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» 2009年07月10日 15時58分 UPDATE

ワイヤレスジャパン2009 キーパーソンインタビュー:XGP最大の特徴は“マイクロセル”と“上りの速さ”――ウィルコムの上村氏 (1/2)

上り/下りともに最大20Mbpsの高速通信が可能な「WILLCOM CORE XGP」の試験サービスを開始したウィルコム。10月の本サービス開始以降、XGPと現行PHSをどのような形で展開し、将来、どんなサービスを提供しようとしているのか。同社次世代事業推進室長の上村治氏に聞いた。

[日高彰,ITmedia]

 4月からXGP技術を利用した高速データ通信サービス「WILLCOM CORE XGP」のエリア限定サービスを開始したウィルコム。実際の通信速度などについては次第に明らかになりつつあるが、10月の正式サービス開始以降、現在のPHSとXGPとの関係はどのようなものになっていくのだろうか。

 ウィルコムはPHSとXGP(eXtended Global Platform)という2つのサービスを、今後どのように展開していこうと考えているのか――。同社次世代事業推進室長の上村治氏に聞いた。

3GやPHSで補完しながらXGPを育てる

Photo ウィルコム 次世代事業推進室 室長の上村治氏

ITmedia(聞き手:日高彰) 現行のPHSに加えて新たにXGPを開始することになるわけですが、ウィルコムではそれぞれのサービスをどのように位置づけているのでしょうか。

上村治氏(以下、敬称略) 音声サービスとデータ通信サービスのそれぞれに分けて考えますと、まず音声については当面、現行PHSの仕組みの中でいろいろな工夫を加えながらサービスを継続していこうと考えています。

 データ通信に関しては、「WILLCOM CORE」という新たなブランドを立ち上げました。XGPを核として、PHS、3G、Wi-Fiといったさまざまな通信方式を、お客様のニーズに合わせて、ユーザビリティの高い形で提供していきたいというのがコンセプトになります。

 音声サービスのPHSと、いろいろなデータ通信技術を組み合わせたWILLCOM COREの両方を並行して走らせていくというのが、ウィルコムの今後の大きな考え方になります。

 ただ、新しい技術を導入するときはいつもそうですが、最初からその技術がメインになることはありません。XGPのエリア拡大には時間がかかりますので、いきなりWILLCOM COREの主力になりきれるかというと、難しい部分もあります。3Gを取り入れたり、PHSを引き続き強化したりということをしながら、その間にXGPを育てていくという動きになります。

“セル半径100メートル以下”も可能なXGP

Photo ウィルコムは9月30日まで、エリアとユーザーを限定してXGPサービスを提供する

ITmedia 現在XGPは、エリアとユーザーを限定してサービスを提供していますが、モニターユーザーからの反応はいかがでしょうか。

上村 基本的には「速い」というお声をいただいていますが、まだユーザーが少ないですから、それをもって“XGPの評判がいい”と捉えているわけではありません。今後、もう少し様子を見ていく必要があると思います。ただ、技術的な部分には自信を持っており、実効的にかなり速い速度をご提供できる方式だと考えています。

ITmedia 「実効的に速い」ということですが、当面のライバルとなるモバイルWiMAXや、今後登場するLTEに対して、そう言える根拠はどこにあるのでしょうか。

上村 XGPも、モバイルWiMAXやLTEと同じOFDMAという技術を使っています。よく「LTEが100Mbps」といった言われ方をしますが、使用する周波数帯域幅などの条件を一致させれば、これら3方式の速度には大差ありません。

 ではXGPの強みはどこにあるのか。XGPはマイクロセルでエリアを作れ、“面積あたりの容量が大きい”という点が最大の特徴です。これにより、お客様が集中して大量のトラフィックが発生したときもスピードが落ちにくくなります。これは当初からの我々の最大の狙いであり、アピールポイントでもありますので、“混雑時においては絶対に他社に勝つ”と意気込んでいます。

