KDDIが昨年12月にスタートした定額制パケット通信サービス「1X WIN」(2003年10月の記事参照)。その通信方式は「CDMA 1x EV-DO」と呼ばれる。インターネット型のパケット通信に特化することで、最大2.4Mbpsの速度でありながら定額制も可能とするなど高い柔軟性を持った通信方式だ(2003年1月の記事参照)。
1X WINのスタートによりEV-DO導入は一段落。しかしEV-DOの技術進化が止まったわけではない。クアルコムジャパンでEV-DOを担当する前田修作ビジネス開発担当部長は、「今年の目玉はマルチキャスト」だと話す。
EV-DOマルチキャストとは、EV-DOブロードキャストと言われることもあるように、1対1の通信ではなく1対多の通信のこと。EV-DOでは、基地局からエリア内の複数のユーザーに、同じデータを一斉に送信することを指す。
最大のメリットは、利用する周波数幅が極めて少なくて済むことだ。通信で送れる情報量は、利用できる周波数幅とS/N比(ノイズに対する信号の強さ)によって決まる。1対1の通信が前提の携帯電話の場合、周波数や時間をユーザーごとに分けたり、ユーザーごとに異なる符号を付けて混ぜて送信したりしている。周波数という資源を、ユーザーの数でシェアしていたわけだ。
これがマルチキャストならば、受信するユーザーが何人でも利用する周波数幅は変わらない。言ってみれば、テレビやラジオの放送のようなものだ。
この技術の導入によって、どんなことが可能になるのか。すぐに考えつくのが、テレビ放送のように携帯の基地局から動画を配信する──といった使い方だ。しかし前田氏は「テスト中だが、スピードはおそらく300Kbps以下」だと言う。リアルタイム動画配信に使うには微妙なスピードであり、マルチキャストの本命はここではない。
技術面は後述するが、EV-DOマルチキャストは、通常のEV-DOとダイナミックに組み合わせられる。そのため、状況に応じて最適な通信方式を使うことができる。
例えば、「1つの基地局の下にユーザーが3人までだったらEV-DOで送信し、それ以上多かったらマルチキャストを使う」(前田氏)といったことも可能になる。
ここで、KDDIがサービスしている蓄積型動画コンテンツ「EZチャンネル」の真意も推測できる。というのも、これこそマルチキャストに最適なサービスだからだ。
マルチキャストは全員に同じデータを一斉送信するため、ビデオ・オン・デマンド的な使い方には向かない。かといって、流しっぱなしの動画放送も今ひとつだ。ところが蓄積型ならば、マルチキャストのメリットを生かせる。将来、多くのユーザーが同じチャンネルの視聴を希望したら、トラフィックの空いている深夜に、EV-DOの一部をマルチキャストに割り当てて、一斉送信すればいいからだ。
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