“モバイル”へと向かうWiMAX

» 2005年04月08日 23時29分 公開
[斎藤健二,ITmedia]

 第3世代(3G)の普及が本格化し始め、次第に3.5Gの展開も視野に入ってきた携帯電話。進化の方向性は、“データ通信高速化”と“IP化”である。

 その一方で、コンピュータの世界から始まった通信規格も、急速に“モバイル”へとシフトしている。PC業界で広く普及している無線LAN(Wi-Fi)の次は、WiMAXと呼ばれる規格が本格導入を待っている。

 WiMAXはIEEE802.16とも呼ばれ、Wi-Fiよりも広いエリアをカバーし、最大75Mbpsのスピードを持つ規格だ。Wi-Fi機能を組み込んだチップセット「Centrino」(セントリーノ)で成功した米Intelが、Wi-Fiの次の無線通信規格として後押ししている規格でもある。

 今後、モバイル向け通信技術はどこへ向かうのか。4月7日に開催されたIntel Developer Forum Japan 2005のワイヤレス・ブロードバンド・ワークショップで話された内容から探ってみたい。

Fixed Access〜固定向け無線通信からモバイルへ

 “ワイヤレス”とわざわざ頭に付けることからも分かるように、Wi-FiやWiMAXなどIEEE802で規格化されてきた通信規格は、固定通信に端を発している。ケーブルが要らない、つまりワイヤレスというわけだ。

 WiMAXも当初は、家庭やオフィスをブロードバンドネットワークに接続するための技術として生まれた。イメージとしては、高速で遠くまで届く無線LANである。

 特にWiMAXは、ラストワンマイルへのアクセスに使えるのではないかと期待されてきた。例えば、ブロードバンド環境を家庭に供給するときに、大都市ならばともかく地方では家庭まで光ファイバーを引くのはコストが高い。ここでWiMAXを使えば、ルーラルエリア(地方部)へのブロードバンド提供が可能になると思われている(2003年12月5日の記事参照)

 ところが、この方法は日本では難しいと、ネットワーク機器を扱うルートの真野浩社長は話す。「ルーラルエリアでは確かに光ファイバーよりWiMAXのほうが良い。しかしパブリックセクター(官)がやるならあり得るが、民間がやるにはビジネスモデルを構築しにくい」

 ではWiMAXは何を目指すのか。

 「やはり移動体。802.16eに行くしかない」(ルートの真野氏)

 この意見には、慶應義塾大学の理工学部情報工学科の中川正雄教授も賛成する。「(WiMAXは)モビリティを持ってこないと」

モバイルでの利用目指したIEEE802.16e

 一口にWiMAX(802.16)と呼ばれるが、実はその内容は多岐にわたる。特に注目されるのが、モバイルでの利用を想定したIEEE802.16eだ。

規格名 802.16 802.16-2004(16d) 802.16e
策定時期 2001年12月 2004年6月 2005年9月予定
利用周波数帯 10〜66GHz 11GHz以下 6GHz以下
速度 最大135Mbps 最大75Mbps 最大75Mbps
変調、物理層技術 QPSK、16QAM、64QAM SC、OFDM、OFDMA利用可。MIMO、AAS、STCなど。802.16に加え256QAM、 左に加えSOFDMA
モビリティ 固定 固定/ノマディック ポータブル(歩行速度)、モバイル(時速120Km)
チャンネル幅 20M、25M、28MHz 1.25M〜20MHz 1.25M、5M、10M、20MHz
利用距離(セル半径) 3〜5キロメートル 10キロ以下 2〜3キロメートル
IDF Japan 2005で講演したインテル事業開発本部通信技術担当マネージャー庄納崇工学博士のスライドより。初期の802.16に対して、802.16-2004(16dとも言う)は「802.16と802.16aを統合したもの」(庄納氏)
※SOFDMAとは、Scalable OFDMAの略。サブキャリアの数を可変させ、間隔を一定にすることで安定したパフォーマンスを得る。またマルチパスへの耐性も柔軟にすることができる(
※802.16-2004や16eには、MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)やAAS(Adaptive Antenna System)によるSDMAなど、「802.11nに似た技術が使われている」(庄納氏)
IEEE802.16のプロトコルスタック。赤い部分は16eで追加される機能で、ハンドオフ(ハンドオーバー)などが含まれる