 WiMAXも携帯電話も、隣接する基地局の電波が互いに干渉することにデリケートなため、非常に厳密にセル設計を行う必要があります。しかし、最近はビルのオーナーとの交渉がまとまらずに基地局の設置を断られ、やむなく隣のビルに基地局を設置するといったことも多くなっており、当初の計画から何十メートルか位置がずれることもあるわけです。半径がキロメートル単位の大きなセルの場合はあまり問題になりませんが、セルが小さくなってくると、半径数百メートルのうちの数十メートルですから、干渉の問題が相対的に大きくなります。これを回避するためにセルの再設計を行うには、相当の労力と費用がかかります。

 XGPでは、PHSと同じくセル同士の干渉を自律的に避ける技術を採用しており、最初から基地局をきれいに置けなくてもいいように開発されていますので、厳密なセル設計は不要ですし、基地局が隣のビルに移ってしまう程度では何の問題もありません。

 当社のいう「マイクロセル」では半径100メートル以下まで想定していますが、ほかの方式で半径100メートルを切るようなセルを扱うのは非常に難しいでしょう。ビルの中をカバーするためにピコセルを設置するといったことであれば、出力を絞ればいいので他方式でも可能ですが、連続する面をカバーするのは現実的ではありません。ですので、XGP以外のシステムで我々のようなマイクロセルを実現しようとすると、大変な苦労をすることになります。

ITmedia ほかの通信規格にも、セルを小さくするためのオプション技術が用意され始めているようです。

上村 確かに最近では、3Gなどでも新宿や渋谷のような場所では、かなり小さいセルが使われているようです。しかし限界はあり、半径100メートル以下のセルを実現することは現実には無理だと我々は考えています。今まではそれでも何とかトラフィックをさばくことができていましたが、今後は収容しきれなくなります。特に都会の過密地区の最繁時間帯においては、XGPとそれ以外の方式とで、明確な速度の違いが出てくると思います。

ITmedia マイクロセルでエリアを構築するためには、それだけの数の基地局を整備する必要があるということになりますが、サービスが立ち上がる段階からユーザーはマイクロセルのメリットを享受できるのでしょうか。

上村 モバイルWiMAXとの比較で言うと、UQコミュニケーションズは2月に約500局で東京・横浜・川崎エリアをカバーしてサービスを開始されましたが、XGPは200〜300局で現在のエリア限定サービスを提供しています。エリアと局数の比率で考えれば、基地局がかなり密に設置されているということは言えると思います。現在の我々のエリアが非常に狭いのはご存じの通りですが、日本の中で一番トラフィックの多い場所では、すでにマイクロセルでエリアがある程度できあがっているということになります。

 特にトラフィックが集中する丸の内や大手町といった東京駅周辺では、XGP基地局を200〜300メートルおきに1局といった間隔で設置しています。最も密なところでは、隣の基地局までの距離が100メートル以下の場所もすでに存在します。ここまで間隔を詰めて基地局を設置するのは、ほかの通信方式では非常に難しいでしょう。ただ屋内への浸透についてはまだ課題があり、チューニングをしているところです。

 また、これまで「XGPはPHSと同じマイクロセル」と申し上げてきましたが、XGPでは10ワットほどの出力を持つ基地局も用意しており、マイクロセルだけでなくマクロセルでもエリアを作れます。面積あたりのトラフィックは郊外へ行くほど小さくなりますので、そこでは大きな半径のセルでカバーすることで、効率よくエリア構築をしていくことができます。

 上りと下りの速度が対称な点も、マイクロセルと並ぶもう1つの大きな特徴です。ほかの方式に比べて相対的に上りに割り当てる部分が大きく、規格値としては上りと下りをともに20Mbpsとしていますが、フィールド環境で行っているテストでも上り10Mbps程度は出ています。おそらく、現時点では世界最速の上り速度を提供できるサービスと言って差し支えないでしょう。

上りの帯域がどう使われるかについてはまだこれからですが、個人がリアルタイムで映像を流すとか、配線のいらない監視カメラに使うとか、新たなアプリケーションにおいて優位性が高い技術だと考えています。

