それでは、MicrosoftはWindows on Snapdragon(Always Connected PC)のユーザー層をどのように考えているのだろうか。
米MicrosoftのWindows&デバイス部門担当コーポレートバイスプレジデントのマット・バーロー氏はAlways Connected PCについて4つのメリットを挙げている。
このうち、特に前の2つを「Game Changing」な存在であると強調する。
通信の多くをLTEに委ねる(ある程度はWi-Fiへのオフロードも想定しているようだが)Always Connected PCは、昨今のトレンドを反映したものだ。
2019年に商用サービスがスタートする5Gの世界では数百Gbpsクラスの通信速度を視野に入れており、単位時間あたりの通信容量単価が劇的に下がるとみられる。
既にLTE世代の現在においても下り1Gbpsのサービスが開始されており、「並のWi-Fi回線より速い」という状況がざらに発生している。特にビジネスユースでは信用のできない公衆Wi-Fiよりも自前回線(つまり3GやLTEの契約回線)の利用をセキュリティ上の理由から推奨しているケースもあり、この部分での需要増が見込まれるという。
何より常時接続というメリットは大きく、「PCをどこでもネットワーク接続前提で使える」というのは利用スタイルを大きく変革する可能性を秘めている。
現在はまだ「SIM」という存在により携帯キャリア依存を意識する部分が大きいが、今後はeSIMによる容量単位での回線契約スタイルが増えてくれば、「いつでもどこでも常時接続のPC」実現のハードルは自ずと下がるだろう。
現在はまだ端境期にあるが、これを超長時間のバッテリー駆動時間と合わせれば、本当の意味でゲームチャンジャーになれるかもしれない。
ここで注意したいのは、Always Connected PC、特にWindows on Snapdragonが、従来のPCが単に常時接続対応になったデバイスだと考えない方がいいことだ。
理由としては、まずデバイスのOSが「Windows 10 S」という点だ。これについてバーロー氏は「セキュリティ的、バッテリー的に適したと判断したから」だと説明している。
x86バイナリのアプリをそのまま動作させられる点がARMデバイスであるWindows on Snapdragonのメリットだが、基本的にはUWP(Universal Windows Platform)としてMicrosoftストア経由で配布されるアプリの導入、利用に限定される。
かつての「Windows RT」よりは自由度が高くてパフォーマンス的な問題も少ないが、基本的な利用スタイルは「EdgeをはじめとするインターネットアプリやOfficeなどのツールの利用」がその中心だ。ARMとx86ともに現状で32bitアプリのみが動作し、ARM64アプリ対応は2018年以降となる。
また、OfficeをはじめとするUWPアプリの多くはまだx86が中心で「Project Centennial」(Windows 7以前のデスクトップアプリケーションをWindows 10以降の“モダン”な実行形式であるUWPアプリに変換するツール)由来のものが多くを占めるとみられる。今後も64bit対応版であるx64アプリへの対応予定はないという。
Snapdragon上でのx86エミュレーションが32bit限定になる理由として、米MicrosoftのWindows担当ジェネラルマネジャーのエリン・チャップル氏は「パフォーマンス上の問題」を挙げている。
省電力での動作と一定のパフォーマンス確保をバランスさせるため、負荷の高いx86エミュレーションにはある程度の制限が必要となる。特に負荷の高い64bit対応について、64bit対応のみでリリースされるアプリの分布を調べたところ、実に90%が動作上高負荷となるゲームタイトルに集中していたという。故にエンジニアリング上の判断から、x64エミュレーションの搭載を見送ったということだ。
理想としてはSDKの提供による、より動作負荷の低いARM64ネイティブ対応のアプリが増えることだが、アプリストアの現状から判断してARM32やARM64にネイティブ対応するものはそう多くないとみている。
そうした意味で、これまでWindowsをヘビーに使っていたプロフェッショナルなユーザーの用途には必ずしも合致しない。あくまでMicrosoftが想定するシナリオにのっとった上、それを最大限に生かせるのがAlways Connected PC(Windows on Snapdragon)だと言える。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.