聞くべき意見とそうでない意見の見分け方発想をカタチにする技術

人に意見を求め、それを聞くのは大切なことです。しかし、それで面白さが薄まってしまうような場合はどうすれば良いでしょうか?

» 2014年02月27日 11時00分 公開
[吉田照幸,Business Media 誠]

集中連載『発想をカタチにする技術』について

 本連載は、2013年11月14日に発売した吉田照幸著『発想をカタチにする技術 新しさを生みだす“ありきたり”の壊し方』(日本実業出版社刊)から一部抜粋、編集しています。

 どんな会社でも、面白いことは始められる! あの「サラリーマンNEO」を生み出し、「あまちゃん」を担当した異色のNHKディレクターの仕事術!

 面白いアイデアを思い付いても、それを伝えて思惑通りに実現していくのはなかなか難しいもの。ともすると「前例がない!」「そんなのできない!」という声にかきけされてしまいます。

 そんな中で、会社からも多くの人からも認められるものを作るには「きちんと人に伝えること」「自分の意思を通すこと」でも「独りよがりにならないこと」が大事です。

 さらに、そのアイデア自体が画期的であれば、一番です。本書では、30代まで芽が出ず退職を考えていたという、異色のNHKディレクター吉田照幸氏(2013年9月よりNHKエンタープライズ)の番組制作での経験を交えながら、尖っているのに愛される企画の作り方や通し方、アイデアの発想法などを紹介します。


 企画の面白さが見えてきたら、次は肉づけしていく段階に入ります。

 ここで大事なのは、

「人の意見をフラットに聞く」

 ことです。

 「ハッ」としたものをつかまえるためには、先入観なく人の話を聞くことが大事です。そのために必要なのは(しつこいようですが)、自分から離れることです。そうでないと、自分が欲しい言葉だけ聞いて、そうでないことにフタをしたり、自分が聞きたい言葉を聞けるような質問をしてしまいがちです。

 それ、意味ないですよね。アドバイスとは、自分が見つけられないことを、見つけてくれる言葉です。きちんと受け取るためには、自分を脇に置いておいたほうがいいのです。

 もう1つ大事なのは、相手を選ぶことです。僕はアイデアや台本がある程度カタチになったところで、身近な人に見せます。自分に遠慮しない人。その分野で素人の人。すると、面白いとか、ここは分からないとか、ここは長いとか、至極単純な感想が返ってきます。

 プロなら、ここを直すといいとか、「そもそもこのネタって……」みたいな話になり、続けて、「俺だったら、こうする」みたいな話になります。ほぼ論理的な展開です。プロのスイッチが入った瞬間、その人は自分の力を証明するモードに入ってます。そこでは、有用なアドバイスは期待できません。

 目安として、こんなふうに考えても良いのかもしれません。

  • 専門家と素人が両方面白いと言ったもの → やるべきアイデア
  • 専門家が面白くて、素人が「面白くない」と言ったもの → やらないほうがいいアイデア
  • 専門家が面白くなくて、素人が「面白い」と言ったアイデア → 研究すべきアイデア

 なお、意見を求めるときに気をつけたいのは、

 質問はシンプルに

 前置きはいらない

 ということです。

 「面白い部分は?」「印象に残った場面は?」「退屈に感じた部分は?」などとシンプルに質問しましょう。

人の意見を上手に取り入れる

 くどくどとした前置きは必要ありません。そもそも前置きを言うときは、心の中で自己弁護が作動している状態です。自分の望む答えを欲しがっています。シンプルな質問のほうが、聞かれた人も素直に自分の考えていることを言えるので、相手の感情を引き出しやすいのです。

見つけた面白さを薄める意見はカットする

取り入れるべき意見と、そうでない意見の考え方

 周りの人の意見を聞くほうがよい、といっても、その全部を取り入れると、もともとの良さが失われてしまいます。例えば、自分の考えた面白さを薄める意見は、カットしたほうが良いでしょう。

 NEOの内容に関する会議では、「働く人全体に広げたら」という意見も出ました。職人さんとか、目立った職業の人も登場させたほうが広がるのではないか、という話です。でも、その意見は広げて薄めているだけ。「サラリーマン」だからアイロニーが出てくるんです。本質を表現するための意見ではないので、カットです。

判断に迷ったら、「何がしたかったのか」に立ち返る

 連続テレビ小説「あまちゃん」の1シーンの話です。その台本には、失恋したアキが自転車で堤防から落ちる、と書いてあります。堤防から落ちるといっても、どう落ちるのか? これを考えるのが監督の仕事です。ロケは冬。堤防はかなりの高さ。実際に落ちるのは不可能です。

 では、合成にする。そこで3つの選択がありました。

  1. 堤防が切れたところで落ちる(現実にやるとこうなります)
  2. 堤防の高さでそのまま進み、落ちる
  3. どんどん高くなり、落ちる

 合成でリアルを目指しても勝ち目がないので1は却下し、2と3をVFXチーム(映像を加工するチーム)に作ってもらうことにしました。この時点でぼくの気持ちは半々でした。

 出来上がったものを見ました。思わず大笑いしました。もちろん3です。僕の想像を超える高さから、いい感じの加速度で落下。僕が笑うのを見て、担当者(少々変なベテラン)は、にやりとほくそ笑んでました。

 衝撃的な映像です。朝ドラ史上起こりえない映像です。これしかないと思いました。しかし……これを見たほかのスタッフからは反対されました。やりすぎじゃないかと。

 ここでムキにならずに、離れて考えます。

 反対した人のほとんどは、朝ドラ経験者。その経験から「やばいんじゃないか」と判断しています。視聴者からの「自転車が飛ぶわけねえだろう!」的なツッコミ、NHK頑張っちゃってすべってる的なイタさ、次のディレクターにとって流れが難しくなる、といったプロならではの判断など。それぞれ正当な理由です。「2でも、そんなに面白さは変わらないんじゃないのー」という誘い文句に心も揺らぎます。だって本人もちょっとやばいかなー、やりすぎかなーって感は否めないわけですから。

 そこで、俯瞰してみてみます。この状況は、1つの決定に対して、それぞれがいろんな判断基準で考えています。リスク管理、過去の経験、自分の担当、そして僕は面白さ。このまま話していては、混乱します。

 そこで問います。単純に見て面白いのはどれか?

 ほとんどの人が3の高いところから落下する映像、と答えるでしょう。ならば、迷うことはありません。面白さ(直感)に従うべきです。だって面白いものを作ろうとしているのだから。

 不安になるとすぐ可能性を広げようとします。

 でも、その瞬間、見えなくなってすべて終わってしまう。

 あなたが見つけた「面白さ」「新しさ」って何でしたか? その地点から引いて考えたら、聞くべき意見と、聞かなくていい意見って見えてきます。

 あ! ちなみにこの映像を見た「あまちゃん」ヒロインの能年玲奈さんからは、「飛ぶんだったら違う演技をしたのに!」と言われました。最初から見えてなくてごめん。

今回のPOINT

「面白さ」の本質を伸ばす意見だけ、取り入れる


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