携帯電話のカメラが高機能化するにつれ、「盗撮」の問題もまた、深刻度を増しつつある。そんな中、極めてアナログな方法で、盗撮を防止しようと考える企業がある。
既報のとおり、エーアイは携帯電話のカメラ機能を封印する「マナーシール」を開発した。そのものズパリ、カメラにシールを貼って物理的に盗撮を防ごうという発想だ。開発の経緯や、使い勝手などを確認するため、実際にエーアイを訪れて話を聞いた。
カメラ付き携帯による盗撮は、確実に社会問題化しつつある。
駅の階段で、女性のスカート内を撮影する……といった卑劣な行為は言うにおよばず、コンサート会場でのアイドル撮影が肖像権侵害とされるほか、コンビニなどで雑誌に掲載された情報を撮影、保存する「デジタル万引き」(2003年9月の記事参照)なども、問題視されている。企業機密の漏洩をおそれて、カメラ付き携帯の持ち込みを禁止にしている工場、研究所もある(2002年11月の記事参照)。
こうした状況を見て、「何か防ぐ手立てはないか」と考えたのが、エーアイの工場総管理者、田中龍二氏だ。エーアイは、各種シールラベルの印刷物製造を手がける企業。幸い、田中氏は面白い素材を知っていた。
その素材とは、「一度はがすと、それが跡になって残るシール」。もとはといえば、グリコ・森永事件などで異物混入が騒がれた際に、「封印したものを解いたことが分かるよう、開発された素材」(エーアイの代表取締役、秋山一郎)なのだという。これを、盗撮防止に転用してはどうかと考えたわけだ。
田中氏は、アイデアを製品化するにあたり、試行錯誤したと話す。「携帯電話といっても、多くの種類がある。いろいろ試して、現在の形状にいきついた」。
現在はサンプル段階だが、価格は、マナーシールとクリーニング用シールを1枚ずつセットにした商品が、50セットで1セット80円から。1万セット注文すれば、単価は15円に下がる。
同社では、残留物が残らないタイプのシールも用意している。こちらは安価になるが、残留物が残るタイプと比べて、やや判定が甘くなるとのことだった。
秋山氏は、たとえば美術館などで、見学者のカメラ付き携帯に貼ってもらうことなどが考えられると話す。
「入り口で、携帯電話を預かってしまってもいいが、昨今の携帯電話は個人情報なども入って“貴重品”化しており、管理が難しい。入り口でシールを貼って、出口でシールに変化がないか確認すれば、盗撮はなかったと判断できる」
仮にシールに変化があれば、そこで初めて携帯内部のデジタル画像をチェックさせてもらえばいいわけだ。
管理者が望めば、シール1枚1枚にバーコードを印刷して、より厳密に管理することも可能。「シールをはがした後に、別のシールを貼る、といったごまかしも通用しない」という。
秋山氏は、「アナログな防止方法だけに、これを回避することは難しい」と説明する。
「たとえばカメラ付き携帯では、盗撮に配慮してシャッター音を消せないようにする、といった措置をとっている。しかし、Web上では、シャッター音を消すための隠しコマンドや、配線のいじり方などを紹介されているのが現状だ」(田中氏)。技術は、技術で超えられてしまうという。
その点、エーアイのマナーシールは「ローテクなだけに、どうしようもない」と、自信を見せる。製品は、複数問い合わせが入っており、大手企業でも導入が検討されているところだとした。
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