モノ扱いしちゃってますし。

憎めないiTunes

 パーティーを主催する前提で話が進んだり、ファーストネームで呼ばれたり、ラブ済みという斬新な訳語におどろいたり、iTunesに翻弄されつつも、なんだかんだで使い続けている。そんな16年だった。しかし最近のiTunesは、Apple Musicを使うことを前提にした設計に変わりつつある印象があり、古くから使っている自分としては少々困っている。

 大量の音源をデータとして所有・管理することに慣れてしまったから、聴き放題サービスにはいまいちなじめない。このままiTunesを使い続けるか、高音質再生を売りにした別のソフトに乗り換えるべきか? とうとう、長年付き合ってきたiTunesと別れる時が来たのか? そんなふうに、わりと真面目に悩んでいるんだが、iTunesのほうは、お構いなしに「ラブ済み」とか言っている。

 ちなみに、ラブの機能を最初に使ったとき、「はじめてラブしました」というメッセージが表示された。それでまた笑ってしまった。これは、心を持たないアンドロイドがはじめて人間とふれあったときに出るメッセージじゃないのか。俺は、はじめてラブしたのか。はじめて愛を知ったのか。なんなんだ、iTunes。憎めないよ。

オレの知ってるネットと違う

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