PDC時代のN端末は、デザインの流れが一貫して変わらないことが魅力の一つだった。505シリーズから多くの端末がカメラの機能や使い勝手を強調するデザインに流れる中、“携帯らしさ”を頑ななまでに守り抜いてきた(2003年12月の記事参照)。
しかし900iで、そのデザインは大きく変化。折りたたみ型はそのままに、これまでのNとは異なる新しいイメージを打ち出した(2003年12月の記事参照)。
刀を意識したデザイン、なだらかな孤を描くアークライン──。そんな特徴を持つN900iのデザインを担当したNECデザインのデザイナー、松本和也氏に、そのこだわりを聞いた。
やはりデザイン面で一番目を引くのがアークライン。端末を開いたときに、“重なった二つの板が開く”というのではなく、孤を描くような形になるのが特徴だ。
発想の元になったのは、固定電話の受話器。「固定電話の受話器は背中の一面がなだらかな曲線を描くような形になっている。これを携帯電話で再現したかった」。そんな思いつきからアークラインが生まれたわけだ。
「携帯電話も、固定電話の受話器のような形のものがあったら持ちやすいのではないか──。それなのに携帯電話ではそういう手法がないのはどうしてだろう──というところから思いついたのがアークライン」
背面全体が孤を描くような形にするのが理想だったと松本氏。ただFOMAの場合はデザインと共にバッテリーの持ちも最重要課題だった。バッテリーを限界まで小さくしてもバッテリー部分が出っ張るのは避けられなかったため、側面も色を塗り分けてアークラインを表現したという。
アークラインと共にこだわったのは全体からパーツまでを楕円と曲線のイメージで表現すること。そのため「閉じたときには端末が楕円形状」になるようデザインされた。ダイヤルキーが楕円形なのも、そうした理由からだ。
N900iのボディカラーは、スタンダードカラーのシルバーとユニセックスカラーのブラック、ポイントカラーのオレンジの3色がラインアップされる。
シルバーが日本刀をイメージしたデザインというのは既にお伝えしたとおりだが、オレンジとブラックにもそれぞれ由来がある。いずれも「和」の雰囲気で統一されているのが特徴だ。
「ユニセックスカラーは、男性女性を問わず使ってもらえることと、どんなファッションにも合うことを考えてブラックを選んだ。この黒は日本人の黒髪をイメージしたもので、光の当たり具合でつややかな髪の雰囲気が出るようにした」
オレンジでは着物の上品な艶やかさを表現。「着物はいろいろな色があるが、着付けた最後には上品にまとまる。そういう雰囲気を端末に反映させてみた」。閉じた時に横から見たシルバーとオレンジのバランスは、「着物の襟元」を意識したという。
ポイントカラーは、さまざまな色が検討されたと松本氏。「ブルー系も一通り考えたし、小豆色というのもあった」。しかし、最終的には企画段階で「他社が出してない色で、新鮮味を表現できる」ことからオレンジが選ばれた。結果としてはN900iが登場する前に、auからオレンジの端末が次々と出てしまったが、「トレンドがそっちに向かったということ。方向は正しかった」と捉えているという。
そのオレンジも、au端末のつやつや光るものとは雰囲気が異なるアルマイト調だ。「アルマイト調の塗装では従来、オレンジ色というのは存在しなかった。そのため、それに近い手法を使って「オレンジ色でアルマイト調」という質感を出している」
細かいパーツにもこだわりがある。miniSDカードと電源コネクタのフタがアークラインに沿って塗り分けられているのはご存知の通りだが、ほかにも細かい工夫が盛り込まれている。
「例えばカメラリングの内側。ダイヤカットを使っていて、ただ光るのではなく、面がいくつにも折れるように光る。従来の機種では見られない手法」
背面液晶に表示される文字も、端末に合わせたフォントを新たに開発して載せるなど、ボディデザインとの調和を意識したという。
N900iは、「折りたたみデザインの新しい見せ方を表現できた」と松本氏は話す。「Nのイメージはこれから変わっていくのではないか」。
これまで以上に質感にこだわったので、「それが分かる世代、それが映える世代のユーザーに幅広く使ってほしい」と話す。「小学生には、向かないかなぁ。まだちょっと早いだろう、と(笑)」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.