これぞモバイル版インターネット 〜メッシュネットワークの可能性(2/2 ページ)

» 2004年03月15日 00時33分 公開
[神尾寿,ITmedia]
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 現在、メッシュネットワークでは、無線LANと同じ2.4GHz帯(ISMバンド)の電波を使っている。コアチップの大きさも「ほぼ無線LANチップに近い」(児玉氏)という。

 また、ユーザー端末とワイヤレスルータの電波到達距離だが、電波干渉を避けるべく出力を絞った結果、見通し500メートル程度。しかし米国での実験では、車載向けで出力を上げれば見通し5キロ、市街地でも1.5キロがカバーできるという。

 無線通信の事業者免許が得られれば、バッテリー問題のない固定ワイヤレスルータや車載ユーザー端末は高出力で、一方、ノートPCやポータブルデジタル機器向け端末は低出力でバッテリー消費を抑える……といった使い分けもできるという。

Photo (左)メッシュネットワーク接続用の試作PCカード(右)実験車両に取り付けられたメッシュネットワーク用アンテナ(手前の黒いもの)
Photo (左)メッシュネットワーク用のワイヤレスルータ。通信を中継するだけなので、電源さえ確保できればどこに設置してもよい(右)インターネットの出入り口の役目をはたすアクセスポイント。こちらは、電源と通信線の確保が必要

 筆者は、中継局であるワイヤレスルータが移動していてもよい、という部分に大きな可能性を感じた。

 例えば市街地では、バスや宅配便の配送車が定期的に巡回している。高速道路ならばトラックだ。これらにワイヤレスルータを設置し、路上のワイヤレスルータやアクセスポイントとメッシュネットワークを組むようにすれば、エリア整備コストが抑えられる。

 この場合、商用車側はワイヤレスルータ設置の見返りとして、業務用ネットサービスの提供を求めればよい。携帯電話事業者の通信モジュールを使った商用車向けネットサービスだと、ユーザー車両はあくまで「端末」でしかないが、自身がネットワーク拡大に寄与するメッシュネットワークの仕組みならば、柔軟な料金設定が可能だろう。

 この料金設定の柔軟性は、コンシューマーユーザー向けサービスでも期待できる。ユーザー数は多いほどいい、というメッシュネットワークの特性を考えれば、基本料や通信料金は低価格にし、有料のコンテンツやアプリケーションサービスで稼ぐというビジネスモデルも考えられる。また、利用時間の長いユーザーほど価格を割引するという、これまでの発想とは逆の料金プランもありえる。

成功の鍵はパートナー、ビジネスモデル次第

 メッシュネットワークの「相互接続・相互扶助」というコンセプトは初期のインターネットに近い。実は発祥の地も同じで、

 「メッシュネットワークのもとは、米軍が開発し、実戦配備している軍事技術です。砂漠など通信インフラのない地域に展開した部隊が、迅速かつリスク分散型のワイヤレスネットワークが作れるシステムとして開発されました」(児玉氏)

 周知の通り、インターネットもまた冷戦時代、核攻撃に備えたリスク分散型ネットワークとしてひな形が作られた。メッシュネットワークは、まさに「ワイヤレス版インターネット」である。

 このように期待がふくらむメッシュネットワークだが、今すぐ商用化できるわけではない。

 伊藤忠商事と、メッシュネットワークの特許と基礎技術を持つ米MeshNetworksは、キャリアやハードウェアメーカーではない。そのため、コアチップの製造・販売を行うハードウェアメーカー、エリア整備やサービス提供を行うサービスプロバイダー、通信インフラ上のコンテンツ提供を行うコンテンツプロバイダーなど、多岐にわたってパートナーを探している。技術的には完成しているが、実際にメッシュネットワークが商用化するには、少なくとも通信インフラの整備・運用を行う通信サービスプロバイダーと、本格的なコアチップ製造と端末開発を行うメーカーが集まらなければならない。

 さらにメッシュネットワークが成功するには、インターネットのように多くの事業者やメーカーが集まり、一部の企業に偏らない通信インフラになる必要がある。例えば自動車メーカーなら、A社が採用するならライバルのB社は採用しないという事態になったら、「中継」という相互扶助に強みを持つメッシュネットワークの特長が活かされない。

 筆者はメッシュネットワークのコンセプトや仕組みが、期待できるものだと考える。それだけに伊藤忠商事や、今後集まるパートナー企業には、ユーザー本位のモバイル版インターネットになるよう大事に育ててほしいと思う。

神尾寿

通信・ITSジャーナリスト。IT雑誌契約ライターを経て、大手携帯電話会社の業務委託でデータ通信ビジネスのコンサルティングを行う。1999年にジャーナリストとして独立。通信分野全般に通じ、移動体通信とITSを中核に通信が関わる分野全般を、インフラからハードウェア、コンテンツ、ユーザーのニーズとカルチャーまでクロスオーバーで見ている。ジャーナリストのほか、IRICommerce and Technology社レスポンスビジネスユニットの客員研究員も努める。

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