「Windows on Snapdragon」はPCのゲームチェンジャーになれる? その疑問と可能性鈴木淳也の「Windowsフロントライン」(3/3 ページ)

» 2017年12月26日 15時00分 公開
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企業ユーザーへの提供はさらに先

 また「Wi-Fiに頼らない常時接続を望む企業ユーザーがいる」という話に先ほど触れたが、バーロー氏によれば「Always Connected PC(Windows on Snapdragon)のエンタープライズへの展開はまだ先」だという。

 これには複数の理由が考えられるが、まずOSがWindows 10 Sのみということで、「Active Directory」に接続できないのは大きい。今後のWindows 10 Proアップグレードの提供は必須となる。

 Microsoftがフロントラインワーカーと呼ぶ特定業務従事者や外回りが中心の従業員を対象にWindows 10 Sの可能性を探っている他、2018年春には「Windows 10 Enterprise in S mode」という派生版のリリースを計画しているなど、少しずつ地固めを行っており、エンタープライズへの複数の提供オプションが整った2018年後半以降に順次セールスをかけていくのではないかと予想している。

 もちろん、新デバイスや新OS導入にまつわる検証やPCのリプレースサイクルもあり、2018年のタイミングでAlways Connected PC(Windows on Snapdragon)の導入が一気に進むとも思えない。

 一方でeSIMを組み合わせたMDM(モバイルデバイス管理)はセキュリティ上も非常に強力であり、少なからず興味を示す企業も多いはずだ。Microsoft社内では「Officeプラグインの多くがx86で提供されている(リコンパイルが必要)」という理由からリプレースに踏み切れないことを告白しているが、身軽な企業から導入検証が進むかもしれない。

スロースタートだがPC業界への大きなインパクトを期待

 PCにおけるLTEなどセルラーネットワークの利用は、主に携帯キャリアとの契約部分が理由で、ハードルが高いのが現状だ。しかし、今後はeSIMや対応デバイス、そしてそれを用意にするソリューションの登場により、一気に変化する可能性が高い。

 特に2020年以降を目安に、セルラーネットワークの容量単価が劇的に下がることが見込まれているため、有線接続やWi-Fiなどを意識せずとも常時接続環境を得られるようになるだろう。

 AppleがiOSとmacOSのボーダーレス化を推進し、2018年以降は両者でアプリの共通化を図っていくという報道が出ている。これの本当の狙いは「iPadのPC化」であり、セルラーネットワーク対応の進んだiPadでユーザーがどこでもPC環境やアプリ、コンテンツを楽しめるようにすることにある。

 iPadには既にeSIMが搭載されており、今回MicrosoftがAlways Connected PCで目指すのとほぼ同じゴールを想定していると推察する。

 筆者は、Always Connected PCのコンセプトは恐らく2003年に登場したIntelのモバイルプラットフォーム「Centrino」に匹敵するインパクトがあるのではないかと考えている。Centrino以降、モバイルPCでのWi-Fi搭載はごく当たり前となったが、これはPCの利便性を大きく変革させた。

 Always Connected PCはこの可能性をさらに広げるもので、PCのシンクライアント化がより進み、そこで動作するアプリも現在とは異なるトレンドを描き出すと考えている。恐らく、現在のPCの延長線上で考えてはいけないデバイスだという認識だ。

 一方で、Always Connected PC(Windows on Snapdragon)は現時点で既にスロースタートが見込まれている。必要な環境がそろうのが少なくとも2018年半ば以降であること、これに対応したデバイスの登場や周囲の環境整備がさらにその先になるためだ。

 2018年にアーリーアダプターらによる評価が進み、2019年以降に徐々にその評価が高まっていくというカーブを描くとみている。故に、立ち上がりが遅いという時点で評価を下すのは早計ではないかと考える。

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