現実空間に電子情報を重ね合わせるAR(拡張現実)の技術は、iPhoneアプリ「セカイカメラ」の登場以来、日本でも注目が高まっている。同アプリは、カメラの映像に重ねて表示されるエアタグ(空間に浮かぶ電子付せん)を、ユーザーが見たり投稿したりできるサービスだ。
本企画「サイエンスフューチャーの創造者たち」では、モバイルARの世界で日本をリードする頓智ドットの井口尊仁CEOとさまざまなジャンルのトップランナーとの対談を通じて、AR、そしてインターネットやモバイルの未来を探っていく。今回は恋愛ゲームとして大反響を巻き起こしたニンテンドーDS向けゲームソフト「ラブプラス」のプロデューサー、内田明理氏との対談をお送りする。
ラブプラスは“告白して恋人になった後”がメインに据えられた恋愛ゲーム。「高嶺愛花」「小早川凛子」「姉ヶ崎寧々」の3人のキャラクターのうち一人と恋人になり、デートやコミュニケーションが楽しめる。機能面では、DSの内蔵時計で現実の時間とゲーム内の時間をリンクさせる「RTC(リアルタイムクロック)」が大きな特徴。「現実を浸食する」(内田氏)という同ゲームのコンセプトに多くの日本男子が“虜”になり、キャラクターとのデートをアウトドアで楽しむ「エクストリーム・ラブプラス」など、単なるゲームの枠を超えた現象を巻き起こした。
ラブプラスが世に出たのは、2009年9月と偶然にもセカイカメラのリリースと同時期だ。都内では「姉ヶ崎寧々参上」と書かれたエアタグが同キャラクターのファンにより大量投稿されて話題になった(関連ブログ)。さらに、ヒロインたちが飛び出す「ARカード」を使ったイベントも企画されるなど、ラブプラスとAR、ラブプラスとセカイカメラの縁は深い。
――本日はよろしくお願いします。
井口氏 実は内田さんとは以前からいろいろと意見を交わさせていただいていますが、今回の対談の主旨が“テクノロジーを使って夢や野望を実現しようとしている人と議論して、いろんな可能性を探る”ということで、改めてお話ししたいと思っています。
内田氏 業種を超えて議論するという主旨には共感します。というのも、今のゲームクリエイターはファミコン時代のクリエイターと違って、自分の源泉が“ゲームそのもの”になってしまっている。近年は新規のIP(知的財産:オリジナルのゲームタイトル)が出にくいとよく言われますが、そもそもゲームで表現したかったことが形骸化している節があります。「RPGには魔法屋がなくちゃいかん」といった形式がまずありきで、ユーザーもそうした形式美に囲まれた環境に慣れてしまっている。ときどきそれをひっかき回す人がいてもいいと思っているんです。
あと、僕の手掛ける作品はゲーム、エンターテインメントにカテゴライズされるものですけど、“おもちゃを作る”とか“最新技術を見せる”という意識では取り組んでいなくて、ひたすら「面白そうなことを考えている」だけなんです。コンテンツは本来、異なるジャンルを横串で結びつけてくれるもので、カテゴリーで区別しなくてもいいんじゃないかなと思いますね。ラブプラスはDS向けソフトとしてコンシューマーに届けましたが、もっといろんな広がりがあり得るものです。それこそ、インフォーグ(※1)のような世界に存在してもいい。
井口氏 愛花や凛子や寧々さんがインフォーグのような存在になる!?
内田氏 そうです。TwitterのBOTなんかインフォーグの先駆的なものですよね。携帯のエージェントサービスのキャラクターみたいな存在になってもいい。そして、そこには必ずしもエンターテインメント性が要求されるわけではないと思うんです。そういう区別はなくてもいいのかなと。
井口氏 ラブプラスってパッケージとしては生粋のゲームですけど、「姉ヶ崎寧々参上」エアタグとして話題になったり、エクストリーム・ラブプラスの現象が起きたりと、ゲームの枠を超えた社会現象みたいなところがありましたよね。こうした展開は予想していたんですか?
内田氏 そういったリアクションを起こす人がいるかもとは思っていましたが、それがどれくらいの規模で起きるのかは想像できませんでした。
井口氏 ある意味、内田さんの壮大なボケに、総ツッコミがあった(笑)
内田氏 そうですね(笑)。やっぱりラブプラスを楽しんでいただいてる方って、笑いのセンスが高い方なんだと思います
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