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» 2012年07月19日 22時16分 UPDATE

SoftBank World 2012:CAの業務を変えた6000台のiPad、成功のカギは“iPadの導入を目的化しないこと”――ANAの林氏 (1/2)

キャビンアテンダントの業務改善を図るべく、6000台のiPadを導入したANA。導入を成功に導いたのは、“iPadの導入を目的化せず、必要とする業務改革の実現に最適なツールを選択する”という姿勢だった。

[柴田克己,ITmedia]
Photo 全日本空輸、業務プロセス改革室開発推進部主席部員の林剛史氏

 近年、競争が特に激化している業界のひとつとして「航空業界」が挙げられるだろう。羽田空港(東京国際空港)における国際線就航数の増加、多数の格安航空会社(Low Cost Career:LCC)の本格的な市場参入といった市場の変化は、伝統ある航空会社に対しても、旧来の体質や業務プロセスの変革を迫っている。

 1952年に設立された全日本空輸(ANA)は、226機の航空機、1万2700人を超える従業員を抱え、長年にわたり国内外へと移動する人々の空の足として親しまれている。同社では、2012年4月に、同社機に乗務するキャビンアテンダント(CA)の業務改善を目的として、6000台のiPadを導入。本格的な運用を開始した。

 7月11日に開催された「SoftBank World 2012」で講演を行った、全日本空輸 業務プロセス改革室開発推進部主席部員の林剛史氏によれば、「世界の航空会社におけるiPadの導入例はいくつかあるが、全CA規模での導入は恐らく世界初の事例」だという。

目標はCAの「スキル向上」と「迅速な人材育成」

 航空業界の競争が激化する中、ANAでは今後の事業計画として、2013年までに国際線事業を20%伸ばすという目標を掲げている。国内外に競合がひしめく市場状況で勝ち残るためには、「経営基盤の強化が急務」であると林氏は言う。

 「航空業界の生産性を図る指標として、1座席を1キロ運ぶ際にかかるコストを算出した『ユニットコスト』と呼ばれるものがある。ANAのユニットコストは、現在約13円。これに対してアジア圏の競合であるシンガポール航空などは、これよりも5円以上安い評価をされている。さらに、LCCの中にはユニットコスト評価で4分の1以下のところもある。ANAがこれらと戦っていくためには、従業員の生産性向上を軸とした経営基盤の強化が火急の課題となっている」(林氏)

Photo ANAによるiPad導入効果は主にマニュアルの電子化による業務効率の向上と教育プログラムの合理化に集約される

 この課題に向かうにあたって、客室乗務員であるCAにおいては、1人でさまざまな路線や乗務機種に対応できる「マルチスキル」の獲得と、より高いスキルを持ったCAの「迅速な人材育成」が求めてられているという。しかしながら、CAの旧来の業務や教育のプロセスには課題も多く、その変革を目指した結果、iPadの導入が進められたとする。

 例えば従来、CAは乗務する機種ごとに用意された紙の乗務マニュアルを携行していた。このマニュアルは頻繁かつ大量に内容の改訂が行われ、その差し替え作業は2カ月に1回、CAが自身の手作業で行っていた。マニュアルの差し替え部分に書き込みなどを行っていた場合には、その内容の転記も行う。1人あたり1〜2時間をかけた作業になっていたそうだ。

 iPad導入後には、このマニュアルがすべて電子化され、改訂分の更新作業もクラウドを通じて自動的に行われるようになった。これによって、業務負荷の低減だけでなく、マニュアルの印刷に利用される紙コストの大幅な削減が実現。また、乗務前のブリーフィング(乗務員によるミーティング)での情報検索効率なども向上したという。

 また、人材育成の面では教育プログラムのより効率的な実施が求められていた。林氏によれば「国際線のビジネスクラスでサービスを行える水準の高スキルを獲得するまでには、これまで3年ほどの期間がかかっていた」という。iPad導入以前の教育プログラムの中心となっていたのは集合研修だった。そのため、研修に参加するためには乗車業務はできず、研修で学んだ業務動作なども、頭の中でイメージしながら実乗務の中で繰り返し、「実地で覚える」スタイルが主流だったという。

 iPad導入後における教育プログラムの大きな変化は、「動画教材」を利用したリピート学習が容易になったことだ。教育を受けるCAは、必要に応じて必要な業務動作を繰り返し動画で見て、自習を行うことが可能になった。また、訓練後の振り返りなども動画で行えるようになったという。さらに、乗務の合間にも学習を行える環境が用意されたことは、集合教育の質を高める結果にもつながっているとする。なお、各自のiPadによる学習履歴については、一括して確認することも可能になっている。「従来3年かかっていた教育期間を、2年に短縮することができる」(林氏)

 そのほか、従来は紙に記入し、乗務終了後に地上でシステムへと入力し直していた「業務レポート」もiPadを利用して機内で直接入力可能とすることで効率化を図った。これにより、業務効率の向上に合わせて、レポートの質の向上も見込めるようになった。

 iPad導入による、これらの業務効率向上、業務プロセス改善の実施によって見込めるコスト削減効果は、紙の削減コストも含めて「約4億円規模」(林氏)にのぼるという。

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