Photo マイクロセルによる安定した実行速度、上り/下りともに最大20Mbpsの高速通信が可能な点などがXGPの特徴

XGPは電話として使えるのか、SIMカード採用の意図は

Photo

ITmedia LTE陣営では、将来的にエリアが十分整備された場合、音声トラフィックもパケット化してLTEのネットワークに流すことを検討しているようです。ウィルコムは、音声サービスにXGPを使うという考えはないのでしょうか。

上村 現時点では、音声サービス用にXGPを使うことは考えていません。3Gが出てきて久しいですが、ご存じのように現在でも世界の移動体通信市場で最も広く使われているのはGSM方式です。新しい技術が出てきたから“前の技術はもう要らない”ということにはならず、その用途に関して問題なく安く使えるのであれば、その技術が使われ続けるというのが現実です。我々のPHSでも同じことがいえるでしょう。

 もちろん、音声トラフィックをPHSからXGPへ移行させる可能性がないとは言い切れません。音声もパケットのほうがいいという理由が生まれれば、そうしていくことはあり得ます。ただ当社としては、現時点では音声サービスは現行PHSで継続していく方針です。

ITmedia XGPの端末に電話番号は入っていませんが、入れることは可能なのでしょうか。

上村 制度上の問題で、現時点では無理です。モバイルWiMAXも含め、2.5GHz帯のBWAシステムは「電話」としては認められていないので、制度が改正されない限り電話番号を付けられないのです。もちろん、XGPで電話と同じような呼び出しサービスをすることについては、技術的にはいくらでもやり方は考えられます。ただ、実際にそれをやるかどうかは、ユーザーニーズやそのときのPHSやXGPの状況を、トータルで考えた上での判断になるでしょう。

ITmedia XGPでは新たにSIMカードを採用しましたが、その理由は。

上村 将来的に1人のユーザーが複数の機器を使いたいとなったときには、機器を追加契約するといった考え方もありますが、SIMカードで顧客認証ができれば、ユーザーがいつでも自由に入れ替えて使い分けることができます。この先SIMカードをどう使うか、今の時点ではまだ何とも言えないのですが、IDは個別に取り出せたほうが利便性は高いという判断をしたということです。しかも、SIMカードはすでに全世界で標準的に採用されているものですから、そこでの汎用性という意味でも可能性が広がるのは間違いないと思います。

ITmedia SIMカードの採用で、国際ローミングのようなサービスも可能になるのでしょうか。

上村 可能性で言えば、ありということになります。SIMカードの仕組みでは本来、3Gだからローミングできるとか、方式が違ったらできないとかではなく、ネットワークに対応したデバイスさえあればローミングは可能です。

 将来的には、通信方式は問われなくなっていくはずです。コグニティブ無線やSDR(Software Defined Radio:ソフトウェア無線)などと呼ばれる技術の研究が進んでおり、デバイスが通信方式に縛られず、そのとき利用可能な最適なネットワークを使えるようにするという世界に向かって進んでいます。将来はXGPだったり、3Gだったり、あるいは4Gかもしれませんが、それらの方式を時と場合によって使い分けるという流れになるはずです。こうなった場合は、SIMカードのような共通のIDが必要になると予想されます。今回SIMカードを採用したのには、こうした背景もあります。

ITmedia UQコミュニケーションズは、将来的にはMVNOによるサービスやサードパーティの通信機器を主力にしていく方針のようですが、XGPの場合はウィルコムブランドのサービスが主力となるのでしょうか。

上村 もちろん、MVNOにもXGPは使っていただきたいと考えていますが、MVNOだけにお任せするのではなく、自社ブランドでのサービスを中心に据えることになると思います。自社サービスとMVNOを並立させるモデルは、現在のPHSから変わりありません。ただ、例えば機器と通信料金をセットで提供する専用のサービスなど、新しい提供形態については、それに応じた商流が形作られてくるだろうとは思っています。

 通信機器については、現時点ではXGP事業者が世界で当社だけなので、当社から切り離す意味があまりないというのが現状です。ただ、将来的に例えば他国でXGPが始まった場合、法令上の問題がクリアされていれば、当社が提供する端末以外でも使えるようになるということはあり得ると思います。

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