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» 2004年07月29日 13時17分 公開

メタノールを使わない? 燃料電池、多くの「選択肢」

実用化に向けて、開発が進むモバイル向け燃料電池。もっとも、触媒や膜に何を利用するかで、多くの選択肢が考えられる。中には「メタノールを使わない」という選択肢もある。

[杉浦正武,ITmedia]

 燃料電池といえば、現在モバイル端末への搭載に向け開発が進む技術。既に東芝日立NECカシオ計算機富士通などが展示会場で試作機を披露しており、携帯業界ではKDDIが燃料電池搭載の携帯開発に着手したことを明らかにしている(7月14日の記事参照)。しかし、その技術はいまだ発展途上だ。

 たとえば触媒に何を使うか、電解質膜に何を採用するかで、研究者はまだ模索を続けている。燃料電池の製品化に向けて、現在スタンダードになっている“組み合わせ”は下表のとおりだが、新たな物質が取って代わる可能性もある。どのような候補があるのか、一度整理してみよう。

代表的な候補
燃料 メタノール
電解質膜 Nafion(米Du Pont製)
触媒 白金系触媒


メタノールは「危険性」が難点

 燃料電池の基本的な仕組みは、「水素と酸素を化学反応させる過程で電気を取り出す」というもの。酸素は大気中に存在するため、水素を“燃料”として補充すれば発電を行えることになる。モバイル向け燃料電池で一般的になっているのは、メタノールから水素を取り出す「ダイレクト・メタノール方式」(DMFC方式:Direct Methanol Fuel Cells)だ。

 メタノールの利点は、燃料の持つ化学エネルギーを電気に変換する効率が高いこと。理論値では、理想的な環境下で97%という数値をはじきだす。また、合成が簡単で扱いやすく、安価な点もメリット。さすがに一般人が薬局で気軽に購入する……という状況ではないが、規制緩和が進めばさらに入手しやすくなると予想されている。

 もっとも、難点もある。横浜国立大学大学院 工学研究院の、神谷信行教授は「メタノールには毒性があるため、取り扱いを注意しなければならない」と警鐘を鳴らす。

 「燃料として非常に使いやすいが、いくらなんでも口に入れるとまずい。一度メタノールで事故が起きたら、(世間の評価が下がり)燃料電池はいっぺんにダメになる可能性がある。相当気をつけなくてはいけない」

 では、より危険性が低い“代わりの燃料”はあるのだろうか。実際、下に挙げるようないくつかの物質が、燃料候補として取りざたされている。

 イソプロピルアルコールは、消毒用などに使われるアルコール。毒性がないわけではないが、メタノールに比べれば弱い。エチレングリコールも低毒性のアルコールで、車の不凍液などに使われている液体だ。加水分解でメタノールを生成するメトキシ化合物のほか、水素化ホウ素燃料といった選択肢もある。

 神谷教授が注目するのは、ジメチルエーテル(DME)だ。メタノールよりも毒性が低く、圧力をかけると容易に液化する(25℃での飽和蒸気圧が6.1気圧)ため「液体が漏れても、すぐに気化してしまうので安全性が高い」(神谷氏)。

 実際に燃料電池として使った場合、DDFC(Direct DME Fuel Cell)は130度以下でDMFCと同程度の化学反応を起こすことが分かっている。もっとも、「我々は一所懸命研究しているが、(世間一般には)あまり研究が進んでいない」(同)という。

「膜」はNafionでいいのか

 酸素と燃料を隔てる“電解質膜”に何を採用するかも、燃料電池にとって重要な問題だ。現在、市場で一般的なのは米Du Pont製の「Nafion」となっている。

 Nafionの特徴は、高イオン伝導性を持ち、耐酸化性に優れる点。もっとも、神谷教授は「長時間の運転に耐えられない」ことを改善点として挙げる。

 「携帯電話向け燃料電池を考えた場合、(一般の家電製品より買い替えのサイクルが早いため)それほど耐久性を求められないこともあり、Nafionでもいいが、それでもさらに優れた電解質膜がほしい」

 実際、Nafionに取って代わるような膜の研究も進められている。たとえば富士通は、芳香族炭化水素系の電解膜を利用することで「メタノールクロスオーバー」(メタノールが膜を素通りしてしまい、高い出力密度を得られなくなる問題――4月17日の記事参照)を10分の1に低減したとうたっている。

 先日、日本に上陸した米PolyFuelも炭化水素系材料を用いた膜を開発。「Nafionと比較してメタノールクロスオーバーを3分の1に抑えられるほか、4000時間以上の実用耐用試験で問題がないことを確認している」という(5月20日の記事参照)

 ほかにも、耐熱性に優れたポリベンズイミゾダールをベースにした膜や、常温で液体の状態を保った塩である常温溶融塩なども候補に挙がっている。

非白金系触媒の実用化を

 電解質膜の両側に、薄い層として重ねる“触媒”に何を使うかも悩ましい。

Photo 参考図:触媒と電解質膜の関係

 現状、触媒としてスタンダードなのは白金(Pt:プラチナ)だが、白金は高価で資源的に限界があることから、代替物が検討されている。

 もっとも、DMFCでアノード(プラス電極)に採用する触媒としては“白金+第2成分”のかたちをとるPt-Ru(ルテニウム)が一番優れており、まだそれを超えるものはない。カソード(マイナス電極)も、白金を超えるものは出ていない状況だ。

 現状、白金に変わるものとしてTa化合物(タンタル)やポルフィリン系の物質が研究されている段階。もっとも、実用化はまだ先の話。

 NECでは、カーボンナノチューブの1種である「カーボンナノホーン」の表面に白金系触媒を担持することで、触媒粒子がナノホーン表面に細かく一様に分散し、燃料電池の特性向上につながるという研究を行っている。この場合、触媒使用量の低減が見込めるという(2001年8月30日の記事参照)

 神谷教授は、「白金の担持量は、0.1ミリグラム/平方センチメートルにまで低減すべき」と話す。白金に頼らない触媒の発見が、燃料電池の普及に向けた課題となっている。


 かつては夢の技術だった燃料電池も、ようやく実用化が近いところまで来た。

 もっとも、神谷教授は「2年前には複数の企業が『2004年には実用化する』と言っていた。(現状、製品が出てこないところを見ると)どうかなという気はする」と苦笑する。燃料電池の普及に向けて、研究現場では引き続き多くの可能性が探られている。

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