「佐藤氏のコンセプトを形にするためのソリューションはいろいろある。それらを提案した上で、具体化できるのか、量産できるのか、コストに見合うのか──といった点まで佐藤氏と一緒に検討した。インハウスデザイナーや企画・技術スタッフがコンセプトを理解していたのでソリューションも出てきやすく、コンセプトに近づけるための答えを出しやすかった」(富澤氏)
こうした開発過程を象徴するのが、スピーカーの位置だった。最終製品で側面にレイアウトしたスピーカーが、この位置にこの形で置かれるまでにたどった紆余曲折は、既にお伝えしている通りだ(10月3日の記事参照)。
「当初は使い勝手を考慮して開口部を正面に置いていたが、佐藤氏は拒否反応を示していた。その意志は我々にも伝わっており、何とかしたいと思っていたので、部品そのものの開発をやり直した。薄いボディの中に入るもので、かつ横から音を出しても正面から音が聞こえるような部品を新たに作った」(大北氏)
「お客さんが何を欲しがっているのか、どこに注目しているのか──それを物作りの観点からないがしろにしていた部分があったことに気が付いた。今回のコラボで、お客さんが望んでいるところに対する努力が少しやれるようになった」。大北氏はデザイナーコラボによる開発を、こんなコメントで振り返る。「中でも一番大きかったのは、技術者の意識改革ができたこと」(大北氏)
「“ちゃんと使えるか、壊れないかと”いうところは、うちの技術陣が得意とする分野。でも“美しいか”といわれると、技術陣がそこまでの意識を持つのはなかなか難しい」
多くの場合、技術者に求められるのはテクニカルな部分や作りやすさ、コストといったところ。P701iDの場合、技術者レベルで携帯のコンセプトやデザインが持つ意味、そのデザインであるべき必然性までを共通の意識として持ち続けられたところが、これまでとは大きく異なるという。
「携帯業界や技術トレンドの中で生活をしていると、どうしても技術サイドや物作りサイドからものを考てしまいがちになる。ただ、ユーザー側では、我々が考える“お客さんに対してよかろう”“技術的に素晴らしいものだから受け入れてくれるだろう”とは異なるところを要求していたりする。ユーザーの側に立ったこだわりを持ち続けるためには、意識改革する必要があった」(大北氏)
富澤氏はコラボによる開発が、幅広い意味で携帯の原点を見直すきっかけになったという。高機能な端末を短い期間で開発しなければならない上、他メーカーとの競争も激化している携帯電話開発の現場では、できあがった端末とユーザーが求めるものとの間でズレが生じることが少なからずあったという。
「それがいわゆる“業界の常識は一般の非常識”といわれる部分。そこから“携帯は何をするものだったのか、何を求めているから携帯を使うのか”という原点に立ち返ることを今後の開発テーマの1つに掲げている。“見る”“話す”“聞く”“操作”する──。基本的なところで本当に必要なものは何なのかを見直して、今後の携帯に反映させたい」(富沢氏)
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