長らくWebブラウザの世界でInternet Explorer(IE)が大きなシェアを獲得していたのは、過去のIEから連綿と続くアプリケーション資産の動作をサポートし、主に企業ユーザーが継続利用していたことにある。ただし、そのような「レガシー」のサポートはMicrosoftにとって大きな負担であり、新機能導入の阻害要因にもなっていた。
一方、Webブラウザ開発において身軽な立場にいたGoogleは次々と新しい機能を投入して改良した新バージョンのChromeブラウザを頻繁にリリースし、2010年代にはライバルらに対して抜きん出る存在にまで成長している。
新勢力の台頭は、Microsoftにとって看過できない問題だ。対抗策として、IEで積み上げてきた既存のコード(レガシーサポート)を捨て、Windows 10では「Edge」という新しいブラウザとレンダリングエンジンを採用するに至った。
こうしてWindows 10とともにリリースされたEdgeは、間もなく登場2周年を迎える。NetMarketShareによれば、1年前の2016年4月時点でグローバルのデスクトップ向けWebブラウザ全体でのシェアは4%強程度にすぎない。当時IEは4割近いシェアを確保していたものの、その割合は減り続けており、実質的にChromeなどの競合製品の流出が続いている。
その後、2016年8月に一般公開されたWindows 10の大型アップデート「Anniversary Update」ではChrome対抗の目玉となる「拡張機能(Extensions)」をついに導入し、続く2017年4月一般公開のWindows 10大型アップデート「Creators Update」の世代では「初期設定でのFlashコンテンツブロック」や「EPUBファイル表示」、「開いているタブの保存」といった新機能も追加してきた。
このように進化を続けるEdgeだが、1年前と比べてブラウザシェアの状況はどう変化したのだろうか。
Webブラウザのシェア計測では、NetMarketShareとStatCounterの2つが有名だ。前者はインストールベースの計測でIEが優位になりやすい傾向があり、後者は実アクセス数ベースでヘビーユーザーが多いブラウザが優位になる傾向がある。
StatCounterでは長らくChromeが過半数以上のシェアで首位ブラウザの地位を占めていたが、NetMarketShareではIEが強く、ChromeがIEを抜いてシェア首位に躍り出たのはちょうど1年前の話だった。
それから1年後となる2017年4月時点のグローバルにおけるブラウザシェアを見ていこう。NetMarketShareによると、2017年4月のシェアはChromeが59%、IE+Edgeが24.02%となり、さらに両者の差が開いている。少なくともEdgeは4%台から5%台へと微増しているので、ユーザーを大幅に減らしたのはIEだ。
Windows 7の延長サポートが2020年1月に終了するため、多くの企業では既存のレガシーシステムの見直しまでのカウントダウンが始まっている。MicrosoftではWindows 10におけるIE11の継続サポートを表明しているものの、実質的にはより「モダンな環境」への移行を推奨しており、こうした動きがIEのシェア下落をもたらしている。
StatCounterの集計も同様で、IEのシェア減少分をEdgeのシェア増加でカバーできていないのが実情だ。Windows 10におけるデフォルトブラウザというゲタがあってなお、Edgeが厳しい状況には変わりない。登場から2年が過ぎようとしており、そろそろ抜本的なマーケティング施策の見直しが必要になるころだと考えている。
Microsoftが本社を構える米国でも、Edgeの不調を伝えるメディアは少なくない。例えば、米ZDNetの「Does anyone actually use (or even know about) Microsoft's Edge browser?(誰か本当にMicrosoftのEdgeを使っている人はいる? あるいは知っているというだけでも)」という記事は、タイトルからして辛辣(しんらつ)だ。
Windows 10ユーザーであっても、Edgeの存在自体を知らなかったり(あるいは意識していない)、少しでも素養があるユーザーであればクロスプラットフォームで利用しやすいChromeを導入していたりするという内容だ。これはMicrosoftのEdgeを盛り上げたいというキャンペーンが、主にユーザー側の素養や指向によって成功しにくいという可能性を示唆している。
もう1つ、StatCounterのデータでWindowsとAndroidのOSシェアが逆転したというトピックにも触れておきたい。Androidはスマートフォンとタブレット、WindowsはPCという違いがあるが、ユーザーの滞留時間がモバイルで長くなれば長くなるほど、モバイル環境で使えるブラウザやアプリの存在が重要になり、必然的にPCの利用環境もそれに引きずられることになる。
先ほどのクロスプラットフォーム対応はいい例で、スマートフォン、タブレット、PCでブックマークや履歴、タブの同期が手軽に行えるなら、Chromeを選択するというのも自然な流れだ。
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