 802.16eは、ハンドオーバー機能を追加したほか、OFDMのサブキャリアをグループに分けて、マルチアクセス(複数人での同時利用)を可能にするOFDMAを採用。「セルラーシステムへ適用させている」(庄納氏)

 つまり携帯電話のような、モバイルに適用可能な技術となっている。実際、WiMAXを使ったモバイル事業に積極的な通信事業者も多い。

 「鷹山や平成電電は(WiMAXを)やってみたいといっている。ワイヤレスブロードバンド推進研究会でも、これからどんどん出てくるだろう。潜在的にやってみたいというところは多い」(IDFで講演した総務省の総合通信基盤局電波部電波政策課検定試験官の塩崎充博氏)

携帯電話「ITU-R」 vs. イーサネット「IEEE802」?

 通信のIP化の流れは確実にやってくる。

 「アナログから狭帯域化、そしてデジタル化。通信技術はこのように進化してきたと言われるが、まだ高度化が甘い」。ルートの真野氏はそう話す。

 携帯電話の通信技術は、そもそもが回線交換で音声を通すことを基本としている。W-CDMAで、IPではなく回線交換を使ってテレビ電話を実現しているのはその名残ともいえる。こうした回線交換を基本とした技術を乗り越えることが、通信の高度化には必要だというのが真野氏の考えだ。

 「回線交換はギャランティード通信(保証された通信)だと思っている人が多い。しかし、保証されているのは“帯域”で、コネクション(接続性)はベストエフォート。輻輳時には接続ができなくなる。逆に、IPはコネクションは限りなく保証されるが、帯域がベストエフォートとなる」

 現在の通信需要は、音声通話からIPを使ったデータ通信にシフトを続けている。W-CDMAやCDMA2000といった携帯電話の通信規格も、HSDPAやEV-DOなどに進化しようとしているが、これらの特徴はIPと親和性が高いことだ。

 IP通信は遅延が起こる課題があるが、回線交換が必要とされるのは真にリアルタイム性が求められる通信──例えば遠隔医療だけに限られるのではないかというのが真野氏の考えだ。「音声通話ならば、300ミリ秒の遅延は許容できる」

 IP化が流行するなら、そもそもがIPベースのIEEE802系の通信規格は、コスト面で有利になる可能性が高い。WiMAXのメリットとしてIntelは「一番のポイントは経済性」だと話す。

 「目指しているのはグローバルスタンダードであり、社会的なインフラとして整備されていくこと。特定地域だけだったり、特定のアプリケーションにしか使えない技術はコストが高くつく。汎用的にすることで、コストの安い社会インフラが作れる」(インテル事業開発本部長の宗像義恵氏)

ITU-R系の携帯電話向け通信規格の進化(左)と、IEEE802系のワイヤレス・ブロードバンド(右)。IDFでのパネルディスカッションで提示されたスライドより

 電話の世界から始まった規格がIP化へと進み、IPの世界から始まった規格がワイヤレスを経て、モバイルへと展開しようとしている。

 こうしたIP化の流れが行き着く先には、携帯電話系の3G、3.5G、4Gと続く通信技術の進化と、イーサネット系のWi-Fi、WiMAX……と続く流れの競合があるかもしれない。「WiMAXは4Gワイヤレス技術になる」と米通信オペレータの幹部は話す(3月15日の記事参照)。少なくとも、電話技術と無線ネットワーク技術の棲み分けは曖昧になりつつある。

とはいえ、まずはノートPCから

 最終的には、WiMAXは携帯電話向け通信技術と対抗することになるかもしれない。しかし当初は“ノートPCのモビリティを高める”のがインテルの考えだ。

 「WiMAXのチップセット(Rosedale)を、ノートPC用に2006年から2007年の前半には導入できるよう計画している」(Intel Technology Group John Roman氏)

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