「こんにちはマイケル──」。約20年前に初放映された「ナイトライダー」を覚えている人も少なからずいるだろう。
主人公の愛車「ナイト2000」に搭載されているコンピューター「KITT」は、会話はもちろん自動運転もこなす。ハイテク自動車の夢の形だ。しかし、仕組みこそ違えどその一端は、すでに実用的な形で実際の車に搭載されてきている。
昨今のカーナビは、“対話形式”で操作できるものが増えつつある。対話する相手は機械ではなく、携帯でつながった先の人間のオペレーター。本当の会話でナビを操作できるというわけだ。
これまでのカーナビの目的地選択には多くの問題があった。まず、入力が面倒くさい。十字キーで住所を入れていくのは手間もかかる間違いも発生する。各社のカーナビが音声認識機能を搭載していることからも、十字キーによる操作の難しさが分かる。
そして、明確ではない目的地を探すのはかなり難しい。
これが相手が人間になると当然優秀になる。行きたい住所を告げるだけでいいわけだし、多少略して話しても、うまく理解してくれる。かなり適当なリクエストでも、オペレーターがうまく具体的な目的地に落とし込んでくれるので、複雑な操作法を覚える必要もない。
こんな有人オペレータを使ったサービスに、関心を持つメーカーは多い。トヨタは新型の「G-BOOK ALPHA」で内蔵通信モジュールを使ったオペレータサービスを提供(4月14日の記事参照)。「AirNavi」など通信カーナビの実績のあるパイオニアも、「有人サービスは高い評価を受けているので、検討している」としている。
そんな中、有人オペレーターを使ったサービスで先行しているのが日産のカーウィングスだ(2004年10月6日の記事参照)。数日間、「フーガ」を借りて実際に利用してみた感触をお伝えしたい。
車に乗り込んだら最初にエンジンをかける。続いてBluetoothで携帯電話がナビに接続されたのを確認する。では、早速センター部の「オペレータ」ボタンを押してみよう。電話呼び出しの音が鳴り、「はい。カーウィングスオペレーターです」との返事が。
「近くのラーメン屋で、広い道に面した店を探しているんですけど。できればトンコツは避けたいです」
相手が人間だけに、こんな無茶な内容でもしっかり聞いてくれる。
「広い道というのが判断しかねるので、国道沿いのお店を案内します。ラーメンの種類までは分かりませんので、それはご容赦ください」
機械なら「エラー!」とか「もう一度入力してください」と言われるような内容でも、うまく意図をくんでくれるのが素晴らしい。まさに、ホテルにいるコンシェルジェを使っている気分というか、秘書を連れている気分というか。今回はラーメン屋だからいらないが、ついでにお店の予約もしてくれたらいいのに。
ちょっと謎だったのが、オペレータに現在の自車位置までは伝わらないこと。オペレーターに「いまどちらでしょうか?」と聞かれ、ナビ画面を見ながら、「東京駅のあたりです」と答えなくてはならなかった。
結局、近くのラーメン屋はいくつかあったようで、3件の情報がヒットした。
「3件分の情報をお送りします。このあとコントローラー中心のボタンを押してください」
画面には「ダウンロード」の文字が出ている。コントローラ中心の決定ボタンを押すと、目的地情報のダウンロードが開始された。待つこと1分ほど。受信した3件のデータから、良さそうなお店を選んで決定。あとはカーナビが自動的に案内を始める。
気になる料金は新車購入時から3年間無料。あとは通話や通信に使う携帯電話の通話料金がかかる。今回、Bluetooth内蔵端末2機種、ドコモのFOMA「F900iT」とKDDIの「W21T」の2機種で試したが、どちらでも問題なく利用できた。
気になるポイントは、通信が回線交換ベースだということ。特にFOMAでは、テレビ電話などに使われる64K通信を使うため、データ通信の料金が時間単位となり通話の約1.8倍かかる。またオペレータとの音声通話は、長くかかる場合もあるため、料金は少々気にかかる。
カーウィングスのような有人オペレータサービスはまさに画期的だ。月額料金が下がったのに加えて、他社が参入してくることで、ますますサービス品質は向上するだろう。
このサービスはいったん体験してしまうと、普通のカーナビに戻るのがためらわれる。なにしろ、「海に行きたいんだけど……」と言って、行き先を案内してくれるカーナビなんて、まずないのだから。
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